おかしな女

第1話 プロローグ いじめ

 うざったい先生から体育館倉庫の掃除を任された。

 生徒指導と称して私に嫌がらせをしたいだけであろう。

 結局あのおばさんは性格までも腐って、古臭いというわけだ。


 高校に来るのが少し遅い、たかだか遅刻一つで指導票を切られるなど、正気の沙汰ではない。

 いわゆる保冷剤みたいな女だ。

 いまは、もう、ただのゼリーだ。


 こつこつとコンクリートを叩きながら体育館裏にある目的の場所に移動した。


 吐く息で黄色の雑草を白く染め上げるほど、外は寒い。

 冬服が冬服であるためには、せめてスカートではなくズボンが必要であると思っているのは、私だけではないはずだ。

 黒のタイツのみ履くことを許されているだとかなんだとか、それで人が死んだりしたらどうするんだと、抗議したい。


 どうでもいいか。


 オレンジに染まった寒空の下で、ふと、とあることに気が付いた。


 倉庫のカギ持ってくるの忘れた。


 「やっちまった……あの女、言うついでに渡してよ」


「めんど~」と呟きながら回れ右を決行しようとしたとき、また、とあることに気が付いた。


 倉庫の扉が少し開いている。


 6限目の体育で誰かがカギをかけ忘れたのだろうか。

 いつもなら担任のおっさんが、がみがみうるさくなるだけだが、今回に限ってはナイスと言うほかない。

 嬉々として小走りで近づき、扉に手をかけた。


 数秒後、かけなければよかったと後悔した。

 なにせ、扉の先には女が数名いたからだ。


「いじめだ」と気づくのは一瞬の事であった。


 中にいる女どもの視線が全部集まった。

 言葉に詰まった。倉庫の中にいたのは、クラスメイトの中でも特に嫌みな雰囲気を漂わせるグループだ。


 その中で、一番目立つ女は「うざったい先生」のお気に入りで、たまに遊ぶくらいの仲で。


「おい! 誰だよ、お前!」


 舌を巻いた。この状況で自分を守るために、どのように選べばいいのか、考えながら言葉を。


「お取込み中だったか。ただあのババアから罰として掃除を受け持って」


 それは事実だった。しかし、この場での説明などどうでもよく、ただこの場から逃げ出したかった。


 その後、彼女は私に近づいてきた。

 そして目を細めて私を見てきた。


「……なんだ、あんたか。なんでこんなところに来た?」


「先生から指示されて、倉庫の掃除をするように言われたんだって」


 彼女は得意げに笑いながら「あぁ、ごめんごめん、さっきは動揺しすぎて話を聞いてなかった」と言った。


「ほら、言ったじゃんか? このバカはびびりだって」


 彼女らは笑い声を上げ「そのとおりだ! といっても私らもだけどね!」と叫んだ。


「あー、その、そろそろ先生が掃除しに、ここへ来ると思うから逃げた方が良いんじゃない?」


 私は愛想笑いをしながらそれを見た。


「後始末とかやっとくし。学年集会とか、さすがにごめんだから」


「あ! いいのか! じゃあお疲れ~」


 彼女らは私があけっぱにしていた扉から出て行った。

 先ほどの騒音とは違い、すすり泣く声と服の着崩れを直す音だけが聞こえている。


「あいつらはもう行ったよ。大丈夫? 聞くまでもないか。酷い怪我、見えないところにしかやらないって、最低だな本当に」


 涙でぐちょぐちょになった可愛らしい顔だ。

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百合×監禁「おはよう」鎖のある世界 トリスバリーヌオ @oobayasiutimata

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