11.王女は、脱走に成功する。



「ふぅー……」



 ララ達と揃いのエプロンを付けたリーセロットは、早鳴る心臓を撫で下ろした。

 顔を隠す為に被ったショールを、少しだけ持ち上げる。聖エヴェルス教会周辺に配置された王室親衛隊の隊員を、さり気なく窺った。侍女のふりをして教会から出てきた王女に、疑問を抱いている様子はない。



 リーセロットの唇は、自ずと弧を描いた。上手くいった喜びに、足取りも軽くなる。こんなに簡単に出られるのなら、もっと早くやっておけば良かった、という気持ちさえ込み上げた。

 けれど、ララとメリッサの姿が頭を過ぎると、すぐさま高揚感は落ち着く。




 あの書き置きを見たら、きっと心配するだろう。

 申し訳ない気持ちはある。後ろめたさや、罪悪感も。



 それでも、どうしても我慢出来なかった。



 たった一度でいい。

 王女ではなく、ただのリーセロットとして過ごしてみたかった。

 立場や責任など気にせず、そこいらにいる十七歳の少女として、自由に歩いてみたかった。




 『赤の騎士』に出てくる、リーゼ王女のように。




「……ごめんなさい、ララ、メリッサ」



 ほんの少しの間だけだから。必ず授賞式までには戻るから。



 そう心の中で繰り返し、リーセロットは、赤に塗れた街へ飛び込んでいった。



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