宙の天使
@tsukishima_hikaru
浜辺のヴィーナス
日本海に突き出た加登半島。袋小路のようなその半島の先端に、鈴江市はある。高度経済成長期には、最果ての地を求めて物好きな観光客が押し寄せたこともあったが、過疎化の波には抗いがたく、今や本州で最も人口の少ない市となった鈴江市は、夕暮れ時ともなればひっそり閑としている。
建売住宅のダイニングキッチンで、星野健二は今しがた夕食を終えて、テレビを観るともなしに観ていた。ニュースキャスターは、午後8時のニュースを伝える。
“
ボイジャー1号は、木星と土星の観測を主目的とする探査機で、NASAによって1977年9月5日に打ち上げられたあと、1979年に木星、1980年に土星の観測を行ないました。ボイジャー1号は所期の観測を終えた後も航行を続け、2013年には完全に太陽系外に進出した初めての人工物となりました。またボイジャー1号は、異星人へのメッセージが吹き込まれたゴールデンレコードを搭載していることでも知られています。
NASAによれば、通信の途絶はボイジャー1号の使用している原子力電池の寿命が尽きたことによるものと思われ、外的な要因や機器のトラブルである可能性は低いとのことです。”
台所では、健二の妻である佳子が、お盆にご飯と味噌汁、焼き魚の乗った皿を乗せている。佳子はそれを持って廊下を歩いていく。
「夕飯時になっても部屋から出てこない奴に、飯を食う資格なんかないだろ。」健二が佳子の背中に向かって呼びかける。
「でも、おかずがのこっていたら片付けられないでしょ。昴がコンビニで変なものを買ってきて食べたら困るし。」佳子がそれに応える。
「だからお前は甘いんだよ。」健二が言う。佳子はそれには答えず、黙って階段を登っていく。健二は諦めてテレビの方に向き直った。
佳子は階段を上って突き当たりのドアまで来ると、食事の乗ったお盆をドアの前に置いた。
「昴、ご飯おいとくからね。あったかいうちに食べなさいよ。」佳子はドアに向かって呼びかけるが、なんの返答もない。佳子はそれを気にする様子もなく、再び階段を降りて行った。
10分ほど経った頃、おもむろにドアが開き、小太りの男が部屋から姿を表した。その足取りは重く、両目は光を失い、生への渇望を失っているようであった。彼は夕食の乗ったお盆を持ち上げると、部屋の中に入り、ドアを閉じた。
30分ほどすると再びドアが開き、同じ男が食べ終わったお盆を持って出てきて、ドアの前に置いた。
星野昴、25歳。健二と佳子の長男であり、また二人の頭痛の種でもある。昴の上には長女がおり、昴は典型的な「一姫二太郎」家庭で育った。
ところが、利発で活発な長女に比して、昴は元々引っ込み思案で、小学校低学年の頃にいた友達も、高学年になる頃には全くいなくなってしまった。学校の成績に見るべきものはなく、運動神経もあまり良くはなかった。
昴は高校を卒業してから、一度は地元の食品工場に就職したものの、すぐに退職してしまった。きっかけは仕事のミスだった。人見知りのする昴は、職場でも始終浮いた存在だった。そのために、他の人と同じようなミスをしても、自分の方がよりきつく叱り付けられることが多々あった。いつからか、彼が職場における共通の敵であるような雰囲気が醸成され、同僚が自分のことを噂している場面にも出くわすようになった。次第に昴は仕事に身が入らなくなり、日曜日の晩にはろくに寝付けなくなった。寝不足によりミスも多くなり、それによって職場における敵意が増すという悪循環に陥った。そしてある日、昴は完成品の入ったバットをひっかけて落としてしまった。その時、現場監督が昴に言った一言が忘れられない。
――頼むから、もう何もしないでくれ。
現場監督が昴にそう言ったのは、その一度きりだった。だが、昴の心の中には、何度も現場監督の顔が現れて、昴の心をさいなんだ。そして現場監督の言う通り、昴は「何もしない」生活をはじめたのだった。
それ以来、昴は自分の部屋に引きこもるようになった。両親は彼が仕事をやめた最初の頃こそ、彼が社会に復帰できるように色々と心を砕いたけれども、今では昴を部屋に引きこもるままにさせている。
ただ、不器用さだけが、昴が引きこもりになった原因ではない。大多数の人間は、多かれ少なかれ欠点を抱えながらも、それに上手く折り合いをつけて生きているものだからだ。
昴が引きこもりになった根本的な原因は、彼の高慢な性格にあった。昴は、テレビやネットで聞きかじったことだけで、世の中を知った気になっているし、会話をするときは、まるでその筋の専門家であるかのような口ぶりで話す。昴を助けようと厚意を持って彼に近づいた人も、昴の居丈高な態度に辟易して、最後には愛想をつかしてしまう。
この虚栄心は、彼の劣等感に起因していた。昴は自分では意識せずとも、常に友達のいない不安や寂しさに苛まれていた。その漠然とした不安から身を守るために、昴は自分には人には認知されていない才能があると考える習慣がついたのである。この習慣には、昴の心の痛みを一時的に和らげる効果があったが、一方で深刻な副作用もあった。「本気になった俺はすごい」と繰り返し考えていると、本当に自分は優秀な人間であるように思えてくるのである。自然と他人を見下すようになり、テレビに出てくる芸能人を批評したり、ネット掲示板に一端のコメントを書いたりする。仕事も、自分の「技能」を必要とする、特殊なものでないと満足できない。そうでなければ、「俺はこんな平凡な仕事をしているような人間ではない」と思ってしまう。けれども、誰も昴の心の内を覗くことはできないから、周囲からは単なる「社会不適合者」で片付けられてしまう。
昴自身はというと、自分が社会に適応できないのは、自分の性格に問題があるからだとは考えていなかった。昴はその原因をむしろ、周囲に求めていた。例えば、自分が社会に埋もれているのは、周囲が自分の持っている能力を適切に評価してくれなかったせいだと考えたりした。
確かに、生まれ持った素質や、家庭環境が、その人の人生をある程度左右するのは避けられない。けれども、自分の力で道を切り拓いていけるという考えを放棄してしまうと、世間はただ無味乾燥で不条理としか映らなくなってしまう。
それもあってか、昴は「異世界転生」のライトノベルを愛読していた。全くの新天地に羽ばたき、そこで自分の能力を開花させる物語は、昴の心を捉えて離さないのだった。
夜中の2時頃、昴はコートを羽織り、小さなダンボール箱を持って外に出ていく。佳子は昴が階段を降りてくる足音で目を覚ましたけれども、顔をしかめるだけで止めようとはしない。
昴は引きこもりとは言っても、完全に家の外に出ないわけではなく、時折コンビニに出かける。ネットオークションで落札された商品を発送するためだ。昴は、両親から不要になったものをもらってオークションサイトに出品していた。それは昴にとっては単なる小遣い稼ぎではなく、自分は世の中に役立っているという感覚を得る目的があった。結局のところは、親から金をせびっているのと一緒なのだが、昴はオークションへの出品作業や発送作業を自分の「仕事」とみなしていた。自分はちゃんと生産活動をしている、自分はただのニートではないと思いたかったのだ。
