第6章・リビエラ王国

230 テンプレで被験体ゲット!

「おお、テンプレ」


『テンプレ?』


 アルが思わず呟くと、スピーカーを切ってるデュークは念話で聞き返した。


「テンプレート。定番イベント。もうすぐ見えて来るけど、盗賊が商人の馬車を襲ってる」


『たいへんじゃん!』


 翌日、昼より少し前。

 アリョーシャの街から真南は山があるので東回りルートを魔道具バイクで通ったワケだが、その山道でのことだった。

 馬車ならもう二日で街といった位置だ。

 街に近過ぎず遠過ぎず、といった位置が都合がいいので、盗賊がアジトを作ることが多い。

 だからといって見回りをしないのは、そこまでどの街にも余裕がないのと、街から二、三日の位置、というだけでは範囲が広過ぎるからだ。


『殺されはしねぇよ。殺して討伐隊が出て来るより、そこそこの金額で妥協して、盗賊たちのことは黙っててもらい、また稼いで金を貯めてもらった方が盗賊としては得だろ?通る商人や旅人が減らねぇんだから』


 近くなって来たのでアルも念話で返す。


『なにそれ、ひどい!』


『盗賊ってのは元々酷いもんなんだよ。そんな上手いことには行かねぇけどな。…デューク、雷属性の弾丸で盗賊を撃て』


 射程に入ったので、アルはデュークにそう指示する。しびれて動けなくなるよう調整してあるのが雷属性の弾丸だった。

 リアシートだと風景が楽しめない、とデュークはタンクに抱き付くように乗っていた。ちび姫を乗せた時と同じく。


『りょうかい!』


 撃ち漏らしがあれば、魔法で援護しようと思っていたアルだが、命中スキルが生えたデュークは立派なガンマン…ならぬ、ガングリフォンだった。

 盗賊は全部で八人。

 これで全員とは思えないので、アジトにまだたくさんいるだろう。


 商人は二人で幌馬車一台、幌がない荷馬車一台。

 護衛の冒険者は四人、しかも、Dランク三人Eランク一人しかいない辺り、費用をケチったのだろう。馬車の向きからして、この先の街、ガラノスの街から来たようだ。


「災難だったな。じゃ、盗賊はこっちで街に連れてくんで行っていいぞ」


 費用をケチろうが、再び盗賊に襲われようが自己責任なので、アルは名乗りもせず、そう言って先を促した。

 盗賊たちは一応、護衛たちが相手してたので馬車は壊れてない。一人も倒していないので、分け前をやる必要はない。


「あ、いや、ちょっと…」


「あ?謝礼を払う気なんざねぇんだろ。さっさと行け。邪魔」


 さくさくと盗賊たちを縄で縛り上げつつ、アルが再度促すと、藪蛇になってはマズイ、とばかりに早々に出立した。


 護衛冒険者たちは軽く会釈までする始末である。

 見たこともない乗用魔道具に子供グリフォンの従魔で、アッという間に制圧した所からして、高ランク冒険者だと勘違いしたのかもしれない。

 …いや、まぁ、間違ってもいないのだが、今はシヴァじゃなくCランクのアルである。高ランクになるのはBランクからだ。


 自白剤で盗賊たちにアジトを吐かせて、さくっと襲撃。

 もう十五人も盗賊がいて、小屋を建てて中々いい暮らしをしていたので、そろそろ討伐隊が組まれる所だったかもしれない。

 ステータスの称号・犯罪歴欄もかなり派手で強盗だけじゃなく、強姦、殺人もしていた。見せしめに殺すとかもしていたようだ。


 こういった連中は実験にもってこいなので、運悪く怪我したり、手足を失ってもらい、存分に新薬のお試しをした。

 強姦した奴らはちゃんと去勢しておく。見たくないので単に切るのではなく、男性機能を完全に不能に。そういった新薬も開発してたりするワケだ。偶然出来たのだが、お仕置き用で便利である。


 盗賊たちは小屋を二軒建ててアジトにしており、デュークにはその中の金目の物の没収をしてもらってる間、実験は影収納内のことなので、教育には全然悪くない。色々垂れ流した分もキレイにしておいたので、引き渡すのも問題ない。


 小屋は浄化までして木材にし、小屋が建っていた場所はキレイにならしておいた。

 シヴァは何となくカンが働き【魔眼の眼鏡】を装着して周囲をた所、埋めてあった武器や金塊も発見し、回収しておく。


【え、そんなところに。こんどからきをつける~】


 デュークにも【ドラゴンアイ】があるので、埋めてある物を探すのは可能だったのだ。


「おう。そうしてくれ」


 お昼を食べて一服してから、アルたちは最寄り街のガラノスの街へとバイクで向かった。

 馬車なら二日ぐらいだが、常に改良しているバイクなら一時間ぐらいだった。そう飛ばしていなくても。


 ガラノスの街の門前は、寒くなって来たので商人が減るかと思いきや、年が変わる前の一稼ぎ、温かい南で避寒、とばかりに結構賑わっていた。

 門が見える所に来た地点で影収納から盗賊たち二十三人を出し、数珠繋ぎにしたまま、バイクで引きずって来たのでアルたちは注目の的だった。


「悪いけど、警備兵を呼んでもらえる?盗賊たち、捕まえて来たんで」


 こういった場合は、伝言ゲームで門の警備兵に伝えられ、まとまった数の警備兵が来て盗賊たちを連行してくれる。捕まえた人も事情聴取で一緒に詰め所へ連れて行かれる。


 その通りになったが、指名手配されていた盗賊もいたのに、あまりにもおとなしく、アルを見てガタガタ震えるので警備兵たちに不審がられた。


「こんな若造に捕まったからじゃね?それに、怖い怖いAランク魔物のグリフォンもいるし」


「グワァッ!」


 デュークもノリに乗って鳴く。


「そ、そうか」


「若くてもCランク冒険者だしな。一人でこれだけの人数倒すには、ちょっとばかり乱暴なやり方になったんだろ」


「そうそう」


 あまり踏み込んだことを訊かない方がいい、と本能で判断したらしく、スムーズに事情聴取を終え、懸賞金や盗賊討伐報酬は冒険者ギルドの口座に振り込まれることになった。

 全然使ってなかったが、冒険者ギルドに依頼を出した時に、一応、口座は作ってあったのである。


 商業ギルドの口座は国内のみだが、冒険者ギルドの口座は冒険者ギルドがある所ならどこでも出し入れが出来る。アーティファクトな技術を使っているらしく。


 盗賊が貯め込んでいたお宝は、討伐した人のものになるので、どんな宝があったのかの報告義務はなかった。

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