364 調整が理事長先生の仕事だろ

【やっぱりね~。こうなっちゃうとおもったよ】


 翌日。

 うんうん、ともっともらしくデュークは頷いた。

 マジックハンドで腕まで組んで。仕草が人間っぽい。


 生徒の保護者たちが学校側に、公開講義を希望したのだ。多数の家庭が伝書使い魔を使って。

 生徒たちが家に帰って家族に話し、「是非ともしゃべるグリフォンを見たい!」「すごい魔法も見てみたい」と。


 国立学校に通う生徒は平民から貴族まで幅広い。国からの助成金と寄付で潤っているので、学費も格安だからだ。

 つまり、有力な貴族子息、令嬢も生徒にいるので、無下に扱うことは出来なかった。


 そして、困ったマクグリーンが、出勤したばかりのシヴァに相談して来たワケだ。


「却下だな。見世物にはなりたくねぇし、目立ちたくもねぇ。昨日も話したけど、明日の午後、空獣騎士団の詰め所に行く予定になってるんで、公開講義をやることに決めると文句を言われると思うぞ。騎士団に講義に口出しする権利はねぇワケだけど、魔物をしゃべらせる仕組みは、軍事利用も出来るから、そうなると国が出て来るだろうし」


【え、ことばをりかいしてないと、しゃべらないけど?】


「そういった条件を知らねぇだろ。知力が高く、人間の言葉を理解していて念話が使えて、人間に育てられて人間に好意的で色んな知識や風習や習慣を知ってる方が望ましい、だな」


【あ、そっか!にんげんのことをしらないと、すっごいいそがしいときに、どうでもいいじょうほうとかおしえそう!】


 すぐに想像が出来て問題が分かるデュークは本当に賢いのだ。


「そうそう。嫌われてたらしゃべらねぇだろうし、いくら言葉を理解していても意味ねぇってワケだな。人間でも同じことが言えるけどさ。ま、保護者には、『臨時の講師で急な予定は入れられないから却下』とでも言っとけば?」


「…それが無下に扱うということなんだが…」


「そういった調整が理事長先生の仕事だろ。頑張れ」


【それより、シヴァ。まほうでめだっちゃったんだから、きゅうていなんたらになれっていわれそうなのはどうするの?】


「無視。宮仕えなんかするワケがねぇだろ。公主様はそこまで短絡じゃなさそうだけど、周囲がな~って所。どの国でも似たり寄ったりなことに」


【あらら】


「っつーか、結局、騒ぎになってるし。【幻影】ぐらいで騒がれるとは思わなかった」


「…幻影ぐらい…」


【シヴァ、きかくがいすぎて、かんかくがズレてるからねぇ。ぼくもだけど。それより、こうぎじかん、じゃないの?】


「そうだな。じゃ、理事長先生、頑張って」


 シヴァとデュークとバロンは応接室を後にし、さっさと訓練場へ移動した。


 昨日と同じく、シヴァの講義は訓練場でやるので、時間によって生徒たちの方が入れ替わることになっていた。

 同じ講義を何回もやりたくないので、その辺は臨機応変でいいと許可をもらっている。

 なので、主に魔法の生活利用方法を教えることにした。


 魔法の中では土魔法が一番便利なので、ベンチやテーブル、カップやお皿と色々作って見せた。

 土の質は色々出来るのでガッチリ固めれば、水や油で溶け出すようなこともないのだと。

 火魔法が使えるのなら焼いて陶器を作ることも可能だった。


 火魔法に適性がなくても生活魔法が使えれば、お湯を出すことも出来るのに、頭が堅いと中々それに思い当たらない。

 お湯を出すのは水と火の合成魔法になるワケだが、生活魔法でくくられているらしい。温風もだ。


 イメージが出来ないらしく、生徒たちに教えても中々使えないので、カップ一杯分の熱湯が出る魔術式を組んで教えた。魔術にすれば、すぐ使えるので魔法の苦手意識もあるようだ。


 では、濡れた手から適度に潤いを残して余分な水を取り除く魔術も教えてやる。手を振る動作で発動するように。

 とっくにあるかと思いきや、意外と生活に使える魔術が少なかったのである。


「これ、応用で髪を乾かしたり、身体を乾かしたりも出来るからな。魔術式の組み方は習ってる?…習わねぇの?」


 既にある魔術式を覚え、練習して使えるようにする講義ばかりらしい。

 国立学校は魔術学校というワケではなく、色々ある講義の一つに魔術がある程度なので、そんなものか。

 興味がある人は応用を考えてみるように、で流しておいた。延々と魔術を作らされそうなので。

 保護者たちは学校まで押しかけて来るような非常識さはなかった。


「遠い国から来たおれたちは、ただでさえ、胡散臭いんだから、目立てば有力者たちに目を付けられ、最悪、無理矢理誘拐されて拷問されたり、デュークやバロンだって酷い目に遭ったり解剖されたりするかもしれない。

 もちろん、その場合は徹底抗戦するから、上層部壊滅で結果的に国を滅ぼすことになり、お前ら一般市民の生活も苦しくなる。

 そうじゃなくても、おれらの情報欲しさにお前らやお前らの家族を誘拐して拷問して聞き出そうとするかもしれない。複数に聞いた方が本当の情報が分かるからな。平和に暮らしたいのなら、おれたちのことや講義内容をペラペラ話さねぇように」


 生徒たちにはそんな風に釘を刺しておいたので、自殺願望者以外は、これ以上話を広めないようにしてくれるだろう。

 シヴァの戦闘力はほとんど見せてはいないが、従魔たちの戦闘力は少し見せているので、生徒たちはゾッとしたようで腕をさすっていた。


 ちなみに、誘拐しようと襲って来た場合、誘拐犯たちを制圧し、依頼者の所まで連れて行かせ、その依頼者の雇い主や協力者を洗い出し、と芋づる方式で辿る予定だ。

 シヴァと行動しているデュークとバロンを誘拐するのは絶対無理である。



 講義合間に休憩時間があるので、シヴァたちは続けて講義でも全然大丈夫だったが、マクグリーンや他の教師たちは恐縮しており、たびたびお茶やお茶菓子の差し入れをしてくれていた。


 この国でも奴隷じゃない限り、ギッチリ働くことはあまりなく、かなり余裕を持って働くのが普通らしい。

 国の上層部も緊急時には昼夜問わず、ギッチリ働かないとならないので、いやはや、だが。



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新作☆「番外編42 ホラーから始まる青天の霹靂」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093073399260607


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