234 仕入れ市場でほっくほく!
仕入れと言えば早朝である。
漁港じゃなくても、肉や野菜も鮮度が命。
近隣から集まった食材の仕入れ市場が早朝に開かれ、食堂をやってる所の大半はそこで仕入れるらしい。少数派は独自に仕入れルートを持っているか、家庭菜園、自分で調達だ。
人が集まれば、屋台も出る。仕入れに来た人たち向けに、スープにパンのセットといった簡単な朝食も売っていた。
いいものは早く売れるので、朝食は後回し。まずは仕入れだ。
そういった流れになるのは読めていたシヴァは、仕入れ市場に向かって歩きながら、ヒルシュに「はい」とポタージュスープが入った紙コップと肉まんを渡した。
ほかほかと湯気を見るだけでも温かいのは誰にでも分かる。
「何だ、これ?」
「肉まん。肉入りまんじゅうと色々野菜のポタージュスープ。仕入れに連れて行ってくれるんで、ちょっとしたお礼ってことで」
シヴァとデュークの分ももちろんある。
「おう、ありがとな。…って、何で熱いんだ?まるで作り立て…もっと早起きして作ったのか?」
「いや、作り置き。金持ちなんで時間停止のマジックバッグを持ってるワケ。中の肉餡が熱いから気を付けろよ」
この程度は教えてもいいだろう、と。
今日はシヴァ用のウエストポーチ型マジックバッグをちゃんと持っている。
最新の人工ブルーダイヤが付いた、イヤーカフ型マジック収納もあるので、収納ばかりだ。
「ああ。じゃ、ありがたく」
【ヒルシュのはていばんね。ぼくのはチーズいりミートソースのピザまん~】
「おれはカレーまん。…と色々中味の具は変えられるワケだ」
「…んまい!」
「当然」
【だよね~。あるきながらたべるとさらにおいしいし】
「歩きながらっつーか、寒い中だと、だな」
「外側は何だ?パンっぽいがパンじゃなさそうなふわふわ」
「蒸してあるからな。パンと材料はそんなに変わらねぇよ」
「そうなのか。今度作ってみよう。いいか?」
「もちろん、どうぞ。水気や肉汁が多いものだとびっちゃびちゃになるから気を付ける程度で、甘い菓子系統でも大丈夫」
【あんまんね!】
「そう。甘く煮た豆の餡やカスタードやチーズクリームでもいい」
「となると、果実の砂糖煮もありか」
「そうそう。もっと小さく一口サイズでもいいしな」
「汎用性が高い食べ物だな。肉まん?」
「肉が入ったものは肉まん。全体の名前は一応中華饅頭。『中華』っていう遠い遠い国で考案された食べ物だから」
魔改造したのは日本だろう。
「聞いたことないな。かなり遠くか?」
「ああ。文献もちょっと残ってるけど、一般人は目にしねぇし」
過去の異世界人が中華まんを広げようとした形跡があったが、その当時はそこまで料理の種類もなくて、「パンと似たような材料ならパンでいいんじゃ」となったワケで。
中華まんや惣菜パンは日持ちしないこともあるのだろう。
歩いて行くうちにヒルシュの知人、友人たちと合流して、一緒に歩く。その頃には肉まんもポタージュスープもキレイに胃の中なので、欲しがられることはなかった。
それよりも、珍しい子供グリフォン、デュークが人気だった。しゃべるし、愛想がいいので尚更だ。
そして、仕入れ市場に到着。
雨の日も開催されるので倉庫のような建物の中だった。
見たこともない食べ物が多かったが、優秀な鑑定様が鑑定してくれたので、片っ端から交渉して出来る限り多くゲットして行った。こんな時、銀貨ばかりの所持金はお役立ちだ。
デュークも【ドラゴンアイ】の片眼鏡で鑑定しまくってサポートしてくれていたので、見落としはないだろう。
旬が少し過ぎた果物はジュースやジャム用で、それはもう安価で売っていたので、ホクホクだった。大金持ちでも、安く買えるものを高く買うのは違うと思うので。
そして、「もやし」っぽい野菜があった。元の世界の物よりサイズがかなり小さく3cmぐらいのものだったが、味は変わらないらしい。
ちなみに、探していた「かいわれ大根」は、本当にその辺に生えていた……。土地柄というのは本当にあるものだ。もちろん、ちゃんと食べられる食材だ。
長細い米、サフランライスは、ヒルシュの口添えもあってあるだけ購入出来た。普通の米も種類が違う大粒の物があったので、こちらも何種類かゲット。
精米すると鮮度が落ちるのはこの世界でも知られているし、嵩も増えるし、手間も減って万が一の備えにもなるため、収穫した時の状態…籾のままなので、そのまま種籾になるのだ。
家庭用精米機が普及しているので、それでまったく問題なかった。シヴァも一番最初の買い物で精米機を買ったぐらいである。
もち米はやはり見付からなかった。
ありそうでない、と言えば、タコスである。
トウモロコシはこちらでも発見したが、パンの具にはしても、トウモロコシを粉にしてコーンスターチとして使うこともない。収穫量がまだ少ないから、というのもあるのだろう。
トルティーヤはコーンスターチではなく、小麦粉で作るものもあるが、そちらもない。クレープはある。
タコスはおやつや食事として食べるものだが、薄いトルティーヤだと食べた気がしないからだろうか?
トルティーヤを揚げて、ミートソースとチーズソースをかけて食べるナチョスもない。
そういえば、バリそばもない。
バリそば、かた焼きそばとも言う。パリッと揚げた中華麺にとろみを付けた中華餡かけをかけ、堅い部分柔らかい部分を楽しむ料理だ。
中華麺はまだ出回り始めたばかりだし、保存やお菓子として、麺を揚げる料理方法はレシピで登録してあるので、いずれは出て来るかもしれない。
「…アルって器用だなぁ。これだけ人が多いのに全然ぶつからないし、足も止めない」
ヒルシュがそんなことに感心した。
【つよいからだよ。たいじゅつ】
「体術以前に人混みを歩くのに慣れてるからだって」
元の世界とこちらでは人口密度が段違いなのだ。
「都会から来たんだ?」
「一応」
異世界の都会から、だ。どの国の王都にもちょくちょく行ってるので、こちらの世界限定でも間違いでもない。
一通り、買い物も済ませたので、屋台にて朝食タイム。
肉まんは朝食前おやつである。
やはり、辛い味付けが多かったが、朝っぱらからは辛過ぎるのは地元の人たちも好まないらしく、食べられる辛さだった。
ヒルシュは宿の朝食の支度があるので簡単に済ますが、シヴァはたっぷり、デュークはそこそこ食べる。
「そう食うと宿の朝食が食べれないんじゃないか?」
「別腹」
【ぼくはちゃんとひかえた~】
「アルはほんっと、よく食うな」
「健康でいいだろ」
「冒険者なら鍛錬するんじゃないのか?」
「するけど、腹いっぱい食ってた所で影響ねぇし」
「そんなもんなのか」
【マスターがきかくがいなだけだからね!】
他の冒険者が誤解されそうだと思ったらしく、デュークが補足した。
ちなみに、ヒルシュもマジックバッグを持っているので、荷物はそれだけだった。
当然ながら、高額なマジックバッグが食堂のオーナーでもある宿の主人からの支給品というワケではなく、ヒルシュの私物で、以前、ヒルシュの料理の腕をかなり気に入った冒険者が安く譲ってくれたそうだ。
ヒルシュの腕なら、そのエピソードもかなり頷けた。
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一周年記念SS「番外編34 爆誕!呪われた村」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330669449266458
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