第13話 #13 20XX年8月24日 二人きり・・・

 下士官以下とは福利厚生面で待遇が異なり、一定規模の基地や駐屯地には幹部専用の食堂や士官室(Wardroom)が設けられていることが多い。

 アメリカ軍のように給食が有料となるなど、貴族が戦争費用を自己負担していた時代の名残も残っている。


「……い、たいい、大尉、そのままでは風邪をひいてしまいます。起きてください……」

 ん?あ? そうか、オレはベッドで眠り込んでしまったんだ。

「あ、ああ。軍そ……曹長、今何時だ?」

「はい、一八○○少し前で、そろそろ夕食です」

「ああ、そうだな。ん?今、風邪がどうとかって、義体は腹は減るが風邪はひかんぞ」

「あ!そうですね! つい……」

「食事はまだだろ? 士官食堂でよければ一緒に行くが?」

「え〜っと、士官食堂はちょっと緊張しますし……自分は隊員食堂へ……」と遠慮するが、「他国では士官と下士官は別々の場合が多いらしいが、我が国はどちらかというと珍しいケースらしく一緒に食事ができるんだからな。それに一人で食事しても美味くない。第一あそこじゃないと『完全義体専用食』がない」と無理矢理士官食堂に連れ出す。


 食堂に行く間、白人少女を見て怪訝な表情をする兵士もいたが、オレの階級章を見て慌てて敬礼するのでこちらも答礼。建物内は敬礼を省略できるんだが、ばつが悪かったんだろうな。

 だが金髪赤目少女が軍施設内を歩いてるのは普通考えにくい状況だ。怪しむのも無理もない。


 士官の食費は当然自腹だが下士官以下の隊員はミールカードがあるので追加を頼まなければ無料だ。曹長は早速サラダバーに行き何やら選んでいるようだ。

『完全義体専用食』も当然有料でしかも普通食より高額なのだが、何割かは軍が負担してくれているらしく普通食と同額なのがありがたい。が、メニューがあまりというか、ほとんど選べる種類が少なく下手すれば三食同じ可能性があるのはちょっと勘弁だ……。

 トレーだけを持ち、受け取りカウンターで官姓名と『完全義体専用食』と告げると、時間がかかるので席に持って行くとのことだったので、近くに空いている2席を見つけ確保。

 曹長はサラダとスープをトレイに乗せ受け取りカウンターでチキンプレートを選んだようだ。他はマフィンとマッシュポテトを山盛りにして、先に席についていたオレのところに小走りにやってくる。


「大尉、お待たせいたしました。お席を確保していただくようなかたちになってしまい申し訳ありません……あれ? 大尉のお食事は?」

「ああ、『完全義体専用食』は時間がかかるらしいから後から持ってきてくれるそうだ。冷めないうちに先に食べてて構わないぞ」

「え、それはだめです。自分も待ちますので……」

「いや、それはいかん。食事は温かく美味いうちにいただいてこそ栄養になると思うぞ。食事と睡眠時間を十分にとらなければ有事の際に万全の体勢を保てないからな」

「そうですね!ありがとうございます。では、いただきます!」と両手を合わせる。

 アメリカの日本州になったとはいえ、ここは日本だ。日本人としての伝統は受け継がれている。今更ながら思い出した。食事前の『主の祈り』をするのは本土から派遣されている者くらいだ。


 自分の食事が運ばれるのを待っている間、周りを見ると結構こちら(つまりはオレだろうな)をチラチラ見られているのがわかる。そりゃそうだろうな。それに気づいたのか曹長は「まわりの方々、迷彩服の方が多かったのですが、大尉のお姿はすぐに見つけられました」と微笑む。

 やがて給仕の兵が「大尉、お食事をお持ちしました」とオレのトレーを運んできてくれ敬礼。答礼しオレも「いただきます!」と手を合わせ夕食をいただく。


 夕食後、部屋に戻る。

 曹長はなんだかそわそわしている。

「どうした?」

「い、いえ。なんか大尉と二人きりなんて迎撃戦の行きのときと、病室でシャワーを……はわわ、申し訳ありません」

「何を言ってるんだ。今日から二人でここで次の指示か作戦があるまで暮らすんだ……そうだ、風呂に一緒に入ろう。いまだにこの長い髪を洗うのに慣れていないし乾かすのも下手だから曹長に世話してもらわないとな」

「ひぃ、いいんですか?」

「構わんというか、これはオレ……おっと、わたしからのお願いだ。もう女性として生きて行くわけだから女性の先輩として『いろいろ』曹長から教わらないといけないしな」

「は、はひぃ」

「それに『日本人』なら1日の終わりに湯船に浸かりたいしな……」

「そ、そうですね……」


 義体は生物学的な新陳代謝がないので風呂やシャワーで身体を洗う必要はないが、排泄はするのでそこは清潔に保つ。髪も長いので『女性』としてキレイにしておきたい。

 実際のところ、自分の身体になったとはいえ義体がどういった構造で食事、排泄をしているかはわかってはいない。ナノマシンが体内を走り回ってるイメージしか自分は持ってないというか知識がないんだが。まぁ後々中尉からレクチャーがあるとは思うが、シーザーを理解するためにシーザーである必要はない……。

あ、これは違うな。解剖学を知らなくても人間は生きていけるってことのほうが合ってるな。


 曹長と風呂に入り、髪を綺麗にしてもらい背中も流してもらった。

 オレからの風呂の誘い(というか、やっぱり命令ととったのだろうか)に、「は、はひぃ」と言いつつも断らなかった。

 水着を着ずに、『中尉のBrainは男でも身体は女性、だから大丈夫。これから毎日一緒なんだから……』と自分に言い聞かせるように小声でつぶやいてる。あ〜まだ、オレのことを男と意識しているようだな。


 で、普通に入浴。

 一度一緒に入ってしまえばどうってことはない。

 かえってオレ……あ、わたしか。わたしの方が曹長のスタイルの良い体を意識してしまう……身長は160センチ、黒目、黒髪ロングの純日本人で結構美人。スタイルも素晴らしい。バスト83センチ、アンダーバスト69センチ、ウェスト59センチ、ヒップ84センチ(これは後からデータベースで見たんだが)。訓練で鍛え上げられ引き締まった贅肉が一つもついていない身体。

 それに比べ、わたしはどうだ。身長は148センチ……。義体だから贅肉なんてものはないので曹長と比べると貧弱な身体……こっちの方が余計に身体を意識してしまう。


 シャンプー、すすぎ、リンスとまたすすぎをしてもらっている間、ずっと後にくっついていてくれ、それに身を委ねる。一生懸命な息遣い。

 髪を洗ってもらい、ゆっくりと湯船に浸かり曹長をあまり見ないように目をつむり少し冷えた身体を温める。義体とはいえこういった『人間らしい』所作は本当に重要なんだなとつくづく思う。

「わたしも髪、洗い終わりましたので、次は大尉のお背中お流ししますね〜」と今度は背中を洗ってくれる。流石に前は自分で洗ったが。

 ひとあし先にバスルームから出、タオルドライをしていると今度はドライヤーで乾かしくれ、いつものようにブラッシングをしてもらう。

「はい、大尉の髪キレイになりました〜」満足げに言う曹長。


 と、あっという間に二二○○の消灯ラッパが聞こえる。

 それぞれの寝室に「曹長、おやすみ」「おやすみなさいませ、大尉」と言いながら戻り、夕食前うたた寝をしたというのに夢も見ずにすぐ寝入ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

士官学校卒エリート少尉が義体化美少女にTSさせられた件 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