365 そういった体質とか言っとけば

 昼休み。

 今日もシヴァだけじゃなく、デュークとバロンの分まで昼食を奢ってもらった。

 昨日美味しかった料理の名前をしっかり覚えていたデュークが注文するので、厨房の料理人たちや見習いたちが目を白黒していたのが面白かった。


 海が近いため、海鮮が豊富だが、農業も酪農もやっていて野菜や肉や卵の定期確保も出来ている豊かな国だった。

 栽培するのが難しい果物は少ないかな、という程度で。


 接待するのは自分の役目だと思っているらしく、今日もマクグリーンと一緒の昼食だった。いつも食堂で食べているそうで、結局、一緒になるワケだが。


 シヴァの講義を受けた生徒たちも人懐こく、我先にと周囲の席を確保して行った。


「先生、彼女いる?」


「超綺麗で可愛い奥さんがいる」


「……そっかぁ」


「え、冒険者は結婚が遅いって嘘なんですか?」


「さぁ?人それぞれだからな。子供が育ったら復帰する人もいるし、夫婦や親子で冒険者やってる人たちもいるし」


【であいがないだけじゃないの?ぼうけんしゃっておとこのほうがかなりおおいし】


「ある程度ランクが高いと金持ってるから、金目当ての女に騙されたりもしてるしな」


「せ、世知辛い話だな…」


「シヴァ先生、ダンジョンってどのぐらい潜ったことがあります?」


「かなりの数」


「…あ、潜ったことがあるだけで、攻略はしてないってことですか?」


「その辺は内緒」


「ずっとソロなんですか?パーティを組んだ方が安定して稼げるって聞きますが」


「人によるだろ。ずっとソロだけど、護衛依頼の時は他のパーティやソロと合同で受けることもある」


「道中倒した魔物の分配で喧嘩とかしません?」


「ならねぇな。そこまで高ランクの魔物は街道の側には出ねぇし」


【ほとんどくれるよね。もっていけないし、りょうりもできないからって】


「あ、そっか。マジックバッグを持ってても容量制限が」


「ってことは、先生、料理出来るんですか?」


【できるどころか、ちょうりょうりじょうずだって。しょくのこだわりもすごい。ぼくもだけど~】


「食うからには美味い方がいいだろ。だから、護衛依頼の時はいつもメシをタカられる。キリがねぇから行程の最後の方しか売らねぇけど」


【うらやましそうにじーっとみられるよねぇ。りょうりべんきょうすればいいのに】


「デュークも一緒に依頼受けるの?」


【うん。ごえいのときはね。ほかのいらいはバラバラ】


 そんな質問に答えつつ、昼食を平らげた。

 デュークのリクエストで果実水を出す。バロンにも。

 シヴァは茶器を出してハーブティを淹れた。


「…どこから出したんですか?」


「マジックアイテムの収納から」


 マジックバッグも持ってないので、シヴァはそう言ってみた。左耳の人工ブルーダイヤが付いたイヤーカフも収納だが、実際は空間収納からである。


「取り出す動作とか特にないんですか?」


「ねぇな」


 この国ではまだ出回っていないので、【チェンジ】の魔法を教えない方がいい、とシヴァは判断した。ルーコに指示しておいたので、ルヒルダンジョンから次第に出るようにはなる。


「どれがマジックアイテムなんですか?」


【おしえないよ。どれだけきちょうなものだとおもってんの】


 貴重な物しか身に着けていないシヴァである。


「冒険者にあれこれ詮索すると、痛い目見るから気を付けろよ。これでおれが『貴重な収納のマジックアイテムを持っている』というのが分かったワケだけど、ヘタにしゃべると危険なのは君たちだからな。欲に目がくらんだ連中が頭いいワケがねぇから、情報を引き出すために片っ端からさらって暴力や薬でしゃべらせて行くかもしれねぇぞ」


