第5話
お皿の割れる音で目を覚ました。
起きて、キッチンに向かうとお母さんがお皿をゆかにたたきつけていた。
私のお茶碗だった。ピンクの花のも様は割れてばらばらになって、もうよくわからなかった。
「あんたなんかうまなきゃよかった、あんたなんかうんだから、あのひとはいなくなったし、ほかのひとたちだっていなくなったのよ。子持ちの女なんて、見向きもされない」
おかあさんはうつむいてぶつぶつ言っている。
「朝ごはんならないわよ。はやく出なさいよ、めざわりだから。小学校はただで給食がでるんだからいいでしょう?」
「ただじゃないよ、お母さん、給食ひっていうのをね、はらわなきゃ・・・」
「うるっさいわね!!」
お母さんが投げた何かがおでこに当たってくだける。
私のコップだ。三才のたんじょうびにお父さんにもらった。
そういえば、お父さんがいなくなったのも、三才のころだったっけ。
はへんがほっぺにささっていたかった。
「はやくいきなさいよ、クソガキ!!」
中古で買ってもらったランドセルをしょって外に出ると、きりのかかった町が見える。
このくらいの高さから落ちると、命のきけんがあるのかもしれない。
しんだら、どうなるのかな。
いたくも、こわくも、かなしくもないのかな。
天国におかあさんはいないといいな。
カラスが、ろうかにふんをしていた。
カラスはきらいだ。カラスを見るとおかあさんが怒りっぽくなるから。
学校まで、歩く。
学校では最近、修学旅行と中学校の話ばかり。
私はどっちも行かせてもらえないのにさ。
修学旅行はお金がかかるからだめで、中学校は行かないで働けって。
お母さんのお店を手伝うらしい。
いいなぁ、中学校。
今日のじゅ業は、あんまりおもしろくなかった。
特に国語の時間。
「朝」は「希望」っていうことにもなるんだってさ。おかしいよね。
帰りの会では、前の人からプリントが回ってきた。
「心のアンケート
1.学校生活は楽しいですか?
2.友達はいますか?
・・・
12.虐待を受けていませんか?
(親になぐられたり、けられたり、無視されたりすること)」
そっか、あれ、虐待っていうのか。
もう一まい別にくばられたプリントには、虐待は警察に相談すべきだと書かれていた。
そっか、やっぱりあの人は悪い人だったのか。
自分の子どもは好きにしていいなんて、うそっぱちだったんだな。
下校と中、ある張り紙を見つけた
「君の、君だけの明晰夢」
なぜか、そのはり紙に心ひかれて、のれんをくぐった。
そこからは、あいまいにおぼえているだけだった。
そう、中学生になって、一人ぐらしをして、あさごはんを毎日食べて・・・
たったいま、目が覚めたんだ。
家が燃える音で、目が覚めたんだ。
ほのおのものすごい音の中に、かすかにお母さんの笑い声が聞こえる。
もえさかるふすまを無理やり開けてリビングに出ると、火のついたマッチを両手に持ったお母さんがカーテンに火をつけていた。
カーテンはなぜか濡れたような色をしている。
火は一瞬で燃え広がって、お母さんごと部屋をおおいつくした。
そうだ、夢屋さんが言っていた。もう、夢を買えるだけの未来が無いって。
これが、私の残りの未来。
たしかに、こんなひどい未来じゃあ夢は買えないね。
もえながらお母さんがさけんでいる。
「しんでやる、しんでやるわ!!そうしたら、あのひとも私をすてたことこうかいするはず!!おい、にげんなよ、クソガキ、あんたもしね!もともとあんたのせいなんだから!!」
逃げようにも、もう火はしかいをうめつくすように広がっている。
いきがくるしい、頭がぼうっとする。
それは、まるで夢の中みたいだった。
明晰夢 幽彁 @37371010
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