彼が深夜を選んで出かけるのは、彼の生活が昼夜逆転していることに加えて、外で近所の人に鉢合わせすることがないようにするためである。だが、この時間でも毎回顔を合わせなければいけない人間がいた。コンビニの店員である。昴は特に、「香山」という店員を毛嫌いしていた。香山は、大抵深夜のシフトに入っていた。昴が入店しても「いらっしゃいませ」の声も掛けないばかりか、昴のことをジロジロと見てくる。昴が引きこもりであることを見抜き、昴を見下しているように昴には思えた。この日も、昴が差し出した荷物を受け取りこそするが、手続き中に一言も言葉を発しなかった。
ただ、昴の香山に対する憎しみは、香山に対する羨望の裏返しでもあった。というのも、香山にはコンビニバイトという「居場所」がある。昴は、顔にこそ出さないが、周りで働いている人間すべてが羨ましかった。なぜなら、彼らには職場という居場所があり、必要があればそこから人間関係を発展させていくことができるからだ。一方の昴には自分の部屋以外の居場所はなく、両親以外になんの人間関係もない。友人や恋人、夫婦といった、より高次な人間関係を築いていくことは、昴にはもはや想像すらできなかった。
集団の中で働くことが難しいのなら、一人でできる仕事を探せばいいと言う人があるかもしれない。だが、居場所も人間関係もない生活というのは、暗闇の中を何の手がかりもなく進んでいくようなものだ。前後不覚の中で、一歩を踏み出すのは並大抵のことではない。昴の足がすくむのも、無理のないことだ。
コンビニで荷物の発送を終えると、昴は近くの海岸に足を伸ばした。昴は近くに落ちている平べったい石を拾い、回転をつけて海に向かって投げた。石は海面で一度だけ跳ねて、海の中に沈んでいった。
「ちぇっ。」
同じことを昴の父親である健二がやると、最低三回は跳ねる。七回くらい跳ねたこともある。
水切りが象徴するように、昴の父親である健二は、あらゆる方面で昴を上回っていた。少年時代の健二は成績優秀で運動神経も抜群、クラスの人気者でガールフレンドにも事欠かなかったという。
昴はよく「昴君のお父さんって格好いいね。」と、従兄弟や、幼少期にいた数少ない友達に言われたものだった。そう言われて、少年時代は誇らしかったが、成長するにつれ、その言葉をかけられるのが胸糞悪くなった。相手にとって、自分はあくまで「健二の息子」でしかないのだから。
何か一つでもいいから、父親を言い負かせるような長所が欲しかった。あるいは、自分は父親とは完全に別種の人間であるという証明が欲しかった。
だが、神様は無慈悲にも、父親をしのぐどころか、平均より劣るような素質しか昴に与えなかった。少なくとも、昴自身はそう考えていた。
何をやったところで、自分の人生は、親父の人生の下手な焼き直しでしかない。いつしか昴は、自分の人生に意味を見出すことができなくなった。
昴は浜辺に座り込み、足を前に投げ出すと、後ろにのけぞった体を支えるために、後ろに手をついた。その時、昴の手に激痛が走った。
「いたっ!」
見ると、左の掌に、スッと傷が入っていて、そこから血が出ている。ガラスで手を切ったのだろうか?
何をやっても上手くいかないことを、誰かに嘲笑われているような気がした昴は、海岸を後にした。
空が白む頃になって床に就き、昼前に起きだして朝食兼昼食のパンを頬張る。トイレに行く以外はほとんど部屋を出ることはない。ベッドに寝転がり、スマホをいじっていると、いつしか眠気に襲われ、目覚める頃に辺りはすっかり暗くなっている。夕食をとった後は、ひたすら次元を超えた恋愛にのめり込む。これが昴のルーティーンだった。
家に引きこもってからの昴の生活は、例えるならば水の流入が止まったため池のようなものだった。昴は引きこもりの生活が楽しいと思ったことはないが、不確定な要素が少ないという点では、自分の部屋は居心地の良い環境でもあった。
一方で、他人に煩わされることがないというのは、いまこの瞬間に自分がこの世の中から消え去っても、誰も気にとめる者はいないということでもある。言い換えればそれは、自分は社会から必要とされていないということだ。
朝起きるたびに、引きこもっている自分を再認識して、「これが本当に俺の人生なのだろうか」と嘆く。しかし、その焦燥感もいずれは麻痺して、その目は濁り、魂からは生気が失われていく。
ただ、時間が有り余っているというのは、本来昴にとって歓迎すべき状況でもあった。「自分の知られざる才能」を開花させる絶好の機会であるからだ。イラストの作成、小説の執筆、作曲、試してみたいと考えていたことは色々あった。それらのいずれかを身につければ、インターネットで自分の作品を発表することができ、あわよくば収入を得ることも可能になる。だが、昴はいつも適当な理由をつけてそれらに手をつけずに放っておくか、仮に手をつけたところですぐに投げ出してしまうのだった。やがて、自分の「才能」に向き合うことは諦め、ただひたすら動画を観たり、ゲームをしたりして過ごすようになった。
引きこもっている昴に対する接し方は、父と母とでそれぞれ違っていた。健二は半ば昴に愛想を尽かした様子で、特に昴に干渉することはしなかった。一方の佳子は、昴を社会に戻してやろうと甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
ただ、父母ともに、昴に対して虐待を加えたことはないし、必要なものは与えてきた。傍目から見ても、両親としての責任を充分に果たしてきたと言えるだろう。
だが昴は、自分が親の恩を仇で返しているとは感じてはいなかった。それどころか、昴は両親を逆恨みしていた。両親が自分の能力を伸ばしてくれなかったせいで、自分は本来持っている才能を発揮することができなくなったとさえ考えていた。だから、昴は両親に強烈な不信感を持っていて、母親が口酸っぱく「働きなさい」と言ってきても、耳を貸さなかったのである。
この日も、たどたどしい足音から、母親が階段を登ってくるのが分かった。そして間髪入れずに昴の部屋の扉を開いて、躊躇なく部屋の中に入ってきた。
「昴、話があるの。こっちを向いてちょうだい。」
昴は母親の方に向き直った。だが、目は合わせず、うつむいて床の一点を見据えている。
「別にそんな改まった話じゃないのよ。お父さんの教え子にイカ釣り漁船に乗っている人がいてね、この人手不足で船員が足りないらしいの。それで、昴のことをその人に話したら、ぜひ来て欲しいと言うのよ。」
父を持ち出しているが、佳子の入れ知恵であることは想像に難くない。
「実際、あんたみたいに引きこもりから立ち直って船員になった人もいるんだって。大木港を6月に出航して、12月あたりまで漁をするらしいの。出港したら数週間から1ヶ月は港に帰れないけど、これを乗り越えれば自分に自信がつくと思うわ。船長はお父さんの知り合いだから、きついことは言わないし、仕事もフォローしてくれるって。」
