231 商業ギルドの職員がハズレだった
せっかくガラノスの街に入ったので、市場で買い食いして、買い物もしてから、再びバイクの旅に戻った。盗賊のせいで時間を取られてしまったので、途中から空を飛ぶ。
予定としては、今日中に国境を越えるつもりだったので。
ガラノスの街から国境のプロキオンの街まで馬車なら三日ぐらい、バイクで空を飛ぶとかなりショートカット出来て、四十分程で街が見える所まで到着した。
バイクはしまい、人工騎馬のアオを出して地上を走る。乗り換えたのは、もちろん、なるべく目立たないためだ。
プロキオンの街には寄らず、通り過ぎて国境の方へ向かった。
ここまで来れば、いつだって転移で来れるので。
国境と言っても、砦があるワケではなく、街の防壁よりもっと低いちょっとした塀に門が作ってあるだけの簡素なものだ。
敵対している国の堺ではないので、一応、区切っておこう、程度ということだろう。
国境警備兵はいるが、身分証を見せて入国税を払うか、身分証がなくても1.5倍の入国税を払えば、普通に通れるぐらい緩い。
なので、ほとんど足を止めず、国境を通り過ぎる人ばかりで、グリフォンを連れているアルも同じくだった。
成獣だと違ったかも、と思ったが、ルビエラ王国内に入った後は、同じだったな、と思い直した。
従魔連れが多かったのである。
移動に使える従魔は爬虫類系が多いし、寒さに弱い従魔が多くて、温暖なルビエラ王国に来ているのかもしれないが、平和な国だから、というのもあるのかもしれない。
こういったことは、本当に来ないと分からないことだった。
国境のマルカートの街に入ると、アルは物陰に隠れてシヴァに戻り、ちゃんと認識阻害仮面も装着。
アオもペンダントネックレスに戻しておいた。
『さて、まずは宿を取ろうか』
『え、とまるんだ?』
『いい所があればな。予想外に稼げたんで超高い宿でもいいぞ。ウチのホテルの参考にもなるし』
『シヴァがつくったベッドとかふとんとかのほうが『しつ』がいいにきまってるでしょ』
『それ以外の設備はいいかもしれねぇだろ。まぁ、取り替えるだけだし。…っつーか、シヴァ呼びはどうしようかなぁ。結構、ある名前だけど、グリフォン連れとなると、アルとの関連が疑われそうでもあり、ギルドカードはアルだから、アル呼び?』
『そのすがただといわかんある~。ぼくがよぶときはマスターでいいんじゃない?』
『そうだな。ギルドカードは見せねぇと分からねぇワケだし。デュークは念話の時は好きに呼べばいいけど、スピーカーにしてる時にうっかり呼びそうでもあり』
『なんだよねぇ。マスターで。マスター』
『おう。じゃ、商業ギルドに行くか。宿の紹介もやってるんで』
『そうなんだ。しんせつだね』
『手数料取るって』
『…しょうばいにんだね』
商業ギルドにて従魔と一緒に泊まれる高級宿を紹介してもらい、そちらへ行くと……。
『ここ、だよな。普通に貴族の屋敷っぽい』
『うちのホテルより、かなりちっちゃいようなきがするけど、きぞくとしてはどうなの?にわもあんまりなさそうだし』
『リビエラ王国の基準は知らねぇしなぁ』
とりあえず、シヴァが門衛に声をかけ、商業ギルドでもらった紹介状を見せると、高級宿はここで合っているが、子爵家の屋敷でもあり、あまりに使わない客間がもったいない、と宿にしたそうだ。
宿の客は子爵家の客として扱われるらしい。
そんなこと、商業ギルドの職員は言わなかった。
「期待を裏切らないお値段分はある宿ですよ。従業員も一流ですし」程度で。嘘じゃないが、貴族じゃねぇか、である。
「っつーか、高級宿に泊まれる客って裕福に決まってるから、コネも狙ってるんじゃねぇの?資金提供とか業務提携とか何だかんだと」
「わたしには分かりかねます」
「パス。次行こう」
紹介されたのは一つじゃないので、シヴァはデュークを連れてさっさと次の所へ向かった。
「…超うるせぇ場所だし」
何故、うるさいか?
繁華街の側で、従魔たちが賑やかな気配にか、他の原因でか、ギャーギャー騒いでいるからである。
まだ夕方にもなってないのに。
商業ギルドの職員がハズレだったか、と市場の屋台のおじさんに宿情報を訊いた所、少し中心街から離れているが、従魔と泊まれる評判のいい宿があるそうだ。
それはいいことを聞いた、と教えられた方へ行ってみると……どう見ても牧場だった。
他にそれらしい建物がないので、牧場で宿もやってるのかも?と人を捕まえて訊いてみると、
「ああ、その宿ならとっくに潰れたよ。従魔が暴れただの、借金があって夜逃げしただの、色々噂があったけど、もう建物が自体ないのは確か」
そういうことらしい……。
牛やヤギの魔物の乳やチーズの直販もしていたので、シヴァはついでに買う。
「従魔ってその子?じゃ、ウチに泊まるかい?大したものは出せないけど」
そんな風に申し出られたが、ロクに部屋もなさそうだし、娯楽代わりに色々と話を聞きたそうなので断った。
国境の街はどうしても人が多いので、泊まるのは諦めた方がよさそうだ。
『べつにディメンションハウスにとまればよくないの?』
「そうだけど、こういったことも経験だろ。デュークはいい宿には泊まったことねぇだろうし」
ベレットはファルコの抜けた羽や爪を売るようになって裕福になっても、たまには贅沢に、などとするような性格ではなかった。
『まぁ、それはね』
次行こうぜ、次、とシヴァとデュークはマルカートの街を出た。
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