424 レトロカフェでティータイム

 翌日の昼過ぎ。

 何のトラブルもなくタシンド・イル・ウィレーン子爵一行は王都オルディアに到着し、貴族専用門を通ってほとんど待ち時間なく王都へ入った。

 向かう先はウィレーン子爵のタウンハウス。

 貴族街にあり、王都オルディアは馬車が通れる道が決まっているだけに、どうしても他の貴族の馬車とも行き交う。


 ウィレーン子爵に対して友好的な貴族はほとんどいないらしく、不機嫌そうに眉を潜めたり、強烈な嫌味を言ったり、専属騎士を勧誘したり、と結構な扱いだった。

 シヴァたちは王都に入るまでが依頼だし、依頼達成サインももらったので解散でもよかったのだが、ウィレーン子爵邸の場所も知りたかったし、貴族街にも入りたかったので、シヴァたちも同行していた。


 貴族御用達の服屋や雑貨屋、宝石屋、本屋、レストランといった店も貴族街にあったが、中々オシャレな建築やディスプレイで、屋敷に呼び付けるだけじゃなく、貴族の方が出向いて色んな店を巡って買い物を楽しむことも結構あるようだ。

 現に、そういった貴族たちが歩いている。


 駐車場のように馬・馬車停め場が近くにあり、管理人がいるそちらに預けて歩くようだ。


 貴族街は別に塀で囲ってあるワケではないが、衛兵が見回っているのでフラチなことを企む輩には抑止力になっているだろう。

 ティアマト国は屋敷の門には門番を置くという風習はないらしい。小さい国なので貴族の数自体が少ないこともあるらしい。


 王都なので王宮もあるのだが、尖塔がいくつもあるいわゆる洋風の城ではなく、小高い丘にある砦だった。

 スタンピード対策だけじゃなく、戦争対策でもあるのだろう。正に最後の砦というワケだ。


 この街の建物は窓ガラスが大きく、平民街にも使ってある建物も多い。

 街で作っている物もあるが、大半は遺跡から見付かった物とダンジョンから採取した物だった。

 王都近くに遺跡タイプのダンジョンがあり、上の部分はダンジョンじゃなく、普通の遺跡でそちらからも発見されていた。どうやら、ガラスを作るマジックアイテムがあったらしい。