昴はうつむいたまま黙っている。
「その人とお父さんとは別に大した付き合いはないから、無理なら別に断ってもいいってお父さんは言うけど、あんたみたいな社会経験のない人を雇ってくれるところってなかなかないでしょ? すごくいいお話だと思わない?」
昴はなおも黙っている。佳子はだんだんと語気が荒くなってきた。
「ねえ、数ヶ月働いて、お金が貯まったら、また鉄道旅行にでも行ってきたらいいじゃない。行くわよね、昴? それとも何か、働くアテでもあるの?」
すると昴は、ぼそっと何かを呟いた。
「…ンガ家」
「何?」佳子が問い返した。
「マンガ家に…なりたい。」
昴は蚊の鳴くような声でそう言った。佳子は「話にならない」という顔をした。
「ねえ、あなた今、自分が何歳だと思っているの? マンガ家っているのは、絵を描くのが好きで好きでしょうがない人たちが、子供の頃から毎日毎日マンガを描いて、それでようやくなれるものなのよ。しかも、狭き門をくぐってマンガ家になった後も、朝から晩までせっせとマンガを描き続けなきゃならないの。自分の人生を削ってやるお仕事よ。自分でも、そんなこと自分にできるわけないって、分かるでしょ?」
昴は、むっつりと黙っている。その様子は、まるで駄々をこねる幼児のように、佳子には映った。佳子は、落胆と嘲笑の入り混じったため息をついた。
「私があんたの育て方を間違ったのね。できるものなら、あんたを私のお腹の中に戻して、産み直してあげたいわ。」佳子は臆面もなく言い放った。
昴は相変わらず黙っていたかと思うと、突然立ち上がってジャンパーを羽織り、部屋から出て行こうとした。
「ちょっと昴、どこに行くの!」
「コンビニ。」
昴はぶっきらぼうに答えて、階段を降り、玄関を出て行った。
昴はうなだれながら、浜辺まで歩いてきた。浜辺に寄せる波が、昴の心を慰めるように、静かに波音を立てている。
母親の気を揉ませても、昴は良心の呵責を感じなかったし、いくらコケにされてもプライドを傷つけられたとは感じなかった。昴はもうずいぶんと前に、自分の感情と心を切り離してしまっていた。そうすることで、昴は理想とかけ離れた自分の姿から目を背けることができた。その代わり、昴はもはや誰かの言葉に心を動かされることもないし、美しいものを見聞きしても感動することはない。
昴は浜に座り込んで、空を見上げた。頭上には、春の星座が広がっている。こうして一時間ほど浜辺に座り込んでいれば、そのうち母親が痺れを切らして謝りに来ると思っていた。そうこうするうちに昴の思考は、自分の不遇さに移った。
昴には、自分では好き好んで部屋の中に籠もっているという自覚はなかった。今こうして引きこもっているのは、運が悪かったからであって、条件が揃えば自分も社会に馴染むことができたはずだと思っていた。つまり、自分が引きこもりになったのは、神様が悪いのである。
この「神様」に、昴は言いたいことがたくさんあった。世の中が平等であるのなら、善行を積んだ人間の運気は上がるべきだし、悪行を積んだ人間には罰が当たるべきだ。しかるに、善良な昴が社会からつまはじきにされる一方で、昴をいじめた連中には何のペナルティもない。
それでも、昴には「神様なんていない」という考え方はできなかった。神様がいないのであれば、友達もおらず、両親との仲も上手くいっていない昴にとって、頼るものが完全になくなってしまうからだ。
――僕みたいに真面目で善良な人間が、どうして辛い思いばかりしなければならないのだろうか?
そうやって“神様”に問いかけていると、心が楽になるどころか、逆に不公平感に襲われて、どんどん昴の心は沈んでいく。そうすると、今度は「どうやって死んでやろうかな」などと考え始める。自分が死ねば、母は昴にもっと優しくしてやればよかったと思うかもしれない。父は、あんなに厳しいことを言うんじゃなかったと反省するかもしれない。そう考えると、少し胸がすく思いがする。だが、自分が死ねば、両親が悲しむ姿を見ることができないということに思い至る。
いつもなら、昴の思考はそこで堂々巡りに陥る。だが、その日は違った。
――神様でも僕を救えないのなら、もはや「悪魔」に頼るしかないのでは?
そう考えている自分に気づいて、昴はゾッとした。
いくら待っても、母親は昴を迎えにこなかった。春先の海辺は肌寒い。昴は体育座りをした状態で、体全体をジャンパーで包み込み、寒さをしのいだ。母親に謝って家に入れてもらうのも癪だが、昴を泊めてくれる友達もないし、ホテルに泊まれるだけのお金も持っていない。昴はただ、浜に座り込み、手元の草を引っこ抜いたり、枝で砂浜をほじくり返したりして気を紛らわしていた。
昴が海岸にやってきてから、かれこれ6時間が経過していた。さすがに体が冷えてきた。今頃、母親は床についているだろうから、そしらぬ振りをして帰宅すれば、イカ釣り漁船のことは有耶無耶にできるかもしれない。そう考え、重い腰を上げた時のことだった。
突然、遠くの方から、「バンッ!」という爆発音が聞こえた。昴が驚いて夜空を見上げると、遥か向こうに火の玉が見えた。それは夜空に弧を描きながら、だんだんとこちらに近づいてくる。
――火球だ!
火球は狙いすましたかのように、昴の目の前の海面に、しぶきを上げて落ちた。時刻は夜中の2時を少し回った頃で、昴以外に目撃者はいなかった。
火球の落下地点では、海面がぼんやりと光っている。その発光源を確かめるべく、昴はズボンをまくって、海の中に入っていった。
光は、チョウチンアンコウの発光器のように、昴を海中に誘った。火球の落下地点はそこまで深くはなく、海水が昴の腰までつかるぐらいだった。
昴は海面上から火球を観察した。オレンジ色に淡い光を放っているので、闇の中でもそれが楕円形の物体であることが分かった。まだ熱を持っているのではないかと用心したが、既に海水で冷まされたのか、足で触れた限りでは、触れないほど熱くはない。昴は思い切って海中に手を入れ、ぼんやりと光る物体を掴んで、海中から拾い上げた。それは、いかにも隕石というようなゴツゴツした外見ではなく、卵のようにツルンとした半透明の物体だった。パッと見たところでは、LED照明を仕込んだおもちゃのようにも見えた。もしかしたら、空から落ちてきた物体とは別のものなのかもしれない。そうであっても、興味をそそる物体であることに変わりはなかった。とりあえず昴は、この楕円形の物体をジャケットのポケットに入れ、家に持ち帰ることにした。
幸い、帰宅したとき両親はすでに寝ついていて、びしょ濡れの姿を見られることはなかった。
自分の部屋に戻った昴が、ジャケットから楕円形の物体を取り出した時、既に発光は止まっていた。昴は、楕円形の物体を蛍光灯の光に透かしてみた。ぼんやりと中に入っている物体の輪郭が見える。その輪郭は次第に明確になり、ある一つの象を結んだ。
――人間だ!
