為れぬものが成れる時
はまおもと
為れぬものが成れる時
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〇〇様
お世話になっております。株式会社△△芸能事務所の採用担当××です。
このたびは弊社のオーディションにご応募いただき、誠にありがとうございました。
ご提出いただきました履歴書をもとに慎重に選考を進めさせていただきましたが、
残念ながら今回は『不合格』となりました。
誠に恐縮ではございますが、何卒ご理解の程お願い申し上げます。
〇〇様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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「はあぁ...またかぁ...。」
学校からの帰り道。私は、スマートフォンの青白い画面に浮かぶ文字が突きつける事実にため息をつく。幼い頃からアイドルに憧れ、ダンス教室やボイストレーニング講座に入り、中学を卒業した頃からオーディションを受け始めた。
しかし、ピロンと着信音が鳴り、メールを開いたらこのザマだ。この事務所に応募したのは3回目、他の事務所も含めるともう何度オーディションに落ちたか分からない。最近は、2次審査にも行くことができなくなり、自身の中で段々と焦りの感情が大きくなってきている。私も今年で18歳、これ以上歳をとると合格の可能性がグンと減ってしまう。
「どうしようかなぁ...。」
高校もあと数ヵ月で卒業。今後の進路についていよいよ決断を迫られる時期になってしまった。両親や先生からは大学や専門学校への進学を進められているが、それは私にとって夢をあきらめることに等しい。それに、こんなところで諦めるのは、幼い頃から頑張ってきた自分に申し訳が立たない。しかし、現状先が見えないことも確かなので、私は悩んでいた。
「頑張らないとなぁ...。」
そう呟きながら歩いていると、私は学校の最寄り駅にたどり着いた。そのまま駅の中に入ろうとしたその時、ふと耳を澄ますと、音楽が流れているのに気が付いた。駅前のコンビニの音楽だろうかと思ったが、それはコンビニとは異なる方向から流れていた。その方向には、ギターを弾きながら歌っている人がいた。彼の手前には、チップを入れる場所であろうハットが置かれている。しかし、チップを投げ入れることはおろか、足を止めて聞いている者は誰一人いなかった。
(あの人も大変そう...私みたいに誰にも認めてもらえなかったんだろうなぁ。)
そう感じていた。しかし、その人の表情をみて私は驚いた。
(うそ...あの人、笑ってる...!)
彼の表情は、曇りのない太陽のような笑顔だった。彼は純粋にギターを弾くことを楽しんでいた。誰かに聞いてほしいという思い、それを感じさせないほどに。
(うらやましい...。)
私は心の中でそうつぶやいた。この言葉が単なる羨望の念からくるものではなく、純粋にダンスや歌を楽しんでいた幼少期を忘れ、ただ有名になりたいと迷走する自分に対する嫌悪を含んだものであることを自覚し、唇を強くかんだ。しかし、それと同時に、私の心の中に居座っていたモヤモヤが消え去り、雨上がりの空のように晴れやかになったように感じた。
「よし、私も...!」
私はそう言って、彼に背を向けて駅の中に入った。少し古びた改札は、私が通り過ぎた後にガコンと大きな音を立てて閉じた。それが、今までの自分との決別のように感じられて、私はふっと微笑んだ。
為れぬものが成れる時 はまおもと @hamaomoto_es
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