 ガラス同士をくっつける錬金術も進んでるらしく、細かいガラスでも大きく出来るそうだ。コアバタ調べである。

 平民街に近い所にウィレーン子爵のタウンハウスがあったので、その前でシヴァたちは別れた。


「お茶して行こうぜ。カフェがあったし」


「こんな格好でも入れるの?キレイな格好した人ばっかりだったけど」


「着替えるだけでしょ。馬車もあるし」


「…何でもあるよね」


 馬車までは出さなかったが、シヴァたちはカフェの近くの馬・馬車停め場に馬を預けてから【チェンジ】で着替えて、ちょっと裕福な平民風、な格好をした。

 『風』なのはどの服もそこらの王様よりレア素材も技術も使っているので。


「ん~久々の制服以外のスカート。こっちの方が温かいよね」


 春とはいえ、ラーヤナ国王都フォボスの朝夕はまだ冷える時期だ。

 サーシェだけじゃなく、女従業員たちはズボンの方が楽で温かいので、オフはジャージでゴロゴロしている……。


 アカネは寒い時期でも普通にスカートを履いてるのは、ステータスを上げたおかげで寒さ耐性もあるからだった。

 サーシェももう少し寒い地域かダンジョンの寒いフィールドフロアに行くようになると、耐性を獲得するだろう。


 服だけではラフ過ぎる髪型が合わないので、シヴァがささっと整えてやる。女性陣には髪飾りも。

 馬車停め場に勤める人たちは唖然としていた。【チェンジ】の魔法はまだこの周辺地域では知られていない。


 放って置いて、シヴァたちはさっさと目を付けたカフェへと向かった。


「転生者が関わってる?子孫?」


 町並みを見てアカネもひょっとして、とは思っていたのだろう。

 店内もいかにも地球のレトロカフェだった。居心地がいいのは異世界でも共通らしく、他の店より客が入っていた。


「まだ調査中」


 店員が人数の確認をして席に案内してくれる辺りも、影響が見られるが、食の影響が大きいエイブル国ラーヤナ国でもそれが定番なので。

 全部が全部ではなく、客が勝手に店に入って空いてる席に座り、店員が気付かず、注文を取りに来なければ、大声で呼んで…といった感じになっていた。

 こっちの方が店員がやり難いのは言うまでもない。


「何かうちのホテルのサロンみたい?うちはもっとゆったりと家具を配置してるけど」


 席に座って注文を終えると、リミトがそう言い出した。


「雰囲気がよく似てる…あ、もちろん、質は全然違うんだけど、方向性は感じるというか、力及ばず?」


 サーシェが鋭い所を突いた。


「資金より知識と技術力の問題だったんだろうね。わたしたちの故郷でも、何でも詳しくて大半は何とか作れるし、出来ることも多い超有能なシヴァはかなり特殊だから」


 アカネがサーシェが言いたいことを分かり易く言い換えた。


「Aさんだって有能だから、こういった店を作ったら、もっと完成形に近かったんじゃない?」


 サーシェがそう言うと、リミトも同意して頷いた。


「まぁ、ここよりは。時間はかなりかかっただろうけどね。でも、わたしは堅実なんで店は作らなかっただろうし、目立つようなマネもしなかったと思うよ。二十年以上も生きてれば、まったく知らない場所でも何がマズイのかぐらいは何となく分かるからね」


「冒険者になってまずは情報収集と薬草採取。で、コツコツ身体を鍛えて強くなって生活基盤が出来てから、この先どうするか考える?」


 アカネなら、こうするだろう。


「そう。上手く紛れてね。そういったの得意だし。で、少しずつ稼げそうな知識を商業ギルドに登録して…と思ったけど、エイブル国ラーヤナ国だと不器用な人が多いから作れない物が多いんだよね。こっちの方だとまた違うみたいだけど」


「得手不得手が激しい感じだよな。統一性があまりなくて」


「ねぇねぇ、Aさん、稼げそうな知識ってどんな関係の知識?」


「料理全般。特にお菓子は世界中のレシピを色々作ってたから覚えてるし、材料や道具が揃わなくて同じ物は作れなくても、似たような美味しい物は作れる自信あるし」


「問題は砂糖が高い、荒い、精製の質もバラバラな所だよな。小麦粉もか。売り出すのなら品質が安定しねぇのは致命的」


「あーそれネックだよね。ただでさえ、粉物ってその時々で調整がいるのに、安定した味を出すのが難しいのは。まぁ、物作りも得意だったんで最初は便利なポーチとかバッグとかで」


「色んなデザインあるしな。でも、ファスナーは?」


「それがネック。ファスナーがなくてもバッグは作れるけど、あった方がデザインの幅が広がるし、使い勝手もいいし。構造は知ってるけど、何にもない所からだとわたしには作れないだろうなぁ。がま口ならまだしも」


「あ、流行らせたらどう?がま口ぐらいならどこだって作れるだろうし」


「何?がま口って?」


「カエルの口みたいな金具。捻って開ける」


「小銭を入れておくのにいいんだけど、もっと大きいがま口を使ったバッグも可愛いんだよ。…んー?前に作ったけど、どこに入れたか…」


 錬金術用に素材を溜め込んでいるが、多過ぎるので、いくつかのマジックバッグや収納に分けて入れていた。


「まぁ、後で作ってやろう」


 そんな話をしていると、注文した物が届いた。



――――――――――――――――――――――――――――――

新作☆「番外編44 育ての親心、白鷹獅子知らず」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093074635349833

コラボ4コマ(18,19,20,21)

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093075093102173


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る