人型の何かが、この楕円形物体の中で眠っている。とすると、これは「卵」そのものだ。しかも、これが空から落ちてきたのだとすれば、エイリアンのものということになる。昴の手は震えだした。しかし、昴が「卵」を海岸に戻してこようと思った時には、もう手遅れだった。「卵」の表面にスッと線が入り、「卵」から煙が出始めたのである。
昴は慌てて「卵」を床に置いた。「卵」に入った線は細い割れ目となり、最後には「卵」がパカっと二つに分かれた。そして、あらわになった「卵」の中身に、昴は度肝を抜かれた。
そこには人形サイズの少女が、胎児の姿勢で眠っていたのである。
少女は全身に白いテカテカしたウェットスーツのようなものをまとい、その上にマントのようなものを羽織っていた。額からは2本の触覚が伸び、背中には2対の透明な羽根が生えている。まさに、ファンタジー世界の中でよく描かれる「妖精」の姿そのものだった。
昴は、今にもパニック映画に登場するようなグロテスクなクリーチャーが出てくるのではないかと内心おびえていた。だから、中にいたのが妖精サイズの少女であると分かって、胸を撫で下ろした。今、自分が直面している状況がどれほど異常かなど、気にしている余裕はなかった。
それどころか、昴はこの宇宙人が愛おしいとさえ思った。可憐な、それも手のひらに乗るほど小さい少女が、空豆の鞘のようにクッションが敷き詰められた「卵」の中で、足を抱えて眠っているのだから無理はない。
だが、昴を魅了したのはそれだけではなかった。それは、その宇宙人が発する匂いだった。それは昴への、「私は敵ではありません。」「あなたが必要です。」というメッセージのようでもあった。
「君はどこから来たの?」
昴は思わず宇宙人に呼びかけた。
その声に反応したのか、宇宙人はおもむろに目を開いた。そして、自分を見つめている昴と目があった次の瞬間、宇宙人は飛び上がって、部屋の隅に逃げ出してしまった。宇宙人にとって、今の昴は巨人同然だった。昴は宇宙人を怯えさせてしまったことに対して、申し訳ない気持ちになった。
「取って食いやしないよ。」
そう呼びかけた時、昴は自分の話している言語が宇宙人に伝わらないということに思い至った。どうすれば、自分が敵ではないと分かってもらえるのだろうか。そう考えた時、昴は昔図鑑で見た、パイオニア10号に搭載されたプレートのことを思い出した。
それはパイオニア10号を発見した宇宙人に向けてのメッセージで、地球の言語を解さない異星人でも視覚的に理解できるよう、文字の類は一切書かれておらず、ただ人間の男女と地球の位置が描かれていた。
昴は、検索エンジンでプレートの画像を検索し、タブレットに表示して、宇宙人に向けて見せた。
「これが僕だよ。」昴はそう言って、プレートにある裸体の男を指し示した。
宇宙人はタブレットに表示されている画像に興味を示したらしく、おそるおそるゴミ箱の裏から顔を出した。そしてタブレットに表示されているパイオニア10号のプレートと昴の顔を交互に見た。
「これで分かっただろう? ここは地球、僕は地球人だよ。君はどこから来たの?」
すると宇宙人は、自分の出てきた卵状の物体のそばに歩み寄ると、蓋を閉め、まるでカセットテープを巻き戻した時のような奇怪な言語を発した。それに呼応して、卵状の物体からホログラムの映像が表示された。
まず地球が大写しにされ、そこから少しずつズームアウトして、太陽系全体が表示され、天の川銀河全体が表示された。それでもズームアウトは止まらず、映像は天の川銀河の隣にあるアンドロメダ銀河を映し出すと、今度はアンドロメダ銀河にズームインして、とある恒星系を映し出した。ただ、その星系の中心にある恒星は巨大で、オレンジ色をしており、直径は地球の公転軌道はあろうかと思われた。最後にホログラムは、その星系にある惑星にクローズアップした。この宇宙人の故郷なのだろう。
これで、目の前の存在が宇宙人であることがはっきりした。それも、今までのやり取りから地球に友好的な宇宙人であるように思われた。
宇宙人は、先ほどパイオニア10号のプレートを写し出し、今は昴のそばにスタンドを使って立てかけてあるタブレットに近寄っていった。自分の身長よりも高さのあるタブレットを、背伸びをしながら操作している様子は、見ていて微笑ましかった。宇宙人でも直感的に操作できるらしく、動画再生アプリを立ち上げると、食い入るように観始めた。
「ハックション!」
昴は、興奮のあまり、自分がびしょ濡れの服を着たままであることも忘れていた。時刻は午前三時をまわろうとしていた。昴は、濡れた服を着替え、寒さを凌ぐため布団に潜り込むと、そのまま眠りに落ちた。
午前10時頃、昴はガサゴソという物音で目を覚ました。それは食べかけのポテトチップスの袋から聞こえてくるようだった。
――ゴキブリでも入り込んだかな。
昴は袋の中を覗き込むと、「ワッ!」と声を上げて後ろに飛びのいた。例のミニ宇宙人が、ポテトチップスを頬張っていたのである。呆れたことに、その時まで昴は昨日UFOを拾ってきたことをすっかり忘れていた。
宇宙人はポテトチップスの油でベタベタになっていた。宇宙人の方も、昴が大声を上げたので、少なからず取り乱した様子だ。
昴はだんだんと昨夜のことを思い出してきた。
――そうだ、俺は遭難した宇宙人を拾ってきたんだ。
そこはもう、昴は事実として受け入れていた。
息を整えてから、昴は宇宙人に向かって呼びかけた。
「大丈夫だよ、何にもしやしないよ。」
昴が自分に対して敵愾心を持っていないことがわかったのか、しばらくすると宇宙人はポテチの陰から這い出てきた。
「地球のポテチは旨いかい?」
すると、ミニ宇宙人は「ウン」と言って頷いた。
「そうかそうか。」そう受け流して5秒ほど経ってから、昴は宇宙人を二度見した。
「君、喋れるの?」昴の問いかけに、宇宙人はもう一度コクリと頷いた。
「昨日は一言も喋っていなかったじゃないか。元々日本語を知っていたのかい?」
すると宇宙人はかぶりを振って、タブレットを指差した。
「アレデ、オボエタ。」
驚いたことに、この宇宙人は一晩動画を観ただけで日本語の法則を理解し、ほぼ習得してしまったらしい。可愛い顔をして相当高度な知能を持っているようだ。
ともあれ、これで宇宙人とのコミュニケーションは格段にとりやすくなった。一体何から聞こうかと考えているうちに、昴はこの宇宙人になんと呼び掛ければいいのか分からないことに気づいた。
「君の名前は何ていうんだい?」昴が尋ねた。
「6849287ダヨ。」
「それは名前じゃない、番号だよ。」
「ナラ、ナマエ、ナイ。ナマエ、ツケテヨ。」
「なるほど、『名前はまだない』ってか。」
昴が宇宙人に付ける名前を考えながら部屋を見回していると、生前祖父がつけていて、形見分けで昴がもらった腕時計に目が留まった。
「『オメガ』ってのはどうだろう。」
「オメガ?」
「ギリシャのアルファベットで最後の文字だよ。」
「フーン。」宇宙人は少し考えたあと、こう答えた。
「ワカッタ。オメガ、デイイヨ。」
「よし、決まりだ。じゃあオメガ、改めて聞くけど、君は何者なんだい?」
「オメガ、ナニモノ?」名無しの宇宙人改めオメガは、キョトンとしている。
「ここは地球だろ? だから僕は地球人。君は何星人なの?」
「オメガモ、チキュウジン。」
「何で?」
「オメガ、チキュウニイルカラ。」
昴は頭を抱えた。
「違う違う。君、宇宙から来たんだろ? どこの星から来たかって聞いてるんだよ。昨日、天体図を見せてくれたじゃないか。」
「アーナルホド。」昴はすっかり調子が狂ってしまった。
「ジャア、オメガ、ツマーカセイジン。」
「ツマーカ? それが君の故郷の名前なんだね。」
オメガはこくりと頷いた。
「君は何で地球に来たんだい?」昴は尋ねた。
すると、オメガはにわかに悲しそうな表情をした。
