第12話 #12 20XX年8月24日 『HINEWS』短期目標

 午後、イケガミ大佐は乗って来たV-22で勝田基地に戻った。

 その後中尉に案内され、オレと曹長の部屋へ向かう。

 大尉執務室で早速ブリーフィングが始まるが、『HINEWS』の構想は中尉が立案しているので、オレと曹長はその計画を聞く側になる。

「では、明日から『HINEWS』の活動を開始いたします。

○九○○より一時間ほど大尉殿の義体チェックをさせていただきます。場所は医療棟義体科の……」義体チェックといっても『うなじ』の接続端子にメディカルマシンを接続して『義体』の『健康状態』を測定するだけらしいので30分はかからないだろうが余裕時間を見ているらしい。これは毎朝行うとのこと。

「次に明日は一○○○より一二○○まで司令部サーバー……AIですが、それとのデータリンクテストを司令部技術者と行なっていただきます。明後日以降は各種センサー、レーダーおよび偵察衛星、偵察ドローン画像の同時解析処理をAIと連携して頂き、短期目標は……そうですね1ヶ月以内にHPMWSで『仮想敵兵器の迎撃・無効化 』を行うことです」

「AIとの連携……ほとんどSFの世界だな」と言うと、「サイボーグつまり義体化自体かつてはSF上のお話でした。それが今は実現できています」

「いやそれはそうだが、そんな膨大なデータ処理ならAIだけに任せた方が……」

「AIは推論や判断、最適化提案、課題定義や解決、学習などを行い、人間の知的能力を模倣することはできますが最終判断は常に『人間』であるべきなのです。

そして人間の『脳』、よく言われている『ほとんど、あるいはすべての人間は脳の10%かそれ以下の割合しか使っていない』という都市伝説がありますが、脳スキャンでは人間の脳は何をしている時でもすべての領域が活発に働いています。ある領域が他の領域より常に活動的であることは事実ですが、損傷していない限りまったく機能していない脳の部位は存在していません。容量約1PB(ペタバイト)とも言われる人間の脳にはAIはとても及ばないと自分は思います。一方、そもそも記憶の仕組みがわかっていないのにビット数に換算すること自体が無意味とも言われていますが……」

 なるほどな。だがオレの『脳』負荷に耐えられるだろうか……。


 中尉が話を続ける。

「一三○○から一八○○までドイツ語とロシア語の集中講義を一日おきに受けて頂き、明日はドイツ語です。先ほど伝えた通りこれは曹長も一緒です」曹長の顔を見ると『うへぇ〜』と言いたそうな顔をしている。

「曹長は集中講義時間以外、大尉の身辺警護と『女性』としての身の回りのお世話を○六○○起床時から二二○○就寝時まで命じます。

 自分は義体科軍医として平時は朝霞基地の医療棟義体科、戦時は義体化手術のため筑波大学病院義体科で勤務いたします。

 朝霞基地で勤務時間外はお二人の隣の部屋におりますので、何かあればは内線でご連絡ください。

 最後に曹長、大尉と曹長用の替えのACUと下着類を申請してあるので後で補給科に受け取りに行くように。今回は自分が行ったが、次回からは曹長が申請、受領すること」

「承知しまし……」と言いかけ、「あ、よろしいでしょうか中尉殿。大尉殿のお身体のサイズがわからないのですが……」あ〜そういえばオレも知らないな……。

「そうだったな。身長は148センチ、足のサイズは23センチ。スリーサイズは上からトップは77センチで、アンダーが62センチだから75のC。55センチ、80センチだ。よいか?」うっわ、小さいとは思っていたがいろいろと小さいな。聞けば聞くほど本当に幼児体型だ。

「はい。メモしました!」


「そういえば中尉……」

「はい、なんでしょうか大尉?」

「入院中、その頃はまだ中尉の方が上官でまた機密事項で教えてもらえなかったが、オ……いや、わたしの義体がなぜ『少女』なのか教えてもらえないか?」と、疑問に思っていたことを聞いてみる。

「あ、あの、それはですね……」と中尉が珍しく言い淀むが、やがて意を決したように「え〜お答えします……開発者の『趣味』だそうです……」あちゃ〜なんてこった〜

「うっわ!ひっどぉ〜」曹長も思わず素が出る。

「う〜 そうかぁ〜 その開発者とやらに会う機会があったら一発ぶん殴って……いやいやいやそれはまずいな。High Schoolの……セーラー服でも着て見せてやるか!」

「そ、それがよろしいかと〜」「そ、そうですね〜」中尉と曹長が同意する。

 趣味!だから外性器もちゃんとあるのかぁ……こりゃ何回か『使われ』たか……? まあいいか、たかが義体だ。他人の性癖に口を出す気はない。が、やっぱり気持ち悪い……いや、これはオレの妄想が過ぎるのか?


 気がつけばもう一七○○を過ぎている。

「それでは本日はこれで業務終了いたしますので、まだ早いですがご休憩ください。曹長、あとは頼みます。ではナカジマ失礼いたします!」と敬礼し部屋を出て行く。

「ご苦労!」と答礼し、曹長と二人きりになる。


「はぁ〜」と大きくため息をつく。

 この一週間で大火傷を負い死にかけて『完全義体』になるわ、なんか知らないうちに死亡したことになり二階級特進し名前もアレクサンドラ・フォン・マイヤーになるし……しかも開発者の『趣味』!で『少女』の姿で年齢も17歳……おまけにドイツ語とロシア語の短期習得……あ〜もうサンディちゃん疲れたわぁ〜とベッドルームには行かず執務机前のソファに倒れ込む。

 その間、軍曹はオレと自分のACUと下着類を取りに行っている間にうたた寝してしまった。

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