398 売上なんざそこそこでいいんだって

「お、お客様、エイブル国、ラーヤナ国、各国ダンジョンの下層で自動販売魔道具を用いて画期的な物を販売しているにゃーこや様、でしょうか?」


 会員登録、レシピ登録用紙を見てギルドマスターが丁重にそう訊いて来た。


「ああ。おれはそこの店員B」


 シヴァはラーヤナ国、エイブル国で作った商業ギルドのカードを見せる。

 冒険者ギルドと違い、商業ギルドは他国では身分証明にはならないが、そこまで知っているのなら、多少の証明にはなるだろう。


「どれか自動販売魔道具をお持ちなら、見せて頂けませんか?」


「いいけど、管理出来ねぇからこの国には置かねぇぞ」


 シヴァはそう断ってから、小冊子の自動販売魔道具を出した。

 補充するより入れ替えた方が早いので、たくさんあるのである。

 小冊子は読み書き、計算、料理レシピの最初に出したものだ。口コミで広がり、買いに来る人たちもいて、いまだに順調に売れているのである。


「…ほ、本物だ…」


「…リビエラ王国にも進出を考えていらっしゃいますか?」


「いや、まったく。食材探しと見聞を広めに来て色々あって、貧血改善サプリを知り合いに分けたら、かなりよかったらしく更に欲しがられたから登録しとこうかな、というだけで。特に内陸だと鉄分不足で貧血になり易いしな」


「そのサプリを売ってもらうことは出来ませんか?委託販売という形で売るのはこちらでやりますから」


「それこそ、薬師と連携したら?調合調剤の魔道具があるハズだし。簡単に集まる材料だけで作る青汁も効果はそう変わらねぇから、ヘタに高額で売ると売れなくて赤字だと思うけど」


「効果を知れば、青汁だけでもかなり売れると思いますが、お客様は独占しようとはお考えにはならないのでしょうか?」


「そうやってすぐ独占しようとするからこそ、新しい食べ物や技術が中々広まらねぇんだぜ。この青汁にしたって基本材料+でオリジナリティはかなり出せるだろ。

 にゃーこやの目的は食生活も生活も豊かにすることだ。売上なんざそこそこでいいんだって。自動販売魔道具一台で国家予算何年分かぶっ飛ぶのに、採算なんか取れるワケがねぇし。この小冊子の自販はマジックバッグの技術は使ってねぇからまだリーズナブルだけど、それでもドラゴンブレスに耐える程の防御力を持たせてあるから、国宝並みかな」


「……な、何故そこまでの防御力を…」


「強盗対策。今まで散々チャレンジされてるけど、壊した奴も杭を引き抜いた奴も皆無。今は杭は打ってねぇけどな」


 シヴァは小冊子の自販を収納した。


「そういえば、お客様、マジックバッグやそれに類する物をお持ちではないようですが、アイテムボックスのスキル持ちなのでしょうか?」


「いや、これが収納のマジックアイテム。どれだけ小型に出来るのかと開発した最新型だな」


 シヴァは左耳外耳に着けている青いダイヤ風人工石が付いたイヤーカフを指で差した。

 マジックバッグから取り出しているフリ、がもう面倒になったし、教えた所で信じないだろう、と。ここまで小型の収納アイテムはダンジョンコアたちも見たことないそうなので。


「あ、鑑定対策してあるから鑑定しても無駄」


 商業ギルドの職員には鑑定持ち、それに類するスキル持ちが多い。

 だから、自動販売魔道具を出す前でもシヴァがすぐにゃーこやの者だと信じたのだろう。

 シヴァはどう見ても上質な服装なのに、鑑定では一般的な服としか出ないので。


「お客様はにゃーこや様の店員と名乗られましたが、幹部の方ではないのですか?」


「幹部っつーか店長の仲間だな。代表が店長ってだけで、従業員もいるから分かり易く呼び易くで、店員Bを名乗ってる。当然、Aもいる。色々開発しているのにおれも関わってるから、色んな権限もアイテムも持ってるってワケ」


 エイブル国、ラーヤナ国では登録してある料理レシピを、リビエラ王国でも登録しようかと思ったが、一度にやるのも面倒なことになりそうなのでまずは様子見することにした。

 隣の国なのでそれなりに付き合いもあるし、にゃーこやの活動もバレそうなこともある。商人たちの情報網が一番情報が早いのだ。


 もっと話が聞きたいというのを振り切って、シヴァはさっさと商業ギルドを出て物陰からディメンションハウス経由で、キエンダンジョンの自宅へ帰った。


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