第8話 なんでバレない

「お二人の愛の巣につきましたら、ご報告しますね」小野さんの車でマンションまで送ってもらった。

「愛の巣じゃない」ここはちゃんと否定しておく。


「え〜そうなんですか。また千尋様へ期待するご報告が出来ないじゃないですか」

 聞き流せない事を言い出した「小野さん」それは何ですか?

「千尋様から個人的に依頼されてまして、お二人の進展を教えて欲しいと」母さん何頼んでんだよ。

「事務所じゃそんな依頼受けれないんで知り合いの私が頼まれた形になってます。報酬はバック。いい報告ができれば選んでいいメーカーが増えるんでお願いしますよ〜」

 知らなかったよ、小野さんかなりいい性格してた。


「藤田氏が所属している政党に、ここから出ている国会議員さんがいます。藤田氏のボスに当たる人ですね」

 マンションに入ると小野さん真面目な顔になり報告を始めた。美香もいる。

「うちに先生も何度かご挨拶したかただそうです」ここでの先生は小手川法律事務所の代表の小手川さんだ。

「『あなたの子分にこんな危険な人がいます』とお教えできる程度の関係性はあります」と小野さんにやりとした。


「選挙で選ばれる人は醜聞を最も嫌いますから、今頃藤田氏はとんでもない事になっているでしょう」

「国会議員って権力ありますよね。握り潰されるのでは」と僕は思った事を口にした。

「何のためにですか、無関係なバカな少年のためにそんな事はしません。藤田氏が行った隠蔽工作は雑極まりないもので手を貸すなんてありえません。リスクが多くメリットないんですから」


「元教頭と前理事長、そして藤田氏は大学の柔道部で先輩後輩の関係でした」

 教頭の体格にその頃の面影は無かったが、なんとなく彼が後輩で使いっ走りに行かされている情景が想像できてしまった。

「和樹様のご希望通りの解決になっております」わざとらしくいかにものドヤ顔を小野さんがした。

「お見事でした」と僕と美香は頭を下げた。


 ーーーーー


 気が抜け翌日は寝過ごした、まあ休みだから問題ない。

 二度寝をしようともう一度微睡みに沈む。


 "もみもみ"手が何か気持ちのいいものを掴んでいる。なんだこれ?

 頭がまだ寝ぼけてる。


「触り方が変わった。起きたんだ」とすぐ近くで美香の声がする。

 意識がはっきりしてくると状況を理解した、彼女を背中から抱きしめていた!


