425 シヴァは照れが足りない

 サーシェは季節のフルーツとクリームのショートケーキとハーブティ、リミトはハーブチキンのサンドイッチと紅茶、アカネはアイスクリームを添えたアップルパイと紅茶、シヴァはチョコレートケーキとコーヒーだ。


 鑑定で分かってはいたが、中々美味しかった。

 まぁ、アカネやシヴァが作った物とは比べ物にならないものの、限られた材料で善戦はしている。


「ん~やっぱり、バニラを見付けてないみたいだね。この辺でも育つと思うんだけど。例によって薬として扱われてるのかも?」


「どうだろうな。匂いに惹かれて来るご当地限定魔物とかがいるかもしれねぇし、見付ける前に食っちまう虫とか動物がいるかもしれねぇし。…チョコの滑らかさはイマイチ」


 それが知りたかったので頼んだというのもあった。


「じゃ、魔道具の性能が低いか、使ってないか、だね」


 シヴァは一口、チョコケーキをアカネに食べさせる。

 あーん、とか言わなくても普通に食べる奥様である。


「発酵度合いも低く、焙煎し過ぎな感じ。ミルク…うーん、何だろう?植物性かな、がまろやかにしていて、これはこれでいいと思うけど」


「詳細分析に回す程でもねぇかと」


「まぁね」


 アカネはシヴァにアイスを一口くれる。どこといって特徴のないミルクだが、乳脂肪分が低くあっさりしていてこれはこれで。


「…あの~周囲が対応に困るんで、さり気なく食べさせ合わないでよ」


 そこで、リミトがたしなめた。見慣れてるので赤くはならない。

 サーシェは普通にケーキに夢中だった。季節のフルーツはアメリカンチェリーだったが、まだ食べたことがなかったか。

 シヴァたちに周囲が注目しているのは最初からだった。


 この辺にはない質も仕立てもデザインもいい格好で、仕草や振る舞いも洗練されていて平民には思えず、かといって近隣国の貴族にも思えなくて。これだけ目立つ人たちなら、とうに噂になっているハズ、と。

 さり気なく、と本人たちは思って客に混じっている貴族の護衛は顔が引きつってる人が多いが。


「故郷だと普通だったんで」


「嘘を教えない。ラブラブカップルは、ね。シヴァは照れが足りない」


「……照れ…まったく想像出来ないことに驚いた…」


 リミトがそんな失礼なことを言う。

 シヴァはリミトには一口サイズに切ったチョコケーキを皿に載せてやった。


「…う、ちょっと残念なことに。いいチョコを食べてたんだなぁ、としみじみ改めて思った。ラーヤナ国エイブル国ではチョコはダンジョンで出ることもあって?」


「それはあるだろうな。でも、ダンジョンで出る物はこの世界のどこかにある物で、海を越えた国だともっと食レベルが高い。この辺でも、かつてはダンジョン水準の物を作れていたかもしれねぇけど」


「今ではアーティファクトと呼ばれてる古代文明の遺産があったから?」


「それを開発したのも古代人だぞ。身近なアーティファクトの冒険者ギルドカードにしたって、自身のステータスがいつでも見れたり、討伐履歴も保存されたり、ともっと多機能なのに今の人間には複雑過ぎて扱えないだけで」


「仕組みの方に興味持つ人が少ないとこうなっちゃう、ってワケだね」


「何がどうなってるのか、まったく分からない物だと、仕組みは気にしないんじゃないかなぁ」


「分からなくてもイメージ次第で作れるのが魔法だけどな。おれだって分からねぇことばっかだぞ。よく分からねぇけど、希望通りの物が出来たし、で」


「理論とか法則とか気にしちゃうとね~。でも、ある程度知っといた方が魔力節約な物が出来るか」


 その通りだ。


「だからこそ、どうなってるのか知りたくもあるワケで」


 どうやら、時間はたっぷりあるようなので焦らず研究する予定である。

 精算をしてカフェを出て歩き出すと、


「Bさん」


とリミトが何か言いたそうに小声で呼んだ。


『尾行者なら知ってる。放っとけ』


 シヴァは念話通話でそう返した。

 隠密スキルを使って姿は見えなくなっている(シヴァとアカネ以外には)ものの、熟練度が低く気配が殺せていない、足音もそのまま聞こえる稚拙な尾行なのでリミトもサーシェもすぐ気付いたワケだ。


 馬・馬車停め場へ行って預けた馬を受け取ると、【チェンジ】で再び冒険者仕様に着替えてから、馬に乗った。


 尾行者は気にせず、予定通りに冒険者ギルドへ行く。

 王都だけあってそこそこ広い街だが、馬と馬車が通れる道は限られているので通って来た道を引き返した。冒険者ギルドは利便を考えたらしく門の側にある。 


 ギルドの馬車・馬置き場に行くと、他の馬や馬車に紛れてシヴァとアカネの人工騎馬はペンダントに戻し、リミトとサーシェの馬はホテルへ戻した。にゃーこによろしくしたので世話もしてくれる。


 街中でスピードを出すワケにも行かないので、尾行者も難なくついて来たが、冒険者ギルドの中までは入って来なかった。

 尾行者よりレベルの高い人が多いので見付かることを懸念したのだろうが、普通に姿を現して入ればいいだけなのに。頭が固いらしい。


 シヴァたちがどういった人たちか知りたかっただけなら、冒険者だった、という報告だけで十分なのかもしれないが。


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