437 閑話・舐められてはおしまいな冒険者としては ―召喚士ギレンside―

『ギレン!ギレン!逃げて逃げて!すっごい怖い人に目を付けられちゃってるから!』


 ギレンが宿泊している宿の部屋で、手に入れたばかりの本を読んでいると、そこに使い魔の妖精、マルティカが飛び込んで来た。

 手のひらサイズの蝶の羽が背中にある人型。そんなに小さいのに、マルティカはいつも賑やかだ。


「は?何だ、いきなり。怖い人?」


『えっとね、えっとね……よし、風魔法で防音にしたよ!その怖い人、ギレンに協力して欲しいから改めて挨拶に行くって言ってたの。断っといたけど、来ちゃいそうだから逃げて!』


「…ええっと、マルティカ。誰がそう言ってたんだ?」


『シヴァ』


「だから、誰?」


『情報をくれた錬金術師で魔道具師でもあって…あっ!わたしが知ってることを教えたら、お礼にって髪飾りをもらったの!マジック収納になってるのよ!すごいでしょ?わたしが色んな種類を食べられるようにって、わたしサイズのお菓子をいっぱい詰めてくれたし。そんな凄腕の錬金術師で…あーええっと…うん』


「『にゃーこや』だな?」


『やっぱり、ギレンもおかしいと思ってた?いくら、わたしが有能でも、貴族に詳しくないのに早くに情報が集まり過ぎてたもんね。あの子が可哀想で同情したからってのも本当なんだけど!』


「……マルティカ、少しぐらいは悪いと思わないのか。おれを騙してたってことなんだぞ」


『言わなかっただけで、騙してないし!情報も正しかったでしょ?あの子も少しずつよくなってるよ!』


「……は?あの子って…」


『権力争いのとばっちりで、呪いをかけられてた可哀想な子。シヴァが騙してたのはみんなだよ。死んだことにしない限り、あの子はずーっとずーっと狙われただろうから』


「あの少年は生きてる、ということなのか?あんな可哀想な状態だったのに?」


『もうそこから騙されてるの。ものすごくよく出来た人形だったんだって。本人そっくりそのままで危ない状態は騙してなくて、シヴァがいくら、高度な医療技術や知識、すっごい霊薬を持ってても、回復させるのは難しかったみたいだよ』


「嘘だろ。あれが人形だと?体温も脈もあったし、産毛も細かいシワもあって、魔力や気配だって病気の人特有のものだったのに」


『そうだよ。ギレンたちのおかげでシヴァがあの子のことを知って、すぐ保護したから間に合ったんだよ!…あっ!ギレン、誰にも言わないでね!何の証拠もなく生きてるって言っても誰も信じないだろうし、シヴァが止めるだろうけど。……って、わたしがしゃべっちゃうの、予想済みなのかぁ…説明する手間がはぶけるしね……』


 そっかぁ、とマルティカは机の上に舞い降りた。


「そんなにヤバイ奴なのか?そのシヴァとやらは。『にゃーこや』の代表者?」


『うん、多分。店長だって言ってた。謎の組織じゃなく、商業ギルドに登録しているちゃんとした商会だって。よく分かんないけど、長期だとメリットがあることをしているそうで。ギレン、絶対に『にゃーこや』の敵に回っちゃダメだよ!死ぬより酷い目に遭うだろうから!』


「イマイチどうヤバイのかが分からんのだが?本当に『にゃーこや』なら、サファリス国の大雨災害もエイブル国王都の大火災の時にも、救助したり援助したりした団体だろ?つい先日の少年も救ったのが本当なら…」


『だからって、『いい人』とは限らないでしょ。人間かどうかも怪しいぐらいだし、『奇跡』も奇跡じゃなく、この世界はそういった知識が遅れてるだけだって言ってたよ。あ、それと、シヴァの戦闘力って神様クラスだと思う。転移が使えるんだから、近くに行かなくても瞬殺』


「………えーと、おれの認識だと、神様ってのは人間に直接は関わらないもの、じゃないのか?力が大き過ぎるから」


『それはそうだと思う。神獣と友達だそうだから、シヴァは使徒とか代理人とか?かもね。それも、何か違うような気がするけど』


「……待て待て、混乱して来た……。それが本当なら、どこに逃げても無駄じゃないのか?」


『……っっ!ホントだ……無駄だった…』


「まぁ、そう理不尽なことはしなさそうだから、何か協力して欲しいのなら、出来るだけ力になればいいだろう」


『でも、何か怖いことを考えてた気がするよ?』


「だからって、どうしようもないしな…」


 どこにも逃げようがないのなら、覚悟を決めるしかないだろう。

 そう思ったギレンなのだが……。




「『にゃーこや』の店長のシヴァだ。マルティカから聞いてるだろうけど、先日は騙してごめんな~」


 一ヶ月後。

 ギレンが宿泊している宿の一室にいきなり現れたシヴァに、ものすごくかるーく謝罪された。初対面での不法侵入である。

 相手は丸腰でも強者の余裕だと分かる。

 ダメ元でも戦うべきじゃないだろうか、とギレンは真剣に悩むことになった。


 舐められてはおしまいな冒険者としては。



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空気読まずケーキテロ新作☆

「番外編45 にゃーこや店員Aが教えるふわふわケーキレシピ」

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