俺以外全員転生

奈月沙耶

俺以外全員転生

 嬉し恥ずかし高校生活が始まり一週間が過ぎようという頃。

 入学式を筆頭とした新入生がメインのもろもろのイベントも一巡し緊張もほぐれてこようかという昼休みの教室で。

 その奇妙なムーブメントが起こった。

「オレ実は織田信長の生まれ変わりなんだよね」

 出た。目立ちたくて悪ノリする電波が。

「マジで? おれは坂本龍馬!」

 おいおい、乗っかるなよ。

「僕はシャルル・ドゴール」

 いたって真面目そうな眼鏡くんまで。

「俺の前世はアクバル大帝だぜ」

「わたしは紫式部よ」

「へえぇ、あたしはジャンヌ・ダルク」

「ヌルハチ」

「ハンニバル」

「ヴラッド・ツェペシュ、知ってる?」

「おれ、鄭和!」

 時代も国もぐちゃぐちゃだな!

 気が付けば、俺以外のクラスメイト全員が前世の名乗りを上げていた。

 あげくに、あの合戦すごかったねシビれたよ、とか。

 あの名言やってやって、とか。

 あのネタの真相は? とか。

 最期は本当にツラくて、とか。

 当時はやんちゃしちゃってさぁ、とか。

 俺ひとりを置き去りに和気藹々と前世よもやま話が始まり。

 え、みんな当然のように前世って覚えてるもんなの? そんな、どこの中学出身? 第二弾、みたいな。

 俺、前世の記憶なんてないんですけど。

「ってことがあってさ」

 放課後。おな中の藤間と一緒に帰りながら愚痴っぽく話すと。藤間はふと立ち止まり、通りがかりの住宅の庭先へと視線を投げた。

「輪廻転生ってさ、命あるものは様々な生類に生まれ変わるわけだよ」

 遠い目をする藤間。こいつも誰かの転生だとか言い出すのか?

「オレはこの家の飼い犬だったんだ……」

 藤間の視線の先には、元は屋根が赤色らしい朽ちかけた犬小屋と。その中にちょこんと座っているぶち犬の陶器の置物が見えた。

「切ねえ!!」

「ん、だからさ……」

 くっと空を見上げて何かをこらえるように間を置いたあと、藤間は俺を見つめてそっと微笑んだ。

「前世が、人間とは限らなくて」

「ああ、うん」

「なにか、記憶が残らないような生き物だったとか」

「というと」

「ダンゴムシとか……」

「…………」

 そうか。俺の前世はダンゴムシなのか。

 さっき藤間がしていたように、俺も空を見上げる。

 底抜けの青さが目に沁みた。

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俺以外全員転生 奈月沙耶 @chibi915

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