第121話 カーバンクルランドの来訪者。

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*この回からしばらくの間、第107話に登場した、カーバンクルランドの飼育員、かぞえ数人かずとくんの視点になります。(時間軸も、少々巻き踊り、昨夜の出来事となりま)


【第107話 おじさん、元同僚と再開する。】

https://kakuyomu.jp/works/16817330653694046415/episodes/16818023213247651464


 彼のことをもっと詳しく知りたい方は、彼が主人公を務める、

【仕事をクビになった日にケルベロスを拾った。〜食費を稼ぐために配信者になったらバズりが止まりません〜】

https://kakuyomu.jp/works/16817330654639943670


 を、お読みくださいませ。

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「つ、つかれた……」


 カーバンクルランドのしごとを終えた俺は、自分の部屋のベッドにぐったりとつっぷした。

 ベッドに放り投げた、スマホの待ち受け画面のデジタル時計は、そろそろ明日を刻もうとしている。


 カンコちゃんが、裏鬼門うらきもんのダンジョンの探索メンバーとして現地におもむいて2日が経った。

 カンコちゃんの抜けた穴を埋めるため、あるていどは仕事が忙しくなることを覚悟はしていたけれども、園長代理のポジションは、自分が思った以上に大変だった。


 常日頃、自分がいかに、カンコちゃんにおんぶにだっこだったかってのを痛感する。


 カンコちゃん、はたから見てると緋々色狒々ヒヒイロヒヒのスケロクや、ケルベロスのナナちゃん、ハッちゃん、キューちゃんと遊んでばっかりにしか見えなかったんだけどな。

 園長としてやることは、キッチリとやっていたってわけだ。カンコちゃん、恐ろしい子!!


 ……と、驚いて白目をむいている場合じゃない。

 明日も5時起きなんだ。一刻も早く寝て、少しでも体力を回復しないと!


 俺は、ベッドに潜り込む。

 部屋の中はシンと静まり返っている。でもそれが、かえって落ち着かない。


 そっか、ハッちゃんたちがいないんだ。


 ケルベロスは、3つの頭が交換で眠るため、基本、1日中起きている。

 だから、普段なら、


「ブフブフ」「ブヒブヒ」「ブホブホ」


 と、ナナちゃん、ハッちゃん、キューちゃんの誰かしらの鼻息が絶えず鳴り響いている状態だ。


 ハッちゃんたち、今日は、コヨミちゃんと寝ているのかな?

 俺は、特段気にもかけず、今度こそ眠りに入ろうとする。


 その時だ。


 ガタ……ガタガタ……!!

(うきゃ!? ワンワン!! 突然入ってきて、誰なんです!?)


 となりのコヨミちゃんの部屋から、激しい物音が聞こえてくる。しかも物音に混じって、スケロクやハッちゃんたちの鳴き声や、コヨミちゃんのおびえた声まで聞こえてくる。


 まさか、強盗!?


 俺は飛び起きると、コヨミちゃんの部屋に駆け込む。

 そこには、ワイヤーでグルグル巻にされている緋々色狒々ヒヒイロヒヒのスケロクと、ケルベロスのナナちゃん、ハッちゃん、キューちゃんと、パジャマ姿のコヨミちゃん、そして、目指し帽をかぶった、全身黒ずくめの男がいた。


「何やってるんだ!!」


 俺は大急ぎで、黒ずくめの男を突き倒そうとする。でも、


 ビュウン!!


 黒ずくめの男が、何やらバッジみたいなものをカチリと押すと、大量のワイヤーが飛び出してきて俺の足をギリギリとしばりあげた。


「うぎゃ!!」


 俺は顔面を激しく床に打ち付けて、悲鳴とも叫び声ともつかない情けない声をもらす。慌てて頭をあげようとすると、


「ぶべら!!」


 黒尽くめの男が俺の後頭部を踏みつけてきて、俺はふたたび情けない声をあげる。


かぞえ数人かずと。おまえは幻獣ではない。幻獣は手厚く扱うよう命令されているが、それ以外は、すみやかに殺害しろとのお達しだ」


 え? 殺害?? イキナリ飛び出た物騒なワードに俺は動揺がかくせない。そしてそれ以上に、ある事実に衝撃を受けていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 幻獣ではない俺には興味ないって言ったよな! おまえ、まさかコヨミちゃんの正体を……」

「おまえには関係ない。死ね」


 カチリ。ビュウン!!


 頭の上で何かのスイッチが押されたと思った直後、俺の首がワイヤーでしばられる。


「がっ……は……」


 首にまかれたワイヤーが、ギリギリと頸動脈をしめあげてくる。ヤ……ヤバい意識がとおくなって……。


「サンダーソード!!」

 バチバチバチバチバチィ!


 突然、女の人の声が聞こえて、黒尽くめの男は、緑色のまばゆい電光につつまれた。


「にゃはは、間一髪だったのだ」


 黒尽くめの男に、細身の剣を押し当てている金髪の女性。あれは……間違いない! 日本いや、世界一のダンジョン探索者の霜月しもつきカノエだ。


数人かずとさん! 大丈夫!?」


 今度は聞き慣れた女性の声がして、俺の首をしばるワイヤーを手早くはずしにかかる。


「ごほ、ごほ……あ、ありがとうヒサメさん」

「本当に大丈夫? 数人かずとさんの身にもしものことがあったら、私、私……!」


 ヒサメさんはメガネを外すと、真っ赤に腫れた目をこする。

 いつも冷静なヒサメさんがめずらしい。


「あ! 黒づくめの男が逃げるのだ! 待て待てー」


 霜月しもつきカノエは、窓から飛び出した黒づくめの男を追って外に出る。ここ、2階なんだけどな……。


「それにしても、どうしてヒサメさんたちが?」

「義兄さんから忠告をうけたの。カンコさんが不在中、カーバンクルランドが襲われないか見張ってくれって。義兄さんの予想通りだったわ」

「そっか、田戸蔵たどくらさんが……探索から戻ってきたらお礼を言わないと」

「義兄さんは甘い物好きだから、紀州銘菓のかげろうなんていいんじゃないかしら?」


 そう言いながら、ヒサメさんは、グレーのストライプスーツの胸元から拳銃をとりだす。


「私はこの場所でカノエを支援する。数人かずとさんも、いっしょに強盗をみはってもらえる?」

「わかった! でもその前にコヨミちゃんたちを助けていいかい?」

「もちろん! お願いするわ!」


「エライすいません!!」

「うきゃっひー!」

「ブフブフ!」

「ブヒブヒ!

「ブホブホ!」


 俺は足に巻き付いたワイヤーを大急ぎで外すと、コヨミちゃんたちのワイヤーを解きはじめた。

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