 右手手首を掴まれ下に動かされている。

 さっきの感触はもしかしておっぱい。多分胸。きっと乳。

 一気に目が覚めた。

 ベッドの上に飛び跳ね、仁王立ち。

 下から美香が見上げてくる、もう眼鏡をかけてた。


「寝ぼけて抱きついてきたのは許す。でも起きたなら許可無く触るのは禁止」


「ごめんなさい」

 叫んで部屋を飛び出た。


 ーーーーー


「和樹から『修行してるから今日は来れないって』」幹は自分で言ってて理解できていない。


 今日は和樹の退院を祝うために3人でカラオケでアニソンを思う存分歌う会が予定されていた。


「和樹はバカなのか」とは志郎。

「バカなんだろうな」


 約束の時間になっても来ない和樹へ連絡したら、さっきの返事が返ってきた。

 意味不明だ。


「何かが有ったんだろうな」

「有ったんだろうね。知りたいような、知りたくないような」

「絶対蜜姫絡みだから、彼女無しの俺たちには致命傷だろうな」

「でも付き合う事になった報告じゃないのは判る」


「それでも俺たちへのクリティカルヒット確実なのは、なんだろうな」

「なんだろうね」

「やっぱりバカなんだろ、あれで気づかないんだから」

「そもそも昔仲が異常によかった2人が、今はわざとらしくよそよそしい、でも嫌っているようにも見えない。早々に気づかれてたらしいからな」

「それ女子だろ、さすが。そして怖いね女子」何人かの顔が思い浮かびブルっと震えた。将来自分の彼女には持ってほしくない特殊能力だ。

「あさひさんに2人が同じマンションだって聞いて、納得したんだけどな」

「バレないようにカモフラージュしてたって事だよな」


 今日2人は確認するつもりでいた、和樹が同棲している事を。


「食器全部ペアのセットだった」

「色違いのジャージ持ってた」

「弁当のおかずが毎日一緒」


「隠す気あるのかあれ」

「和樹は隠してるつもりみたいだけど」


 ーーーーー


「悪い女だよ、自分で触らせておきながらバレたらその罪を愛しのカー君に擦りつけるのか」

「仕方ないじゃない」


 あさひが美香の所に遊びに来ていた。


「そもそも何で自分の胸を寝てる彼氏に触らせるんだ。普通起きてる男にさせるものだろう」


「彼の手で大きさ確かめてたの」


 あさひには何のことか理解できない。「はぁ?」


「昔、久美子ちゃんの胸をカー君がみてた事があって」

「久美子ちゃん?」説明になっていない。


「クラスで一番胸の大きかった子。カー君の視線が彼女の胸に向いてた」

「そりゃ男子は大きなおっぱい好きに決まってるでしょ」

「カー君は違う。ちゃんと聞いたもの」

 聞いたのかよ。


「自分の手に少し余るくらいが理想だって」

「なんちゅう変態的な答え、小学生の男子が言うことか。それ聞いて嬉しがるミカも変だし」それきっと慌てて取り繕った答えだとはあえて指摘しない。面白くなりそうだから。

「大きくなったの小さくするのは無理だけど、小さいならまだ大きくできるもん。あさひくらいがちょうどいいんだよね」とあさひの胸を羨ましそうに見る。

「そうか、これくらいがカー君の理想なのか」グッと背伸びし悪ノリしてみた。

「とっちゃダメ」

「取らないよ、そんな変態」


「後少しなんだから」美香の視線はあさひの胸に向けられたまま。

「少しじゃーねーよ。現実を見ろ」


 やってられないと話題をかえる。


「ほい。見つけたから買っておいた」とあさひが小さな袋を出す。

「あ、ありがとう」と美香が受け取り中身を確認する。美香も見つければ買うが自分のサイズの物はなかなかない。


「買うのも恥ずかしいんだけどそれ。何でその歳でそれ履くかな、どーせカー君がらみなんだろうけど」

「うん、前に好きだって言ってた」

「そーですか、そうですか。それは彼もお喜びでしょう」もうどーでもいい。

「ううん、この3年は見られてないはず」


「見せる前提で履いてるのに、見せてないのかよ」ツッコミどころ満載である。その柄を履く高校生がそもそもおかしい。

「偶然見えた方が絶対カー君のドキドキ大きもん」


 カー君第一主義である、ブレない。


「そのだらしない顔やめー。眼鏡掛けてスイッチいれろ、シャキッとできるはずだよな」

 美香は眼鏡を掛ける事で心のスイッチを入れ、カー君の前ではクールビューティーな美香を演じていた。

「カー君前提だもん、いなきゃ意味ないよ〜だ」

「あ〜お腹いっぱい。ごちそうさま、もうたくさんです」


「え〜聞いてよ。あさひにしか話せないんだから」

「そりゃ最初の頃は恋バナ面白かったけど、今はもう胸焼け状態。大好きな加賀屋のショートケーキも食べれないかも」

 中学からあふれ出すノロケ話、話したいが話せる相手も限られると言うか基本あさひだけである。


「しかし、ここまでウェルカムなのに、何でお前ら出来上がらないんだよ」

「何だっていいでしょ」

「よくない、イライラする。そもそも美香もそれでいいのかよ」

「うん。頑張って我慢してるカー君可愛いもん」

「なんだそれは」あさひはテーブルをバンと叩く。これがちゃぶ台ならひっくり返していただろう。


「小6ん時、"初めて"が来て自分が女なんだって意識したらカー君の顔見れなくなったの。2週間たって何とか会いにいったら、いきなりキスされて嬉しかったし恥しかったので泣いちゃった」

 その時を思い出して美香が遠くを見始めた。

「カー君も男の子だったんだって。私に色々したいことあっても大事に思ってくれているから我慢してる。もうその頑張りがいじらしくていじらしくて大好き」

 えへへと今にもよだれが出そうな笑い方をしている


「病気だよ、それ。変な性癖を持った女になってしまったな。お前をそんな風にしたカー君に責任とってもらいな」

「うん、そうする」

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「学校では話しかけてこないで」と言ってきた幼馴染みと同居する事になりました。 野紫 @nomurasaki

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