まだ29

ここれさんのお家に友人がやってきました。

中学時代にテニス部でペアを組んでいたかなこちゃんです。

かなこちゃんはいつも女性の真ん中を歩きたがる人で、港区女子ウェイのウォーキング捌きはあっぱれものです。


かなこちゃんはここれさんのお家にやって来ると、やたらとカタカナを食卓に並べたがります。

カプレーゼ、ガレット、ファルシ、ブランダード。

ここれさんはかなこちゃんの作る料理は人生で初めて口にするものばかりですが、かなこちゃんプレートが日本の料理でないことだけは分かります。


かなこちゃんはここれさんが着ている花柄のシャツを見て、幽霊を見たみたいに目をぎょっとさせました。

「それまだ着てるの。はたちぐらいから着てるんじゃない。」

「そう19のときに買ったシャツ、うん気に入ってるの。マリクワの80年代シャツよ。」

かなこちゃんはもう何回も聞いたマリクワの80年代シャツというフレーズにいっさい興味がなさそうにふうんと相槌をうちます。

「19のときのシャツを10年経った今でも着れるのすごいわぁ。」


かなこちゃんはここれさんがよくお昼寝のときに使うブランケットを膝にかけてあっと思い出します。


「あれなんだっけ、ミス、ミセス、なんとかってブランド。」

「ミスパティーナ。今でも買うよ。」

ここれさんはえっへんと誇らしげに言って、「テイラースウィフト愛用のブランドなんだから。」

と続けましたが、かなこちゃんはまたまた渋い顔。

「ちょっと、テイラースウィフトの30歳はわたしたちと同じ30歳じゃないのよ。」


ここれさんはすました顔をして返します。

「ええっ、テイラーだってきっとコンシーラーをのせる場所が増えたり、昔はいくら食べても次の日にはお腹凹んでたのに、とか思いながらニベアを塗って長谷川京子のユーチューブ観ながら眠りにつくと思うよ。」

「ああいう人たちは生まれながらに違うのよ。というより、テイラーなんて聴いてたっけ。」

「ううんちっとも。」

ここれさんとかなこちゃんは目を見合わせます。

「でもパクヒョンシクの30歳と島田くんの30歳は違うね。」

「それは賛同。」

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ここれさん 青生ケイコ @nekotojelly

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