第4話
何回も、何回も、私は中学校に行った。
たくさん勉強をして、修学旅行にだって行った。
美味しい給食をおなかいっぱい食べた、給食ひもはらった。
プールで泳いだ、ピカピカのスクールバッグで毎日通った。
ぶかつどうもやった。たくさんやった。
下校と中、いつか見たはり紙を見つけた。
「君の、君だけの明晰夢」
のれんをくぐると、よくわからない人が待ち構えていた。
「イラッシャイマセーッ!!」
「あの、」
「イヤー、オキャクサン、ソロソロエンチョウシナイト、朝ガ来マスよ!!
ッテ、アレッ?モウ、ハラエルモノガアリマセンネ?」
「・・・え?」
よくわからない人は両手でめがねを作ると、私に向かって首をかしげた。
「ホラ、ダッテ、モウアナタニハ未来ガ無イジャナイデスカ。ウチハ未来イガイノツウカデノ取引ハ行ッテオリマセンノデ、オキャクサマハモウ夢ヲ買エマセン。」
もう、ここにいられないってことかな。
いやだな、いやだな。
服のすそをにぎりしめて、下をむいた。
床のタイルがゆらゆら、ぐるぐるしてる。あ、くもが歩いてる。
「オキャクサン、ズイブン安イ夢ヲ買ウト思ッタラ、手持チノ未来ガ少ナカッタンデスネ。ウスウス気ヅイテイタンジャナイデスカ?自分ノ未来ノ量ニ」
「・・・うん。そっか、私、もう買えないんだね。そっかぁ。・・・でも、いいや、ありがとう、夢屋さん。おかげで、中学校にも行けたし、目玉焼きも食べられたし、一人ぐらしもできた。もういっぱい楽しんだから、もう、起きる。」
「・・・ソウデスカ。アノ、良カッタラナンデスガ、ボクノ未来デタテカエマショウカ?ア、タテカエルッテイウノハ、オ金ヲ代ワリニハラウコトデ・・・ドウデショウ?セメテ、コウコウセイニナルマデ・・・」
よくわからない夢屋さんは、なんだかあせっているようにみえる。
「いいの、ありがとう」
夢屋さんにめいわくをかけるわけにはいけないよね。
高校生、かぁ。そうぞうもつかないなぁ。大学生より前に高校生ってなるんだね。私、ずっと分かんなかったんだ。
「・・・本当ニ?コウカイシマセンカ?一年分ノ未来デ、十年分ノ夢ヲ見ラレルンデスヨ?高校生・・・イヤ、大人ニナルマデクライナラ、ボクガ・・・」
「いいの。」
「・・・。」
夢屋さんがうでを伸ばして私のほっぺをつねると、
お店に入ってからぼやけていたけしきが急にはっきりしだして、目がくらんだ。
クマのぬいぐるみに、色とりどりのおかしに、おもしろそうな絵本がずらりと並んだ店内は、思っていたよりずっとすてきだった。
夢屋さんは、それこそ高校生くらいの若いすてきな男の人だった。
真っ黒な目がこっちを向く。
泣くのをがまんしたときみたいなしわくちゃな顔だった。
朝はきぼうだなんて先生はいうけど、どうして朝の来る私たちの目には光が無んだろ。まだまだ未来があるって自分で見て分かってるはずの夢屋さんの目はあんなに暗いんだろ。どうしてねむりにつくときの人の目はとろんとして幸せそうなんだろ。
おかしい、おかしいよ。
でも、その答えも知らずに私は死んじゃうんだって。
学校に行ったら、わかるかな。
「・・・では、いい目覚めを」
ノイズのかからない夢屋さんの声は、とても優しかった。
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