第14章・奇病に罹った公爵令息
426 灯台下ぐらしも極まれり
半端な時間でも王都だけあって、冒険者ギルドの受付の前には行列が出来ていた。
こういった機会は情報収集に持って来いでもある。
王都の側の遺跡型ダンジョン、オルディアダンジョンは難易度はさほど高くはないのだが、タフなゴーレムや素早いパペットが多いので厄介、と思ってる冒険者たちが多かった。
全20階の一フロアが広い中型ダンジョンで攻略は何度かされている。
達成報告自体はパーティリーダーがサイン入り依頼票を持って行けば処理されるので、その後なら同じ依頼を受けた冒険者は報酬を受け取れるのだが、早く報酬を受け取りたい場合はリーダーと一緒に手続きする。
金が入ればすぐ使いたい、持ち金はとうに使ってしまってアテにしている冒険者も多いので、受付が混むことになるワケだ。
「おう、聞いたか?『裁きの火炎』がこの街に入ったって!」
「マジか。彼らが通った後は消し炭だけって言うあの?」
おいおい、無差別殺人者か。
「指名依頼で誰かが呼んだのか?」
「護衛依頼で?」
「貴族と揉めたって聞いたことあるけど」
「血祭りに上げたらしいぞ。で、『死んでないからいいだろ』みたいなことを言ったらしい」
「何それ、カッコイイ!」
「って、それで呼び出されたんじゃね?事情聴取で」
「でも、結構、前の話だぞ。今更?」
「別件で依頼があるとか?でも、そんな高火力が必要な依頼って?」
「…戦争?しょっちゅう小競り合いしてる国から頼まれたとか?」
「おいおい、シャレにならない死者が出るぞ」
「戦争に加担する冒険者は多くはないハズだけど…」
「国を渡り歩いてると知り合いも多いしな…」
「そんなに強い人たちなのか?」
シヴァも噂話に加わってみた。
「おうよ!ゴブリンの集落が出来ちまった時も大活躍だったんだよ!炎の剣でこうズバッと!」
「魔法剣士ってこと?それとも剣が特殊で魔剣?」
「え、どう違うんだ?」
「魔法剣士っていうのも初めて聞いた!魔法も使って戦う剣士ってことか?」
「そう。武器に魔法を付与して魔物の弱い属性の攻撃したり、物理耐性がある魔物でも魔法付与した武器ならダメージを与えられるし」
「へぇ!そりゃいいな!」
「詳しいな。あんたがその魔法剣士ってヤツ?」
「いいや。そんなまどろっこしいことはしねぇな」
そもそもがオーバーキルなのだ。
「で、『裁きの火炎』ってどんなパーティなの?」
アカネが話を戻し、詳しい話しを聞いた所、『裁きの火炎』は召喚士、剣士、槍使い、女魔法使い、回復術師兼テイマーの五人のAランクパーティ。
全員が火系魔法、魔物、使い魔を使うことから、こういったパーティ名になったらしい。
召喚士が混じってる所が珍しいが、かなり凄腕で攻撃、防御、斥候、騎獣と多数の使い魔を召喚出来るパーティリーダー、だとか。
Aランクなので当然、召喚士本人の戦闘力も中々のものらしい。
面白そうなパーティなのでコアバタたちだけじゃなく、シヴァも分身を何人か出して捜索することにした。
しかし、あいにくとそこまで本気出して捜索するまでもなく、数秒で見付かった。
『裁きの火炎』は冒険者ギルドの三階にいたのだ!
気配魔力遮断・防音の結界を張っていたので、すぐには気付かなかったワケだが、捜索すると中々ない強度と機能で結界を張ってあることで悪目立ちしていたワケだ。
灯台
シヴァたちは程なく、依頼達成処理をして報酬をもらうと、併設されている食堂の方へ移動した。
「何だって?」
知らない飲み物を注文した後、アカネが前置き抜きでそう訊いた。
「単なる雑談してるだけだぞ」
「え、何の話?」
何のことか分からないサーシェは小首を傾げたが、リミトは違った。
「『裁きの火炎』の話でしょ。中々いない召喚士と来たら、Bさんが興味持って当然だし。でも、すぐ見付けたの?」
「このギルドの三階にいた。応接室だな。中々の強度の気配魔力遮断・防音結界を張ってるから、悪目立ちしてて」
「それでもシヴァには覗き見するぐらい簡単だよね。【千里眼】スキル持ってるし」
「転移系魔法の派生でな」
「ああ、転移する前にその場所が安全かどうか視えるって言ってたヤツね。でも、気付かないの?【直感】スキルとか持ってたら」
サーシェはその辺が気になったらしい。
「シヴァとはレベルが違い過ぎるんでしょ。でも、どんな人たち?【幻影】でちょっと映して。周囲には認識阻害をかけるから」
「はいはい」
アカネの要望に応えて、シヴァは【幻影】で『裁きの火炎』リアルタイム映像を見せてやった。
外見は二十代前半から三十代前半だが、実年齢はそこそこの年。
ステータスが高いので老化が遅いのもあるだろうが、召喚士は153歳で長寿の遺伝子持ちの特徴もないので、若返りの霊薬を使ったのかもしれない。距離があるとさすがに詳細鑑定までは出来ない。
召喚士は錬金術も使えてそれなりのレベルなので、素材があれば作れただろう。求めてダンジョンに潜るよりは効率がいい。
「外見は何か結構普通っぽいね。冒険者装備じゃなければ、見逃しちゃいそう。実際見ると、何かタダモノじゃない感があったりする?」
アカネがそんな感想を述べて訊いた。
「召喚士はな。他は普通だろ」
「…Bさんの普通の基準って一体…」
「あ、Aランクの人たちとも知り合いなんだから、その基準なら普通ってことかも」
「実際には火ばっかり使うワケじゃなさそうだし、そうだったら三流だしな。パーティ名と印象が強かったってだけだろ。この召喚士がいるなら、おれが会ったパーティの中では一番強い。錬金術師でもあるから、使い魔では無理な分野でもあらゆる環境に対応出来るだろうし」
「一番じゃないでしょ。この四人の臨時パーティがいるし」
「だよね!」
「Bさんが最強ってだけのような気がするけど!」
「臨時は除外」
そこに、店員が飲み物を持って来たので、幻影も認識阻害も解いた。
ささやかな魔力しか使わないので、もし、周囲を探っている人がいたとしても、注目されない。
飲み物は味はよくてもぬるいのがネックだったので、軽く凍らせた上、氷を入れて飲んだ。
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