432 監修したシヴァも満足な出来だった

 それから四日後。

 マルセリーノ(人形)は容態が悪化して死去した。

 誰もが涙した死ぬシーンは、監修したシヴァも満足な出来だった。


 死亡宣告を医者がして、家族も確かめた後、ティアマト国は南国にあるため、速やかに専用施設で遺体は焼却される。

 墓を作る慣習はないものの、普通の灰のようには扱わず、穴を掘って埋められる。少し魔力を含んだ灰になるので悪用防止もあるのだろう。

 魔力溜まりにはならないよう、時々で場所を変えているので魔物が生まれてしまうようなことはない。


 超リアルなマルセリーノ人形『病んでマルセー』を燃やされるのはもったいないので、その前に単なる有機物とすり替えておいた。

 魔石症のリアルモデルとしても使えるし、またこういったことがあった際にも、簡単に整形するだけで使える。


 遺体を焼却した後で形見を遺影のように見立て、葬儀を行うのがティアマト国の風習だった。

 祭壇を花で飾るのは万国共通らしい。


 王族で王位継承順位第二位だった公爵家嫡男の葬儀となると、規模が大きくなり準備もあるため、亡くなってから五日後に行われた。

 間に合う距離の貴族の当主は国中から駆け付け、香典とは言わないが、見舞金としていくらか包まないとならない。


 香典返しやお返しというものはないので、葬儀で儲けられるが、亡くなった人と引き替えられるワケがなかった。

 それでも、不謹慎な葬儀詐欺は平民の間では行われてたりするが、貴族ではさすがにない。高位貴族の嫡男でもない限り、大々的な葬儀はしないこともあって。


 ゆっくりと哀しむ間もなく、葬儀の準備で慌ただしく、また、親戚の誰を養子にするのかの後継者バトルの前哨戦も始まる。

 敵対勢力は内心高笑いでもしてるだろうが、主犯とその周辺は捕まっているため、神妙を装っていた。


 マルセリーノの死因はおおやけにはあくまで「原因不明の奇病」である。

 内心、敵対勢力全員を皆殺しにしたいだろうに、公爵夫妻は無表情の仮面で覆い隠し、頬はこけているものの、憔悴した寝不足な顔も化粧で隠して見せなかった。

 せめてもの矜持なのだろう。


 ちなみに葬儀の服装は特に決まっておらず、この色が定番というのもない。宝飾品で着飾り過ぎてギラギラしていなければいい、程度だった。女性はボンネットで目元を隠すのが定番らしい。


 ******


 葬儀が終わり、弔問客も帰った後、遺族はようやく一息つけるが、遺品整理や後継者選定、敵対勢力の締め上げで、そう長くはゆっくりしていられない。


 公爵家の大きな屋敷は、普段なら考えられない程、暗く沈み、まるで廃墟のような空虚で寂しい雰囲気になっていた。

 華やかな内装で普段よりも花が多いにも関わらず。



 夜。

 公爵夫妻だけになり、使用人も下げると、夫人の目が途端に潤み涙があふれた。

 我慢も限界だったらしい。


「ごめんなさい、マルセー。わたくしたちが力不足だったせいで…」


「もっと早く…もっと早く手を打っていればっ…弱腰の兄上なんかをアテにしたばかりに…。…いや、為政者として甥を切り捨てたのだ!わたしより奴らにおもねって自分の地位が揺るがさないように…」


 ポロポロ泣く夫人の肩を抱いた公爵は逆の右手の拳を握りしめ、ギリギリと歯がみする。


「息子が殺されてもまだ悔しがってるだけ?」


 ふっと姿を現した人影がそっと声をかけた。


「分かってる!分かっているんだっ!わたしが兄上を退位に追い込み王位に就いて敵対勢力を一掃し、腐った王宮を一から立て直しまとめ上げれば……マルセー。まぼろ…し、か?」


 公爵は大きく目を見開いてマルセリーノを見、その言葉に不審に思ったらしく、夫人の涙をハンカチで拭う手が止まり、夫の視線の先を見て、零れ落ちそうな程、目を見開いた。


「幻ならもう少し肉付きがよかった頃を思い出して欲しいよ。ゴーストだったらもっと怖い感じじゃない?見たことないけど。たくさん哀しませてごめんね」


「ま…マルセー?」


 大きな声けーきで呼ぶと消えてしまうのを恐れるかのように、夫人はそっと愛称を呼んだ。


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