あたしを買ってin古本屋 KAC20231

ながくらさゆき

ここは古本屋。あたしは本。

あたしを買って。お願い。

この古本屋もう今月で閉店なのよ。

今あたしを読みながらこみあげる笑いを我慢してるあなた、買ってよ。

ちょっと何で棚に戻すのよ。

買ってくれたらおうちで好きな時に読めるのよ。

何でこの値段で買わないのよ。

帰っちゃったわ。

何なのよ、もう。

立ち読みばっかりでやんなっちゃう。

あたしと同じ頃にこの店に売られた同期は、皆買われて行ったわ。


あれはいつだったかしら。

あたしを新品で買ってくれたご主人様との別れは。

毎日あたしを読んで笑ってくれたのに。

受験勉強に邪魔だからって。

ここの店主もなんなのよ。

あたしをネットオークションにでも出しなさいな。

あたしもう絶版なのよ。

マニアが喉から手を出して欲しがるのに。

こんな安い値段で売られるなんて。

何でよ!


「懐かしいな」

あら、この声は。

「クハッ」

この笑顔久しぶりに見れた。

あたしをこの古本屋に売りとばしたご主人様。

お腹をおさえて笑ってるわ。

「ククク」

涙出てるじゃないの。

ご主人様、あたしをまた……買ってよ。

あ。

あたしは、ご主人様の胸に抱かれた。



「ギャーハッハッハ」

あたしを読みながら布団の上を転がるご主人様。

この部屋、ご主人様のにおいがする。

懐かしいな。

「ギャハハハ」

痛いっ。

あたしは壁に投げつけられた。

ご主人様は涙を出しながら笑ってる。

「うるさい!」

ドアを開けるこの方は、お母様!

お久しぶりです。

「だって面白えんだもん」

「だからって投げないの!」

「ギャハハハ。やべえ笑い死にする」

あぁ、懐かしい。

ご主人様は面白い場面があると、たまらずあたしを投げて壁にぶつける癖があった。

ご主人様はあたしを拾ってまた笑う。

「ギャハハハ」

痛いっ。

今度はぎゅうっと、あたしを握り潰したご主人様。

痛い、痛いよう。

「そんなにボロボロにしたらもう売れないよ」

お母様それでいいんです。

あたしはご主人様とずっと一緒。

もう売れなくていいんです。

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あたしを買ってin古本屋 KAC20231 ながくらさゆき @sayuki-sayuki

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