【ぼくやバロンもふくめて、かねめのものばっかりだしね!】


 デュークがそう言うと、マクグリーンからも生徒たちに注意した。

 それからも雑談していたが、すぐ時間が過ぎ、午後の講義になった。

 慣れて来た講義を順調に進め、今日のシヴァの講義はもうこの一コマでおしまいだった。


 荒れた訓練場を元通りにならすと、おずおずと女子生徒が近寄って来た。


「先生、この後お時間をもらえませんでしょうか。少しご相談があるのですが…」


「あいにくと、こちらにも予定がある。臨時講師より理事長先生に相談した方がいいんじゃねぇの?」


「あっ!抜け駆けズルイッ!」


「先生、いつなら予定が空いてますか?」


「時間外労働はしねぇ主義」


「じゃ、遊んで下さい!」


「ヤダ」


「お話をもっと聞かせて下さい!指名依頼を出しますから!」


「却下」


【シヴァ、めんどうみいいから、こうなっちゃうよねぇ】


「他人事みたいに言ってんなよ」


「デューク君もバロン君も一緒に遊んで!」


【やだ。ぼく、これでもいそがしいの。いろいろべんきょうしたいし。じゃね~】


 デュークがふわりと飛んだ。

 視線を集めた隙にシヴァは自分とバロンに隠蔽をかけて、悠々と学校から出る。

 …いや、出ようとしたが、どこかの見張りが張り付いていたので、バロンと一緒に影の中に潜り、港町ルヒルの市場へと影転移した。

 デュークには念話で指示し、街の外まで飛ばせ、適当な所で転移で引き寄せた。

 首輪に転移ポイントを仕込んであるので、デュークがどこにいても引き寄せられる。


 シヴァは早速、市場で串に刺した焼き魚や貝柱や揚げパンを買い、空きスペースまで移動してソファーセットを出した。

 バロンには串を抜いてやり、お膳のような脚付きバロン専用食事台に置いてやる。


【なんか、どこいってもおいかけられちゃうねぇ】


「自覚以上に、浮いてて目立ってるんだろうな。それと、国力アップのために、目ぼしい人材はすかさず勧誘してるっていうのもあるだろ」


【ソファーだしてるのもめだってるとおもうけど~】


「情報の撹乱かくらんを狙ってるんだよ。さっきまで学校にいたハズだし、時間的にもあり得ないってな」


 空きスペースにはシヴァたち以外にも、市場で買った物を食べてる人たちがいる。その辺の石や転がってた木箱、ゴザのような敷物に座ってる人も多い。


【かくらんってこんらん?】


「それも合ってるけど、撹乱は作為的に混乱させること。作為的はワザと。混乱は色んなことで使える言葉」


【うん、おぼえた。でも、いいくににしようとどりょくしてるひとたちって、シヴァ、すきじゃないの?】


「おれたちに関わって来なけりゃな。権力争いや派閥に巻き込まれるのも面倒臭い。そもそも、よそ者だからってすぐこっそり見張りを付けるって辺りも、気に入らねぇ」


 堂々と見張りを付けられるのも気に入らないが、そちらの方がまだマシである。


【まぁねぇ。ひまなの?っていいたくなる】


「そうそう。後ろ暗いことなんざ、別にねぇのに」


【あれ?ゲリラやってないの?】


 ハゲ治療を含めた治療ゲリラである。だいたい深夜だ。


「やってるけど、双方メリットありのいい関係で決して悪事じゃねぇし」


 シヴァは新薬の臨床実験と回復魔法や診断魔法の経験値稼ぎが出来るし、患者は一度で治らない病気だとしても、改善はするのだ。

 不法侵入?本人の同意を得てない?そんなのささやかなことである。


 海を越えて違う大陸にまで来ると、シヴァが見たことがなかった病気も多く、知的好奇心的にも満足だった。

 体力面で手遅れな人はいたが、それ以外はちゃんと治している。


【でも、バレたらさらにうるさいんじゃない?】


「バレねぇよ。この国の技術と魔法魔術レベルなら、証拠を掴むことなんざ不可能だって。警戒するのは旅人、冒険者だな」


 シヴァたちが海を越えて来ているように、遠くから来ている人たちもそこそこいるのだから。


【いわかんはかんじちゃうとおもうけど~。つかうまほうのわりには、まりょくがすくなすぎるし、みごなしもキレイすぎだし】


 だからこそ、「え、まだCランク?」と散々言われるワケだ。


「Aにも言われた。その辺はそういった体質とか言っとけばいいんじゃねぇの」


【てきとうすぎる…】


「そこまでの擬態は出来ねぇし」


 デュークとバロンは帰し、このまま帰るのも何なシヴァは公主殿を探ることにした。



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新作☆「番外編42 ホラーから始まる青天の霹靂」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093073399260607

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