「ツマーカ、ナクナッテシマッタノ。」
「無くなった? 別の星の住人に破壊されたのかい?」
「チガウヨ。オヒサマニ、ノミコマレタノ。」
「おひさまに飲み込まれた?」
そういえば、昨日オメガが見せてくれた天体図では、惑星ツマーカの属する恒星系の中心にある恒星は、太陽よりも遥かに巨大だった。自分の住んでいた星が、その星系の中心にある恒星に飲み込まれるとは、何とおぞましい光景だろう。
「そうか。じゃあもう帰る場所が無いんだね。」
「ソウナノ。」オメガは肩を落とした。
「じゃあ、君はこれからどうするんだい?」
「オメガ、チキュウニスミタイ。」
「ええっ?」
「オメガ、アタラシイスミカ、ミツケルタメニ、ナンマンネンモタビシテキタノ。」
昴は返答に窮した。
「オメガ、悪いけど、地球に住むのは難しいんじゃないかな。」
「ナンデ? アンドロメダデハ、ホカノホシニ、イジュウスルノ、アタリマエヨ?」
「そんなこと言ったって、この星では、宇宙人の存在はまだ証明されていないんだから。君の存在が世間に知れ渡ったら、地球は大騒ぎになるよ。」
「ナンデ? スバル、ワタシミテモ、ヘイキダッタジャナイ?」
「みんながそうじゃないんだよ。」
「ソウナンダ…」
オメガはひどくがっかりした様子だった。
昴は、目の前の“少女”を助けられないことに、無力感を感じた。何事も他人のせいにして生きてきた昴の心に、このような感情が芽生えるのは、久しく無いことだった。
「だけど…。」自然と言葉が口をついて出た。
「だけど、移住する星が決まるまで、君を預かるくらいのことならできるよ。」
「ホントウ?」
「ああ。」
「アリガトウ!」オメガは満面の笑みをたたえて言った。
昴は、今までの人生の中で、女性に感謝されることなんてなかった。だから、相手が異星人とはいえ、昴はオメガにすっかり心を許してしまった。「移住する星が決まるまで」とは言ったが、内心ではずっと居てもらいたかった。
「アンシンシタラ、オナカヘッタ。」
「何を食べるの? ああそうだ、こういう類のパニック映画では、僕みたいなデブは真っ先に喰われるんだよな。」
「スバル、タベテモイイノ?」
「何でそうなるかな、冗談だよ。僕なんか食べなくても、食い物ならいくらでもあるから。頼むから、俺の腹を食い破って出てくるなよ。」
高校教師である健二は、平日日中は家を開けているが、この日は休日とあって、ダイニングキッチンにあるテーブルに腰掛け、ノートパソコンでネットニュースを見ていた。すると、今しがた洗濯物を干し終わった佳子が、洗濯かごを抱えてダイニングキッチンに入ってきた。佳子は健二の向かいに腰掛け、話を切り出した。
「あの子の部屋から話し声が聞こえるのよ。」
佳子は、健二に昴を叱ってもらうことを期待した。だが、健二はむしろ佳子に対して不快感をあらわにした。
「オンラインゲームでもやってるんだろ? 放っておけよ。赤ん坊じゃあるまいし、四六時中あいつの相手をしてやることないだろ。俺たちにもやるべきことがあるんだし。」
「ずっと気にかけてるわけじゃないわよ。ただ、あの子、人を疑うことをしないでしょう? 放っておいたら、変な奴に騙されるんじゃないかって、心配なのよ。詐欺に引っかかって、借金でも作ったら困るじゃない。」
「分かってないな、あいつは自分に関心を向けさせようとして、奇行をしているんだよ。『こんなことをしたって、誰も相手にしてくれない』と分かようになるまで、無視するしかないだろうが。お前はいっつもすぐに手を差し伸べるから…」
「私はただ、あの子がまた外に出ていけるように思っているだけよ。」佳子は食い気味に言った。
「だから、俺もそう思っているよ。ただ、お前のやり方は間違っていると言っているだけだ。暴走族がなんで爆音を立てて走り回るか知ってるか? 自分に関心を向けさせるためだよ。こうすれば自分のことを見てくれると思っているからだ。昴も同じだ。あいつも、周りを自分の思い通りに動かそうとして、おかしなことをしているんだよ。」
「だからって、あの子を好きにさせておいていいの? あの子、放っておいたら、平気でずっと家にいるわよ。気づいたら、なんの職歴もないまま、60代になってるかもしれないわ。」
「そんなことにはならないよ。」
佳子の顔が曇った。
「あの子が道を踏み外そうとしているのを、どうして黙って見てられるの? 私は、あの子が、人生の一番素晴らしい時期を、部屋の中に籠もってダメにしてしまおうとしているのを見ていると、気が滅入りそうになるのよ。ねえ、母親がこんなことを思うのはおかしいかしら?」
健二はため息をついて、ノートパソコンをパタンと閉じた。
「分かったよ、ちょっと昴の様子を見てくる。」
「あんまりきつく当たらないでよ。」
「分かってるよ。」
そう言うと健二は、階段を上がっていった。
健二が昴の部屋のドアを開けた時、昴は机に座り、ヘッドセットをして、貧乏ゆすりをしながら、オンラインゲームに興じていた。
「昴!」健二が一喝すると、昴は慌ててヘッドセットを外して、父親の方を振り向いた。
「昴、別に週5日働けとは言わない。しかし、せめて人の気持ちを汲み取れる人間になれ。父さんや母さんがお前のことを心配している横で、どうしてそうやって呑気に遊んでいられるんだ?」
昴はうなだれて、父親の説教を聞いていた。その姿は、とても20歳を越えた男の姿には見えなかった。健二の説教はなおも続く。
「なあ、父さんたちはお前より先に死ぬんだ。お前を一生面倒を見てやることなんかできないんだよ。父さんたちの代わりにお前の面倒を見てくれる人でもいない限り、お前は残ったわずかな財産を食い潰して、最後には飢え死にするんだ。お前だってそんなのは嫌だろ?」
昴は黙っていた。ただひたすら「早く帰ってくれ」と念じていた。
「昴、昔のお前はそんなんじゃなかったよ。幼稚園の頃なんか、初対面の人ともすぐに友達になってたじゃないか。なあ、父さんは教師として無力感を感じるよ。どうやったらお前の魂は生き返るのか、教えてくれないか?」
昴の反応は乏しかった。健二はなおも何かを言いかけたが、「これ以上言っても無駄だな。」とポツリとつぶやいて、部屋を出て行った。
健二が階段を降りていったことを確認すると、昴は煎餅の入っていた四角い空き缶を手に取り、蓋を開いた。オメガはその中にいた。昴は、オメガの存在を父に察知されないために、ネットゲームに没頭しているふりをしていたのだった。
「もう大丈夫だよ。」昴はオメガを手のひらに移し、外に出してやった。
「アノヒト、スバルノ、パパ?」
「ああ、そうだよ。」昴は顔をしかめた。
「スバル、パパ、コワイノ?」
「怖い? 何で?」
「ダッテ、スバル、パパニ、ナンニモイイカエサナカッタジャナイ?」
オメガがトゲのある言い方をするのが、昴には意外だった。だが、あまり腹は立たなかった。
「怖いというか、苦手なんだ。親父は子供の頃は優等生で、大人になってからは教師として多くの教え子に慕われている。そんな親父といると、自分がすごくみすぼらしく思えてくるんだ。僕は、親父の輝かしい人生の『オマケ』なのかなって。」
「ヘエ?」
オメガが同情してくれると思ってくれた昴は、オメガの薄い反応に少しがっかりした。
「そうだよな、いくら不平を言い募ったって、俺には何の取り柄もないことには変わらないよな。」
しかし、オメガは昴に同情するでもなく、嫌悪感を示すのでもなく、こう昴に問いかけた。
「ドウシテ、パパトイッショニイルノ?」
「えっ?」
昴は、思っても見なかった問いに、少しの間返答に窮した。
「どうしてって…、別に好きで一緒にいるわけじゃないよ。ただ、親父と一緒にいるよりも、働く方が嫌なだけさ。」
「フウン。」オメガは腑に落ちない様子だった。
――実際、僕は親父のことを嫌っているのに、どうして親父と一緒に暮らしているのだろう?
