366 シヴァ贔屓の賢明な公主

 デュークとバロンは帰し、このまま帰るのも何なシヴァは公主殿を探ることにした。

 シヴァたちに見張りや尾行を付けたのは、国が関係しているとしか思えないし、貴族や有力者の情報も入るので。


 魔法魔術に関してはザル警備だが、シヴァは油断せず、隠蔽をかけて影の中から探る。分身も十人出す。

 ちなみに、合成魔法のおかげで、分身たちも最初から装備出来るようになり、より便利になった。空間収納+影分身である。



 公主殿でもシヴァたちのことはかなり話題になっていた。

 いくら口止めしても口の軽い生徒はいるものだ。ワザと情報を流した面もある。


「おい、聞いたか?しゃべるグリフォン連れの臨時講師の話」


「とっくに。その前に空獣騎士団が目を付けてて、明日の昼過ぎに当人が来るらしいぞ。魔法使いというだけじゃなく、錬金術師で魔道具師でもあって、魔術具工房で臨時で働いていたのは聞いたか?」


「初耳。冒険者なのに錬金術師って本当なのか?何故、そんな優秀な人材が我が国に」


「魔物にしゃべらせる魔術具もその講師が作ったらしいぞ。その作成代金は空獣車のチケットを望んだとか」


「……はぁ?ケタが違うだろ、そんな画期的な魔術具なら」


「その辺の真意も明日、訊くらしい。一応、チケットでいいならそれで頼むようだが、流れ者をそこまで信用していいものかどうか。もし、どこかの間諜でその魔術具に爆発物を仕込まれて貴重な空獣を殺されでもしたら…」


「いやいや、それにしては目立ち過ぎてるだろ。いくら他国から来たにしろ、錬金術師の貴重さぐらいは分かってるだろうし、宮仕えが目的で実績を積み上げてる、とか?」


「宮仕えじゃなく、有力な貴族の後ろ盾じゃないか?どうしても手に入らない素材もあるだろうし、錬金術師は変わり者が多いらしいから、金よりレア素材が欲しいとかありそうだ」


 確かに。まぁ、ダンジョンマスターでもあるシヴァは大半は手に入るが。

 有力貴族の補佐官、従者といった人たちからの情報はこんな所で、結構、正確だった。

 伝書使い魔のおかげだろう。口コミだと伝言ゲームで余計な情報が入ったり、改変されたりもするので。


 上層部の考えはどうかな、と公主の執務室にお邪魔した。

 宰相もいる。

 しばらく、日常業務な公共事業の話や魔物盗賊被害、国家行事について話していたので、暇なシヴァはその辺の書類を勝手に拝借して速読し、国政の現状を把握してみる。

 市井の印象通り、裕福な国だが、やはり、貴族や有力者がグダグダ言い出し、無駄な金をかけている、といった印象だ。

 そこに伝書使い魔が来た。


「まかれた、だと?」


「何の話だ?」


「失礼。例のしゃべるグリフォンを従魔にしている冒険者の話です。いまだに宿も分かりませんので、講義後、後をつけさせようとしたのですが、グリフォンは街の外へと飛び去り、冒険者ともう一匹の従魔はいつの間にかいなくなり、どこかに隠れたのかと学校内を探した所、どこにもおらず、また、目撃者もおらず、結論として魔法を使ってまかれたのではないかと」


 見張りの人たちは今まで探していたのか。ご苦労さんなことである。


「それは気付かれておるのではないか?別に悪いことをしているワケでもないのに、見張られていては気分を害して当然だろう。何故、宿ぐらい普通に訊かない?」


 公主は結構マトモなようだ。


「昨日は野営したようですが、その痕跡も見当たりませんでした。直接訊いても本当のことを話すかどうかも分かりません。それに、複数の見張りをまいたことも、こんなに短期間で生徒たちに慕われている所からしても、精神に作用する魔法か魔術を使えるのかもしれませんから」


 酷い濡れ衣である。

 暗示だけじゃなく、隠蔽も認識阻害も幻影も光魔法と合わせた精神作用系魔法だが、生徒たちが慕うように、と使ってるワケがない。


「それに、錬金術師、魔道具師、薬剤師というのが本当なら、どれでも稼げるのに、何故、冒険者ギルドの依頼を受けているのか。それも、さほど報酬や待遇がよくない依頼を」


「怪しいと決め付け過ぎじゃないか?冒険者が依頼を受けるのはごく普通の行動だろう」


「では、まかれたのは?何かマズイことがあると言ってるようなものじゃないですか」


「むむ…いや、しかし、見張りが付いているのを知っているのなら、見張りを付けたまま行動したくはないだろ。錬金術師で薬剤師でもあるのなら人に見られたくない物を作るとか、かなりレアな素材を持っているとか」


 中々のシヴァ贔屓ひいきな公主だ。


「ああ、冒険者なら鍛錬の様子は隠すらしいしな!手の内を見せないように」


「陛下。何故、そうも例の冒険者寄りなのでしょうか?何か根拠でも?」


「カンだ。かのお方を敵に回すと国が滅びるかもしれない。早急に見張りを撤収せよ。他の貴族や有力者たちが付けた見張りもだ。危害を加えたり、行動を制限するようなマネも禁止」


「はっ!早急に対処致します」


 宰相は方々に伝書使い魔を送った。

 公主は【直感】か似たようなスキルを持っていて、実績もあるらしい。

 ステータスを見ると、【第六感】だった。

 初めて見るスキルだが、鑑定してみると【直感】の悪い予感特化だった。

 災害や事故の前触れが分かるのなら、国の指導者にはかけがえのないスキルである。


「ああ、後、明日、空獣騎士団の詰め所にかのお方が来る予定になっているが、もし、来なくても決して手出ししないように。出頭ではないのだ。くれぐれも先方に失礼のないように。かといって大げさな歓待まではいらんからな。わたしたちの度量を試されているとみていい」


 小競り合いで済んでおり、戦争にならないのは、この賢明な公主のおかげのようだ。


「かしこまりました!」


 宰相も公主を盲信しているワケではなく、あれこれ可能性を上げても公主の考えが変わらないことを確かめたり、万が一に備えたりしているらしい。

 いいコンビだと言えるが、ならば、シヴァは尚更、会うワケには行くまい。人の上に立つ人程、すがる人を切望しているようなので。


 その後も、分身たちと情報収集をして、新しい情報が入らなくなった所で撤収した。


 一晩で何故か治った患者たちの情報はまだ上がって来てないらしい。

 一時的によくなることもあるし、原因が分からないので、病院の方で様子見しているのかもしれない。


 コアバタたちに情報をもらって、市井の患者にまで手を広げているが、そちらからも情報を漏らさないのは妙に勘ぐられる、不審に思われる、原因が分からないのなら患者本人の力が目覚めて、などと思っているのかもしれない。慎重なのはいいことだ。


 あちらの大陸ですぐ広まったのは、用心深さも足りないのかもしれない。…いや、薄々誰の仕業か気が付いていたということもあるのか。


 ラーヤナ国の宰相に屋敷の代金代わりにエリクサーを渡していれば、それはもう、である。

 遅かれ早かれ消去法でパリサード公国でもバレそうだが、出来る限り隠そう。

 認識のズレが原因で目立ってしまったので、どれだけ効果があるのか分からないものの。



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新作☆「番外編42 ホラーから始まる青天の霹靂」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093073399260607

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