232 案外、焼くだけの料理の方が難しい

 シヴァとデュークは馬車で二日ぐらい、隠蔽した騎竜だとマルカートの街から二十分程の所にあったダグホードの街に移動し、そちらではそこそこの値段の、よさそうな宿に泊まれた。


 馬と一緒くたで厩舎にも乗用従魔というか、騎獣が多いが、デュークぐらいの大きさなら部屋に連れて行ってもいい、とのことだったし、部屋に大きめの風呂があったのが即決した理由だった。

 汚したり壊したりしなければ、風呂も従魔と一緒でもいいらしい。


 ソファーセットを置いたちょっとしたリビングとベッドがあり、窓は大きい掃出し窓で庭に出ることも出来、外にもテーブルセットが置いてあった。


 庭で一緒にご飯を食べたり、庭で従魔と遊べるようだ。そう広くない庭だが、ちゃんと隣の部屋とは塀で仕切られている。

 大分、日が傾いて来ているので部屋には魔道具照明、庭のランプも案内してくれた従業員が灯していた。

 雰囲気にそぐわないゴツイランプシェードが減点だが、もてなそうという心配りはいい。


「リゾートっぽい作りだなぁ。ラッキー」


『リゾートって?』


「観光地のホテル。寝るだけみたいな部屋じゃなく、部屋でもゆっくり出来るようになってる」


『ちょっといいへやだから、というわけでもなく?』


「そう高くねぇぞ。中級宿程度。まぁ、ダンジョンがある土地とない土地では、土地代が違うんだろうけど」


『え、そうなんだ?ダンジョンがあるとひとがあつまるから?』


「そう。そして、ドロップで街も発展する。頼り切りなのもダメだけどな。…さて、風呂に入ろうぜ」


『はーい』


 風呂にはお湯を出す魔道具が設置してあったが、自宅温泉の湯もホテルにゃーこやの温泉の湯も、しっかりと収納に入れてあるので、今回はにゃーこやの温泉を入れた。

 魔道具でお湯を溜めるより一瞬で済む。


『たまには、ちがうところのおふろにはいるのもいいね』


「それが旅の醍醐味だしな。…結界張ったから好きに歌っていいぞ」


【やったー!】


 デュークは響く風呂の中でエコーを効かせながら歌うのが好きなのである。温泉宿風自宅の内風呂でもよく歌っていた。耳がいいからか、中々上手い。

 念話をスピーカーで誰にでも聞こえるようにしたおかげで、こういった楽しみも覚えたワケだ。

 鳥頭だと声帯が違うので、人間の言葉で声を出して歌うのは中々難しい。しゃべる鳥ともまた構造が違うようで。


 お風呂を楽しんだ後は、お待ちかねの夕食。

 食堂に行くと、まだ時間が早いせいで席はかなり空いていた。

 椅子の高さがデュークにはちょっと合わないので、クッションで調整してやった。


 小さい従魔と一緒でもいいし、その分の料金も入っているので夕食を頼むが、この辺は香辛料を使った料理が多いそうなので、辛過ぎないよう頼んだ。

 シヴァも辛過ぎは苦手だが、デュークもお子様舌なので。


 夕食込みの宿泊料金だが、追加料金を払えば、当然ながら他の料理も頼めるので、おすすめの焼き川魚、川エビ盛り合わせも注文してみた。

 今日の夕食はワイルドカウ肉の香草焼きで、しっかり下処理をしてあってかなり柔らかく、かつ弾力があり、味付けも絶妙だった。パンとセットだったが、


「ご飯ない?」


と訊いた所、あったのでご飯も追加した。

 ご飯と一緒に食べたい味だったのである。もちろん、デュークの分のご飯も頼んだ。


【これ、おいしいねぇ~】


「ああ。スゲェ丁寧に下処理して、火加減もかなり気を付けて料理してあるからだな。案外、焼くだけの料理の方が難しいし」


「お客さん、分かってくれるかい!いやぁ、嬉しいねぇ。そこまで分かってくれるお客さんに食べてもらうのは」


 カウンターで食べていたので、当然聞こえたゴツイ料理人がカウンターから顔を出して喜びつつ、追加したご飯を置いた。


「おれも料理にこだわってるからな。料理人じゃねぇけど」


「こだわってるのに料理人じゃない?…って、グリフォンがしゃべってたのか?」


【あ、スピーカー入れたまんまだった】


「まぁ、いいって。マジックハンドで十分以上に目立ってるから、今更も今更。一人で話してるように見えて変に思われるし」


【たしかに~】


「グリフォン連れって冒険者なのか…」


「そう。ダンジョン産の食材は美味いものが多いし、季節関係なく旬のものがほとんど食べ頃であるしな」


 シヴァが冒険者を本業にしているのは、これがメイン理由だった。

 この場合の冒険者はギルドに登録してあってもなくても、である。


 いくら20ものダンジョンのダンジョンマスターでも、地域やダンジョンによってもかなり特色が違うし、まだ見ぬ食材や素材はシヴァがその存在を知らないので手に入れようがないワケだ。

 コアたちに頼めばゲット出来るものがあっても。


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 一周年記念SS「番外編34 爆誕!呪われた村」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330669449266458

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