昴は今までそんなことは考えもしなかった。何か、問題の核心に触れるような感触があったが、その時はそれ以上分からなかった。
昴はオメガと出会ったことで、誰かに世話を焼いていると、心が満たされるということを初めて知った。ある意味、オメガは昴にとってペットのような存在だった。いや、人間と同じように会話ができる点ではペット以上だ。餌も、人間の食べられるもので十分なので、手がかからない。
ただ、一つ差し迫った問題があった。それは、オメガはどんどん成長していくということだった。
オメガ自身の言によると、今のオメガは「幼体」で、いずれ人間と同じくらいの大きさにまで成長し、しかもそれには一ヶ月ほどしか要しないらしい。今はブリキ缶の中に入れておけば隠すのはわけないが、いずれ昴と同じサイズにまで成長すれば、両親の目を避け続けるのは困難になる。
オメガに語ったとおり、昴がこの家に住み続けているのは、ここから出ていくきっかけがないからであった。そこへ来てオメガと生活を共にする現実的な方法として、この家を出て行くという選択肢が、昴の心の中ににわかに浮上してきた。
昴は、珍しく昼間にいつものコンビニを訪れた。だが、荷物の発送や買い物をするためではない。壁に貼られた「アルバイト募集」のチラシを見に来たのだ。その足でアルバイト用の履歴書を買い、証明写真機で履歴書に貼付する写真を撮った後に帰宅し、蛇ののたくったような字で履歴書に記入した。アパートの家賃を払うための収入を確保しようという魂胆だった。
昴は携帯でコンビニに連絡して、翌日に面接の約束を取り付けた。親のつてもなく、自分で目標を定め、行動を起こしているのが、自分でも不思議だった。昴を突き動かしていたのは、この愛らしい宇宙人の力になってやりたいという思いだった。
だが、昴はそこに潜む落とし穴に気がついていなかった。
昴は元々極度のあがり症である上に、もう何年も両親以外の人間と話をしたことがなかった。実際に仕事が務まるか以前に、面接を満足にこなすことができるかも定かではなかった。
にもかかわらず、昴は面接に対して特に対策をしなかった。案の定、面接当日になって、昴は急に緊張してきた。家を出てコンビニの近くまで来ると、昴の緊張は最高潮に達した。コンビニに着いた昴は、ガラス戸の外から中を覗いた。レジに立つ男の姿を見て、昴はうろたえた。
――あいつだ!
そこにいたのは香山だった。昴はあの男と一緒に仕事をするのだけは御免だった。きっと夜にシフトを入れているから、顔を合わせることはないだろうと高を括っていたのだが、その昴の期待は脆くも崩れ去った。
香山の方も昴の視線に気づき、昴に胡散臭そうな視線を投げた。それは、昴の意思を挫けさせるには十分だった。昴はすごすごとコンビニを後にした。
コンビニから立ち去った時、昴は面接を受けなくてよいことに安堵したが、帰宅すると今度は面接をすっぽらかしたことに対する後悔に襲われた。しかし、それも束の間の出来事で、初めから無理だった、どうせ面接も落とされていたと自分を納得させにかかった。
オメガと「同棲」する昴の計画は、最初の一歩で破綻に陥った。昴は、誰か他の人間に、オメガを託せるかどうか考えてみた。しかし、不審船を見つければ海上保安庁に知らせればいいだろうが、宇宙人を見つけた時は、どこに問い合わせればいいのだろうか。昴には「E.T.」のエリオット少年のような、頼れる兄弟や友達はいない。テレビに出てくる“UFO研究家”も、荒唐無稽なことを言っているだけで、頼りにならなさそうだ。
そして昴が至った結論は、オメガを諦めることだった。つまり、この宇宙人を元あった場所に戻す、ということだ。
昴は、オメガの隠れているブリキ缶を取り出した。中には、オメガの乗ってきた卵形のUFOが入っている。どういう技術を使っているのか見当もつかないが、オメガの成長に合わせてUFOも一回り大きくなっている。ツマーカ星人は地球の環境に完全には適応できないので、このUFOの中で体力を回復する必要があるとオメガは言っていた。
昴は、UFOの表面をコツコツと叩いた。すると、UFOがパックリと割れて、中からオメガが姿を現した。
「ナアニ?」オメガはあどけなく問いかけた。
「ごめんオメガ、やっぱり僕は君をかくまってあげることはできない。」
「ドウシテ?」その言葉には、自分の立場が危うくなることへの恐れではなく、昴を気遣うようなそぶりがあった。
「僕には君を守る能力がないのさ。」
すると、オメガはうつむいた。昴は胸が痛んだ。
「スバル、オメガヲミツケテテクレタ。ユウキ、アル。ダカラ、コレカラモ、オメガヲ、タスケテ。」
すると昴はうなだれて、ため息を一つつき、こう言った。
「僕は君の思っているような人間じゃない。正直に言うよ。本当なら、僕ぐらいの歳の人間はね、今ぐらいの時間には家を出て、仕事をしているのが普通なんだ。働いていない人はね、ニートと言って、一般的には社会的な能力がないってみなされるんだ。」
「シゴト、ッテナニ?」
「それが僕にもよく分からないんだけどね。まあ簡単に言えば、労働を提供して、その代わりにお金をもらうことかな。」
「オカネ、モラウタメニ、シゴトスルノ?」
「うーん、いや、そのためだけではないな。僕はすぐに職場を辞めてしまったけど、お金がもらえなかったからじゃない。」
「ジャア、ドウシテヤメタノ?」
すると、昴は少し間を置いてから、こう言った。
「どうして、こんな辛い目をしてまで働いているのか、分からなかったんだ。いや、そもそも自分は一体何のために生きているのか、分からなかった。」
オメガは首を傾げている。
「自分でも情けないと思うよ。大の大人が、親のスネかじって生きてるんだから。でも、それでいいのさ。所詮僕は、自分さえよければいい人間なんだから。まあ、自分の面倒すらろくに見れてないけどな。」
オメガは静かに昴を見つめていた。
「これで分かっただろ? 俺には君を助ける資格なんかないんだ。君は拾ってもらう人を間違えたな。もう一度、空から落っこちてくるところからやり直した方がいいよ。」
――俺なんかより、オメガにもっとふさわしい人間がいる。
昴は、自分が身を引くべきだと言い聞かせた。
「…ワカッタ。」オメガは承諾した。
その夜、昴はオメガの入ったUFOを持って、海岸にやってきた。
昴はUFOを地面に置くと、UFOがパカっと割れて、オメガが中から出てきた。
「スコシノアイダダッタケド、イママデアリガトウ。」
「お別れだ、オメガ。」
オメガは俯いていたが、ふと昴を見上げて言った。
