427 ずーっと走ってるようなもんだから衰弱する

 シヴァたちは雑談しつつ、『裁きの火炎』たちを窺っていると、本題に入った。

 王族の一人…王弟(公爵)の息子、王位継承順位は第二位、政治的にも影響力のある人が奇病にかかり、こちらの人材はお手上げなので、召喚士だけじゃなく錬金術師でもあるリーダーに助力を願いたい。


 また、効きそうな霊薬を持っているのなら譲って欲しい、詳しい人物がいるなら紹介して欲しい、という依頼内容だった。


 政治に関わるため、この街に来るまで依頼内容は知らされず、至急の依頼あり、と指名依頼で『裁きの火炎』はここまで呼び出されていた。


 王弟(公爵)息子…マルセリーノ・モンツォ・ザイサバスは十三歳。

 奇病の症状はいつのまにか腕に出来た蔓草のようなアザが日々、伸びて行き、それに伴い魔力が上手く動かなくなり、体内の所々に魔力溜まりが出来、宮廷魔道士が魔力調整をたびたびしても一時的によくなるだけで、どんどん衰弱して行く。最近では顔や関節がむくんで来た。


 呪いを疑って何度か解呪したものの、手応えがなく、これは呪いじゃないかもしれない、と宮廷医師、魔道士、薬師、識者が思い始めているらしい。


「呪いじゃないの?覚えのないアザはつきものだし」


 シヴァが教えてやると、アカネがそう感想を述べた。


「おれもそう思う。媒体を使っててそれを見付けない限り、解呪出来ない上、『魔石症』を人工的に起こした複合だろうな」


 原因不明で魔力溜まりが体内のあちこちに出来て、症状が進むと魔石が出来てしまうのが魔石症だ。

 だが、人工的に起こすのは難しくない。

 食事に魔石粉を混ぜれば、魔力を吸収して自然と体内に広がるからだ。低ランクの魔石でも何度か繰り返せば、魔石粉或いは魔力が運ばれる先は偏るので。


 原因不明なのは、色々実験していても特定出来ないからである。体質も関係があるのは分かっているが。


「Bさんなら媒体なんて見付けなくても、さくっと解呪出来そうだけど?」


 リミトがそんなことを言うが……。


「出来なくはねぇけど、無理矢理だと身体に負担がかかるからな。解呪した途端、死ぬ可能性が高い。出来る限り、呪いのルールには従った方がいい」


「そもそも、どんな呪い?魔石症で衰弱してるのなら、呪いはアザが伸びるだけ?」


 サーシェがそう訊いた。


「浮遊魔力吸収だろ。魔力が滞るのも多過ぎる魔力も身体の負担になるし、魔力を受け入れられる上限があるから余剰分は放出する。で、また吸収。だんだん全部は放出出来なくなって溜まり、ずーっと走ってるようなもんだから衰弱する、というワケだな」


「恨まれてるよねぇ。王弟の父親が、かな。子供を攻撃された方がダメージが大きいし、ガードも緩い。でも、助けたとしても一時的で狙われる根本を排除しないとイタチごっこ、というね」


 さすが、アカネは分かってらっしゃる。

 簡単に「助ける」という判断はしない。非情なようだが、キリがないので割り切りは必要なのだ。


「え、助けないの?」


「本人次第だな。助けられるとも限らねぇ。既に手遅れかもしれねぇし。命令を出す脳味噌の機能自体が弱ってても生きていられると思う?」


「…無理だね」


「命だけは助かるかもしれないけど、何も分からないまま、動けないまま、身体だけ生かすのも残酷だしね」


 いわゆる『脳死』状態だ。


「そんなギリギリで生かせる技術がねぇって、この世界には。おれもやるつもりねぇし」


「正解だと思う。そういった技術は持ち込むべきじゃない。エリクサーがあるんだしさ。霊薬で真新しい臓器作って頂戴、で」


 『脳死』のまま、生かす技術は内蔵提供者…ドナーにするためもある。

 どれだけわずかな可能性でも賭けたい、身体はまだ生きているのなら生かしたい家族のためも当然あるが。


「遺伝的に欠陥がある臓器もまんま再生しちまうから、その辺は改善したい所なんだけどな」


 欠陥遺伝子を特定するのも難しいワケで。

 何か難しいこと言ってる、でリミトとサーシェには流された。知識は色々教えているが、まだまだついて行けない話が多い。


 シヴァはとっくに念話通話でコアバタたちに調査を頼み、分身もマルセリーノに送っている。間に合わなかったり、足りない物があれば、連絡して来るだろう。


「あ、Bさんが手を出すと横取りになっちゃわない?」


 サーシェがそこに気付いた。


「あっちはどうにか出来る技術は持ってねぇから問題なし。精霊王を召喚出来るんなら治せる可能性や治療に役立つ情報があるかもしれねぇけど、そう簡単に召喚出来るワケがなく」


「そりゃそうだよね。…って、そうなるとBさん、精霊王以上ってことに」


「何を今更。この世界にはない技術と知識を持ってるんだから、上回る分野があって当然だろ」


「あーまぁ、そう考えればそっか」


「そもそも、精霊王に何が出来るかが分かってないんだから、比べるのは的外れじゃないの」


 アカネがその辺にツッコミを入れる。


「確かに。イディオスの話でしか知らねぇしな」


 神獣のイディオスと精霊王たちは面識があるそうで。


「…それは信憑性が無茶高いね」


 こちらがそんな話をしていた頃、ギルドの三階の『裁きの火炎』とギルドマスターとザイサバス公爵の使者は深刻な雰囲気だったが、だんだんと殺伐として来ていた。


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