邪魔するしおり

ここれさんは大概のことを本を読むことでなんとかしています。

こめかみのちょっと手前にニキビができたときも、友達が籍を入れた日の夜更けも、なにかと寂しくて自分を安売りしてしまいそうになったときも、お気に入りのミュージシャンのラジオがはじまる前も、本を読みます。


ここれさんは本を読むのが好きですが、なにかと忙しくしていたい人でもあるので、途中でしおりをよく挟みます。

そしてそれを同時に何冊もおこなうので、ここれさんの本棚には読みかけの本がたくさんあります。

どれが読みかけだったか分からなくなりますが、ここれさんはとくに気にしていません。


ここれさんは今日は予定を何も入れないようにしていたので、ベッドとクローゼットの間の隙間にからだをすっぽりとおさめて本を開きます。

するとヤマトの不在伝票が出てきました。

ろくせんと128円。

ここれさんは、はてと首を傾げます。

いったいこれは何を買ったのかしら。

二週間前に買った電球4個はこんなに高いわけがないし、一昨日受け取ったクロエは桁がひとつ足りません。

ここれさんは本を読むのをやめて部屋の中をうろつきます。

ああっ、そうだこれはボディクリームを2つ買ったんでした。


ここれさんは章を一つ読んで、違う本をまた手にしました。

するとハンドメイド作家の名刺が出てきました。

そうだ今日は家にいる予定だけどイヤリングをしよう、と思い立ちます。

ですがお気に入りのイヤリングが見当たりません。

ここれさんは腰を上げてカバンの中、コートのポケット、洗面台を探します。

あれれと部屋を探し回っているうちに、ようやく玄関のところの小棚で見つかりました。


ここれさんはまた違う本を開きます。

すると今度はメモ書きが出てきました。

「19時半集合で」

これはいったいいつの待ち合わせだったかしら。

ここれさんはまた首を捻ります。


ここれさんはそのとき近くにある紙を本に挟む癖があります。

そうして次に本を読むとき、数日前、はたまた数週間前のここれさんがおどかしてくるのです。

ここれさんのしおりは、本の続きを読むのを邪魔してくるのを好きとしています。

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