「ワタシ、オオキクナレバ、スバルヲ、イロンナトコロニ、ツレテッテアゲラレルヨ。チキュウノ、ソトニモ、イケルヨ。キット、チキュウヨリモ、モット、ステキナホシ、イッパイアルヨ。」
「いや、いいんだ。僕は所詮引きこもりだから。」
「ヒキコモリ、ナンニモ、ハズカシクナイヨ。チキュウジンダッテ、チキュウニ、ヒキコモッテイルジャナイ。」
昴は「フフッ」と笑った。
「面白い見方だね。だけど、社会に出てもやっていけないのに、他の星に移住するなんて考えられないよ。僕はあの家で親のスネかじりながら、ぬくぬく暮らしているのが性に合っているんだ。」
「ソウ…。」オメガは名残惜しそうだったが、諦めてUFOの中に入っていった。
「バイバイ、スバル。」
オメガはUFOの蓋を閉じようとしている。
その時、昴の心の奥底から、問いかけが聞こえてきた。
――お前はこれでいいのか?
自分は、天が与えてくれた、外の世界へ出ていくチャンスを、フイにしようとしているのではないか。もし、この機会を逃せば、自分はもう一生引きこもりのままかもしれない。
そう思うと、昴はいてもたってもいられなかった。
「待ってくれ。」もう少しで蓋が完全に閉まるところで、昴はオメガを引き留めた。
「ナアニ?」
「やっぱり取り消すよ。本当は君に一緒にいてほしいんだ。」
「イテモイイノ?」
「うん。アパートを借りて、一緒に住もう。」
「ホントウ?」オメガの顔がパッと明るくなった。
「オメガ、ウレシイ!」オメガの零れるような笑顔を見ている昴まで、心が弾んでくる。だが、これからどうやってオメガを養っていけばいいのか、皆目見当はついてないのだ。
「デモ、オカネ、ドウスルノ?」オメガが尋ねた。
「まあ、今すぐとはいかないが、コンビニ以外のバイトを見つけるさ。」
「オメガ、オカネツクッテアゲヨウカ?」
「えっ?」
「スバル、オメガヲマモッテクレル。ソレクライ、トウゼンノコト。」
「何を言い出すかと思えば。君は地球で存在が知られちゃいけない存在なのに、どうやってお金を稼ぐんだい?」
「マア、イイカライイカラ。」
昴は、オメガが「お金を作る」という言葉の意味するところが分からなかった。まさか、お金を偽造しようとしているのではなかろうか。しかし、オメガがやろうとしていることに、昴は興味をそそられたし、実際のところ働かなくてすむのであれば、それに越したことはない。
その日からオメガは、何やらメカを組み立て始めた。オメガの求めに応じて、昴はパーツを集めてきた。壊れた電動ドリル、空き缶や鉄パイプなどは、まだマシだった。しかし、タングステンを要求されたときは、流石に閉口した。ネットで探したところ、タングステンを使用している釣具を見つけ、なけなしの小遣いをはたいて購入した。
10日ほどで、メカが完成した。それは、地下鉄の建設に使うシールドマシンを、手のひらに乗るほど小さくしたものだった。ただ、これがお金とどういう関係があるのか、昴には皆目見当がつかなかった。
「オメガ、これをどうやって使うの?」
「オソトデツカウノ。」
昴は右手にオメガを乗せ、左手には完成したメカを持って、マシンの設置場所を探した。林の中の、まず人目に触れない場所で、昴はオメガの言われるがままに、メカを地面に突き立てた。すると、メカはうなりを上げ、土砂を吹き上げながら地中に潜っていく。
「温泉でも掘っているの?」
「『オカネ』ヲ、ホッテイルノ。」
日が暮れても、マシンは一向に停止する様子がない。オメガによれば、マシンは三日三晩動き続けるという。
昴は一旦家に帰り、翌日また林を訪れた。マシンを設置した場所を探すのに一苦労だったが、周りにうずたかく積もった土砂でそれと分かった。いくら人の往来がない場所とはいえ、これだけ不自然に土砂が堆積していると不審がられると思った昴は、猫車を持ってきて土砂を周囲に打ち捨てていった。
マシンを設置してから4日が経った朝、昴がオメガを連れて家を出ようとした時のことだった。昴が階段を降りると、そこに母が立ちはだかっていた。
「どこに行くの、昴。」
幸い、昴はオメガをUFOごとジャケットの胸ポケットに隠していたから、オメガの存在に感づかれることはなかった。次の問題は、母親をどうやって納得させるかということだ。
「…バイトの面接」
「なんで急にバイトをする気になったの? 何のバイトをするの?」
「…コンビニ。」
「本当にバイトの面接に行くの? だったら履歴書を出して見せてよ。」
「……。」
「パチンコ屋にでも行くんじゃないでしょうね?」
――普段は家に引き籠もっていることを嫌がるくせに、なんで外出に文句を言うんだ。
昴は心の中で母親に悪態をついた。
佳子はため息を一つつくと、おもむろに語り出した。
「ねえ、あんたがいた職場なんてゆるい方よ。私が若い頃なんて、残業代も出ないし、セクハラ・パワハラが当たり前だったんだから。今の子は物に不自由してないから、自分が特別な存在じゃないと満足できないだけなの。みんな、自分が普通であることことが受け入れられないのよ。だから、あなたが大好きな『異世界転生』なんてものが流行るんだわ。みんな、自分たちがどれだけ恵まれてるか分かってないのよ。」
佳子は昴が子供の頃から、他人の趣味趣向を批判することがあった。その人を間接的に蔑んでいるようで、側から見ているだけでも、あまり気持ちの良いものではなかった。それが今、昴自身がその槍玉に挙げられて、自分が好きなものを貶されることの胸糞悪さを、昴は身をもって思い知った。
「…母さんに何がわかるんだよ。」
「異世界転生」を馬鹿にされたことへの悔しさの滲んだその言葉は、昴がオメガの存在に気づいていないという事実に裏打ちされていた。けれども佳子には、ただの子供じみた言い分としか映らなかったようだ。
「少なくとも、一日中部屋に籠っている人よりは、世間のことを知っていると思うけど?」
佳子は、わざと困惑した調子で言った。昴は、その見えすいた皮肉にカチンと来た。
「今は世間の話をしていないだろ? 母さんは、世間のことを知っていれば、僕が何を考え、何をしようとしているかなんてどうでもいいのか?」
「じゃあ言ってみてよ、昨日も今日も一日中出ずっぱりだったけど、どこに行ってたの?」
「どうして言う必要があるんだ。」
「私はあなたの母親よ。当然じゃない。」
「でも僕は…。」
昴はそこで、口をつぐんだ。言い負かされたわけではない。本音を口にすることを、ためらっていたのだ。昴は本当はこう言いたかった。
——僕は母さんのことなんか、信用していないんだ!
