13.切り裂き魔は、首を傾げた。



「んー?」



 ニコは、尾行していた賑やかな集団の行動に、首を傾げた。



 男女入り交ざった学生の一団は、三つのグループに分かれて移動し始める。それ自体は、別段不思議でもない。

 問題なのは、目的の人物の動きだ。



 一際派手な恰好をしたターゲットの恋人が、何故か男だけのグループに入っている。何度見直しても、女の姿はない。てっきり途中合流した女子グループの中に、ターゲットがいると思ったのだが。

 当てが外れたニコは、しゃくった顎を指でかいた。



 さて、どうするか。

 このままターゲットの恋人を追い掛けるか。それとも別の方法でターゲットを探すか。




「ねぇねぇ、中継さーん。どっちがいいと思うー?」



 ニコは、近くで気配を消していた中継役を振り返った。



 長い前髪の下で、音もなく眉間へ皺が刻まれていく。



「……お好きにすればよろしいのでは?」

「そうなんだけどー、参考までに中継さんの意見も聞いてみたいのー」

「では、言い換えます。どうでもいいので、適当にさっさと選べばよろしいかと」

「中継さん冷たーい。もっと真剣に考えてよー」

「では、こちらをどうぞ」



 中継役は、ハンカチで包んだものをニコへ差し出す。



 ハンカチを捲れば、先程使ったニコのナイフがあった。綺麗に血が拭い取られている。



「あ、ありがとう中継さーん。とっても助かるー」

「そうですか、それは良かったです。では失礼します」



 中継役は、有無を言わせず離れていった。

 人混みの中へ消えた背中に、ニコは口角を持ち上げる。




「んー、じゃあ、中継さんの言う通りー、適当に選ぼーっとぉ」



 ニコは、持っていたナイフを、ハンカチごと落とした。鈍い音を立てて、地面を転がる。



 ナイフの先端が示した先は、ターゲットの恋人が向かっていった方向。



「よーし、あっちー」



 ナイフを拾い上げ、ニコは鼻歌を歌いながら歩き始める。



 すると。




「ニコッ! ちょっとニコったらっ!」




 唐突に、甲高い声で名前を呼ばれた。




「あ、ミランダだー。やっほー」



 二つに結んだ金髪を揺らして、シークレットゲームの主催者であるロドルフの娘が近付いてきた。背後には、屈強なボディガードが二人付き従っている。



「いい所にいたわっ。ねぇあんた、ヘンドリックを見なかった?」

「ヘンドリックー? それってー、ミランダが今狙ってる男だっけー?」

「そうよ。今日、クラスの奴らとここに来てる筈なの。それらしい赤いロングコートと帽子は何度か見掛けたんだけど、中々捕まえられなくって」



 苛立たしげに爪を噛むミランダへ、ニコは相槌を打った。



「あー、それなら、それっぽい奴が向こうに行くの、俺見たよー」

「本当っ!? 向こうね、分かったわっ」

「でもー、俺もしっかり見たわけじゃないからさー。本当にそいつなのかは分かんないけどー」



 しかし、ミランダには届いていない。学生のわりに発育のいい胸と尻を振りながら、勢い良く去っていった。




 赤いロングコートの青年が、男子学生達と向かった先――とは、反対方向へ。




「よーし。邪魔者排除、かんりょーう」



 うふふー、と口を押さえ、ニコは足を踏み出す。その顔に反省の色はない。

 スキップでもしそうな足取りで、ターゲットの恋人を追い掛けた。



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