397 金の卵になりそうな商品だと正しい判断

【アイシャがあの貧血の薬?もっと欲しいってさ。この二週間で貧血症状がかなり改善したそうで。母親も】


 急ぎでやることは一段落したため、時々は従業員たちの先生や引率をやりつつ、色々開発したりして、まったり過ごしていたシヴァにヒルシュからそんな連絡が来た。


「当然だな。友達も欲しいって?」


【あ、やっぱり予想してたか。そう。たった数日で顔色からしてよくなってたし、訊かれまくったんだろうな。でも、そう安い値段で売るとキリがなくなるぞ。広まりそうだし】


「そっちに薬師ギルドってあったっけ?なけりゃ、商業ギルドにレシピを登録する。レシピを買った人が自由に作って販売出来るようになるから手間なしだし」


【え、そんなに簡単に作れるのか?】


「材料さえあれば、錬金術師じゃなくてもな。ただ錠剤にすると時間と手間がかかり過ぎだから、飲み物にする。効果は同じ。マズイけど」


 いわゆる『青汁』だ。


【……確かにあの材料だとな。それで売れるようになるのか?】


「美容にかける女の執念はマズイぐらいじゃ、ビクともしねぇだろ。そっちの地域だと手に入り易い大麦若葉と川魚と淡水の貝、しじみとかカラス貝とかが主成分になるな。飲み易いよう砂糖や蜂蜜やミルクを入れたりするのもいいけど、コストは上がる」


【あー確かに。まぁ、とりあえず、錠剤を売ってくれ。いつならいい?】


「今いいから、すぐ行く」


 ただいま、十時過ぎ。

 シヴァはちょうど買い物に出かけようかと思ってた所だ。

 季節の野菜や果物がまだよく分からないので、市場チェックは欠かせない。ついでに買い食いするワケだ。


 リビエラ王国ダグホードの街、ヒルシュが勤める食堂が入っている従魔と泊まれる宿の近くに転移。ディメンションハウス経由ばかり使っているのも、何だか感覚が鈍りそうなので。


「ちはーす」


 シヴァは食堂の扉を開きつつ、挨拶した。


「…本当にすぐだし。実は近くにいたんじゃないのか?」


 空き時間らしく、食堂にはヒルシュしかいなかった。誰もいなかったので連絡して来たのだろうが。


「まさか。ラーヤナ国王都フォボスにいた。そっちにいた証明ってのも難しいから、ヒルシュに時間があるなら連れて行こうか?ちょうど市場チェックと買い出しに行こうかと思ってた所だし。サプリは急いでねぇだろ」


「そうだが……いいのか?大魔法じゃないのか?」


「魔法に夢持ち過ぎだって。こっちより寒いから上着は厚手のものな」


「じゃ、ちょっと待ってろ」


 短時間でも本当に他国に行けるなら、とばかりにヒルシュは大急ぎで奥から上着を取って来た。


「じゃ、フォボスの市場から一本入った所へ」


 手を握らなくても一緒に転移出来るが、急に場所が変わるとふらつく人も多いので、シヴァはヒルシュの手を握り、さくっと転移した。

 あ、影転移のフリを忘れた、と思ったが、魔法に明るくないので分かるまい。


「到着」


「…はぁ?呪文は?魔法使う時って杖がいるんじゃないのか?」


「いや、別に、なくてもいいって。魔力を蓄えておいたり、特定の魔法を使い易くしてある杖はあるけどな。呪文っつーか詠唱もいらない。生活魔法でも詠唱しねぇ人の方が多いだろ。慣れだ、慣れ」


「……そ、そうなのか。え、でも、生活魔法とは規模が違わないか?転移なんて伝説級なのに…」


「魔力が足りねぇだけだって。そんなことより、ようこそラーヤナ国王都フォボスに」


「本当にフォボスなのか?」


「そう。その辺の人に訊いてみてもいいけど、ま、市場見りゃ分かる。全然品揃えが違うし」


 ほらほら、時間がなくなるぞ、とシヴァはヒルシュを市場の通りへと連れて行き、買い食いしつつ、食材も買って行った。

 フォボスかどうかは分からないにしろ、他の国というのは納得したようで、ヒルシュも生き生きとあれこれと買った。

 大容量で時間停止の収納バングルをシヴァが貸してあるので、日持ちを考えなくてもいいのだ。


 昼の仕込みがあるので、ヒルシュは早々に帰らないとならなくなったが、今度、休みの日に色々連れて行くことになった。内陸育ちなので海辺の街もいいだろう。

 危うくサプリを渡し損ねそうになったのはご愛嬌だ。


 ******


 ヒルシュを送って行ったついでに、シヴァはダグホードの街の商業ギルドに行ってみた。

 薬師ギルドってあったかな?な知名度らしいので、訊いてみよう、というのもあり。

 どちらかと言うとサプリも青汁も食品だが、効果があるものは全部薬のくくりかもしれないので。

 ここの商業ギルドも賑わっていた。活気がない商業ギルドの方が怖いか。


「サプリメント?それは一体、どういったものですか?」


 当然、訊かれると思ったし、登録しようとは思っていたので書類も作ってあった。

 サプリと青汁両方を登録予定である。錬金術師が副業で作ってもいいし、調合や錠剤作り用の魔道具があるハズだ。


 ざっと書類に目を通したギルド職員はサッと顔を青ざめさせ、

 奥の商談室へとシヴァを案内し、上司を呼んで来る、と席を外した。金の卵になりそうな商品だとちゃんと目利きが出来たらしい。

 呼んで来たのはダグホードのギルドマスターだった。


 画期的な食べ物だ!と興奮していたが、薬でも薬じゃなくても、商業ギルドの会員が売るのは問題ないそうだ。

 薬師ギルドは確かに薬を売っているが、薬師を保護して、トラブルに対処したり、薬作成依頼を斡旋したり、といった組織らしい。

 国から助成金が出ているので薬師ギルドの薬の方が安いことが多いが、レアな薬や大量に必要な薬なら素材を豊富に用意出来る商業ギルドの方が強い、と客の方で選んでいた。


 ヘモ鉄サプリと青汁はどちらも登録するのは問題なかった。

 販売はしないのかと熱心に勧められたものの、他の商売もあるので正直手が回らない。

 売るのは自動販売魔道具でいいが、問題は両替だ。たびたび両替しているのに、まだ大量に銀貨と銅貨がある……。


 ライセンス料をもらうだけでいいので、商売するなら勝手にどうぞ、だ。

 登録は『にゃーこや』名義で。


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新作☆「めがーね?MEガーね?メがーNE?」

https://kakuyomu.jp/works/16818093074417686883/episodes/16818093074417749783

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