だが、またしても佳子は、昴を侮ってかかった。
「この家で寝起きして、この家でご飯を食べる以上は、親の言うことを聞くべきだわ。でなければ、この家から出てってちょうだい。」
「…本当に出ていっていいの?」
そこで初めて佳子は、昴が今までと様子が違うことに気づいた。今までの昴なら、こうやって脅すまでもなかった。少し語気を強めれば、いくら不本意でも、佳子の命令に不承不承従ったものだった。
「…分かった。じゃあ出て行くよ。」
そう言うと昴は、一旦自分の部屋に戻り、当座に必要な荷物を持ってきた。佳子は、つとめて平静を装ったが、内心穏やかではなかった。
「出て行くんなら、鍵を返してちょうだい。」
昴は、財布から鍵を取り出すと、何の躊躇いもなく佳子に手渡した。
「鍵は閉めておくからね。戻ってこようったって、そうはいかないから。」
「いいよ。」
そう言うと昴は、荷物をパンパンに詰めたリュックサックを背負うと、何の躊躇いもなく家を後にした。
昴には頼れる友達がいないはずなのに、なぜあんなに落ち着いていられるのだろう。誰かに騙されているのかしら?
——まさか、変な宗教にハマってるんじゃないでしょうね?
佳子はそう思い至って、昴を呼び戻そうかと一瞬迷った。だが、自分が折れた格好になるのが嫌なので、結局昴を行かせることにした。
——まあ、すぐに音を上げて戻ってくるでしょ。そもそも、家を出ていてもおかしくない年頃なんだし。
佳子は自分にそう言い聞かせた。
昴は、「お金」の採掘現場を訪れた。マシンの活動は停止したらしく、土砂の噴出が止まっている。
昴が懐からオメガのUFOを取り出すと、UFOがパカっと割れて、オメガが姿を現した。
「スバル、イエデスルノ?」オメガが心配そうに尋ねた。
「そうだよ。君がお金を出してくれるんだろ?」昴は無理に笑顔を作って、そう言った。
「ウン、マカセテ!」オメガは昴の不安をよそに、得意げに言った。
マシンの通った後を覗いてみると、直径5cmほどのマイクロ立坑が残されている。だが、これだけでは「お金」を採取することはできないと、オメガはいう。昴はまず、オメガの指示に従って、マイクロ立坑にフィルター状のパーツを落とし込んだ。だが、その後にオメガが用意するよう指示したものに、昴は面食らった。鉄製の水道管と蛇口、耐熱手袋、そして坩堝である。昴には、これが「お金」に関係あるとは到底思えなかった。だが、昴は今更母親に許しを乞うてまで、あの家に戻るつもりはなかった。昴はオメガの言に従い、ホームセンターでそれらの部品を揃えてくるほかなかった。
昴は買ってきた水道管をマイクロ立坑に接続した。しかし、いくら待っても蛇口からは何も出てくる様子はない。オメガにたぶらかされているのではないかという気持ちを必死に抑えて、昴は荷物から寝袋を取り出し、林の中で夜を明かした。
翌日、昴はもう一度蛇口を捻ってみようと蛇口に手を伸ばした。その様子を見たオメガは、慌てて昴を制した。
「アツイアツイ。」
昴は耐熱手袋をはめ、蛇口の下に坩堝を置き、蛇口を開いた。すると、蛇口から白く煮えたぎった液体が流れ落ち、坩堝に溜まっていった。それは冷えて固まると、黄金色の輝きを放った。
オメガの言う「お金」とは、
「チキュウジン、ガイカクニアル、オカネシカ、トリダセナイ。デモ、コアノナカニ、オカネ、モットタクサンアル。」
つまり、この立坑は地球の核とつながっていて、そこから抽出された金が、この立坑を伝って迫り上がってきているというのだ。
「アマリ、ダシスギルト、チジキ、オカシクナルヨ。」
坩堝に1センチほど溜まったところで、昴は金の出る蛇口をキュッと閉めた。
これだけで500グラムはある。時価300万円はくだらないだろう。昴は、狐につままれたような気持ちで、蛇口から出てきた金を見つめている。
「タリナイ?」オメガは尋ねた。
「とんでもない。これだけの金があれば、一軒家だって住めるんじゃないかな?」
「ホント? ヨカッタ。」
しかし、昴は素直に喜べなかった。オメガとの生活が不安だったのではない。自分とオメガの二人だけで暮らせる手筈が整ったところで、果たして両親は、(両親から見た)自分の一人暮らしを認めてくれるのだろうか。急にお金が出来たことを怪しむのではないか。この期に及んでも、昴は両親の目を気にしていたのだ。
「スバル、パパトママノトコロニ、モドラナインデショ? イマスグ、アタラシイ、オウチ、サガソウ?」
「う、うん…。」
「ドシタノ、ウレシクナイノ?」
「嬉しいよ、けど、今のままでもいいんじゃないかな? 僕の両親だって、物わかりのいいところがあるんだ。二人にオメガを紹介すれば、きっと君の味方になってくれるよ。その方が、僕一人で君を守るよりも、安心じゃないかな?」
オメガは、昴がなぜ躊躇しているのか、すぐに看破した。
「スバル、アナタハオマケナノ?」
そのオメガの辛辣な言葉は、昴の胸をえぐった。
「…違うさ。僕は僕だ。」
「ナラ、ジブンノジンセイハ、ジブンデキメナキャ!」
昴は、腹を決めた。
「そこまで言われちゃしょうがないな。わかった。僕も男だ。君に出会った以上、最後まで君の面倒を見るよ。家を借りて一緒に住もう!」
「ホント、ウレシイ!」オメガは飛び上がって、昴の頬にキスをした。
その瞬間、昴は思った。自分にも、ようやくに“春”が巡ってきたのだ。長く暗いトンネルを抜けて、ようやく光が見えてきたのだと。そしてオメガは、自分の不遇を不憫に思った神様が、自分に遣わした“天使”であると、昴は信じて疑わなかった。
宙の天使 @tsukishima_hikaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。宙の天使の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます