233 よしよし、これだよ、これ!

「ダンジョン産の新鮮な食材を卸してくれるのなら、いい値段で買い取るぞ」


「食材は食うしなぁ。…あ、そうだ。こういった野菜、知らない?」


 シヴァは思い付いて、もやしとかいわれ大根のイラストを紙に書いて、ゴツイ料理人に見せた。


「…草?こっちの草ならよく見るけど」


 料理人が指差したのは「かいわれ大根」の方だ。


「どの辺で?」


「日当たりよくてちょっとジメッとした所で。食えるのか?」


「おう。故郷にあった野菜と同じならな。後で見て来よう。ついでに、米で粘り気がある品種のものってある?」


「粘り気?逆にさらっとしてて長細いのなら知ってるけど」


「タイ米か!それ欲しい!どこに行けばある?」


 サフランライスは料理の幅が出るので欲しい。

 よしよし、これだよ、これ!新しい土地に来れば、探していた食材も見つかるのだ!称号と幸運Aのおかげもあって。


「あーじゃ、仕入先に訊いてやるよ。もっと南の方の植物らしいから、そんなに量はないかもしれんが」


「精米してねぇのがあれば、尚いいんだけど、よろしく。おれはアル。Cランク冒険者だ」


 名乗る場合はギルドカード通りに「アル」だろう。

 アルの姿にはなっていなくて、認識阻害仮面装着シヴァだが、国をまたいでるのでオールオッケイだ。


「ヒルシュだ。お客さんはいつまでこの宿にいるんだ?」


「呼び捨てでいいぞ。別に急いでねぇから、長細い米が手に入るまでいてもいい」


「そんなにこだわってるのか?えーと、アル?」


「ああ。食べ方が知られてねぇせいで、放って置かれてる食材も結構あるしな」


【このまえのハーブとかカエルとかね】


「そうそう」


「え、カエルが食えるのは知られてるだろ?」


「ぱっさぱさにしちまう冒険者たちばっかなんだよ。下処理なんか知らねぇし、火加減なんか適当もいい所だから」


「あーそりゃ、パッサパサだなぁ。ハーブってのは?」


「これ。ルバーブ。葉っぱは食えねぇけど、茎を食べる。砂糖やはちみつで煮ると甘酸っぱくなる」


 目に付くたびに刈り取ってるので、葉っぱ付きのままのルバーブも収納に入っていた。


「…これってその辺の森に生えてるよな?」


「おう。茎が緑のと黄色のがあって、黄色の方が甘め。…あ、ルバーブのパウンドケーキがまだあるか。まぁ、一切れだけどうぞ」


 シヴァはルバーブのパウンドケーキの一切れを、食品を包む葉っぱに包んであげた。


「おう、どうも。じゃ、遠慮なく」


 ヒルシュは躊躇なくパクッとパウンドケーキを食べる。一口がかなり大きい。


「加工してねぇ方も見本にやるよ。肉のソースにしてもいいぞ」


 腕のいい料理人には、是非とも更に精進してもらいたいのである。


「…こんなうまいもんがこの世にあったのか…」


「それは大げさ」


【そのきもち、すっごいわかる~。バターもおさとうもしつがいいのだよね】


「厳選食材ばっかだしな」


「……お金持ち?」


「ああ。かなりの。買い占めて欲しい食材があれば、是非とも教えてくれ」


「や、でも、日持ちしないものなんかは、返って迷惑じゃないか?」


「全然平気。伊達に金持ちじゃねぇんで、慈善事業もやってるし」


 そうじゃなくても、時間停止の収納があるので。


「…マジで金持ちなのか…」


 呆然としつつも、ちゃんと川魚や川エビを焼いているヒルシュである。他にも料理人と助手がいるが、肝心な所はヒルシュらしい。


【おつきのグリフォンしかいないけどね!】


「お付きの人っているもの?」


【おかねもちってそんなイメージだよ。すっごいごうかなばしゃにのってて】


「そういった馬車、見てくれだけで性能悪いから、おれのシャツ一枚にもならねぇけどな」


【…え、そんなにおたかいの?】


「おう。ほとんどスパイダーシルク製で防御力だけじゃなく、着心地も追求してある織り方で、魔石が練り込んである糸や染料も使ってるし、色々と付与もしてあるし」


【ほとんどまどうぐじゃん!】


「そうとも言う。おかげで、デュークが爪立てても全然平気」


【それはそれでちょっとくやしい】


 そんなことを言ってる間に、川魚、川エビが焼き上がり、目の前に置かれた。見た目からして、「これは美味い!」と確信が持てるような焼き具合だった。


 殻が薄い川エビを使っていたので、シヴァはそちらから丸ごと頂く。

 香ばしい香りに相応ふさわしく軽やかな「サクッ」という音が聞こえた。

 川エビの淡白な味わいに、塩だけじゃなくガーリックをアクセントに添えて。美味いに決まってる。


 川魚もかなり火加減に気を付けたらしく、焼き過ぎず、絶妙な塩梅あんばいだ。こちらは生臭くないようハーブ塩だった。

 シンプルな料理だけに、本当に火加減が大事なのだ!ヒルシュはいいセンスといい腕をしている。


「どっちも美味い。ヒルシュさん、いいセンスしてるな~」


「お、おう。ありがとな。さん、はいらねーから」


「じゃ、ヒルシュ。ご飯と肉おかわり」


 話しつつも、しっかり食べていたシヴァはおかわりをした。川魚や川エビも美味いが、今は肉な気分なのである。


【ぼくはエビだけおかわり~】


「はいよ。って、アル、いいのか?」


「いいけど、何で?」


「従魔に好きに食べさせる主人って中々いないから。予算面もあるが、従魔が食べると体調を崩す食べ物もあるし」


「デュークは大丈夫。食べられないものは自分で分かってるし」


【からすぎやにがいのね。あ、つんっとするのも。すっぱいのはまぁまぁいける】


「子供舌ってことか」


「だいたいは。つい食べ過ぎることはあっても、好き嫌いはねぇけどな」


 好き嫌いをするのは裕福な家の子供だけだが、こねくり回して結局、マズくなってる料理もあるそうなので、仕方ない面もある。


「ん?前から従魔にしてるんじゃないのか?」


「まだ一ヶ月半。デュークはまだ四ヶ月半ぐらいでこの賢さ」


【えっへん!】


「そうなのか。グリフォンも大きくなるのが早い魔物なんだな。魔物は生存競争が激しいから、だいたいそうだが」


「色んな従魔連れが来るからそこそこ詳しいんだ?」


「本当にそこそこってだけな」


【グリフォンはいた?】


「数年前に一匹だけ。仲間を探してたが、中々難しいらしくてなぁ。あのマスターも結構年だったから、冒険者はもう引退してるかも」


「そのグリフォン、オスだった?」


「そう。デュークも?」


「オス」


【オスばっかね】


「卵があるってことはメスもそのつがいもどっかにいるハズなんだけどなぁ」


 シヴァたちの情報網にひっかからない所からして、グリフォンたちは基本的に人里には全然出て来ないのだろう。

 成獣は飛んで移動出来るだけに行動範囲も広い。


「それだけグリフォンは希少だってことだ。全然大丈夫そうだが、一応、気を付けろよ」


「もちろん」


【ゆだんもしないよ!】


 先日、ファルコ狙いでベレットの誘拐騒ぎがあった所なので、デュークも危機感はしっかりあった。


 そんな風に食べながら話して行くうちに、シヴァたちはヒルシュの朝の仕入れに同行させてもらえることになった。

 なら、とついでに受付でもう一泊延長しておいた。

 食材探しの旅ではなかったのだが、まぁ、食の楽しみも旅の醍醐味の一つだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 一周年記念SS「番外編34 爆誕!呪われた村」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330669449266458

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る