229 久々の遠出は遠足気分!

 アルとデュークは王都エレナーダの冒険者ギルド側に転移し、納品して依頼完了してから、市場で買い物していたルトベナールと合流し、ラーヤナ国王都フォボスの『ホテルにゃーこや』の従業員宿舎前に転移した。

 この後、ルトべナールは自由時間で、アルとデュークは本館の四階(最上階)へ行き、露天風呂を楽しむことにした。

 アルは魔法を解除してシヴァに戻ってから。


 四階はオーナーフロアで、屋上庭園と露天風呂があるのである。階下はホテルだが、最上階は別荘なのでこれぐらいは、と。

 シヴァたちが使っていない時は、封鎖しておくので従業員が掃除する必要もない。

 屋上バルコニーにはワンウェイ結界が張ってあり、外からは見えないが、中から外は普通に見えるし、屋根がなくても雨が当たらない。


 屋上庭園は時間経過で形が変わったり、花が咲くのも色が違ったりするので、いつも見るたび違う新鮮な夢の庭園だった。

 ほとんどがこちらの植物で一部は人工植物も混じっており、アカネとコアたちが話し合って作ったのだが、いつ見てもすごい。


【いやぁ、いつはいってもごうかでぜいたくだね~】


「それが別荘。…久々にダンジョンに潜ると、新しいダンジョンを攻略したくなるなぁ。しばらく、普通に攻略してねぇし。…と言えば、南の方はほとんど反則攻略か。スタンピード対策にもなるし、明日から潜ろうかな。デュークも行く?」


【いいの?】


「たまにはゆっくり攻略するのもいいだろ。南のブルクシード王国ならアルもシヴァも顔を知られてねぇし。従業員教育はアカネとコアバタたち、にゃーこたちにお任せで」


【え、アカネさんはおいてくの?】


「デュークの出番がなくなるぞ。それに、アカネは今、従業員教育と物作りに夢中だから」


 だから、今日もダンジョンには来なかったのである。キエンダンジョン50階で止まってるのもあるのだろう。


【そっかぁ。おとまりで?】


「攻略ついでに依頼を受けるつもりだから、場合によっては。100階以上のダンジョンは攻略したから、大した階数の所は残ってねぇけど…って、他国を調べた方がいいか。ブルクシード王国はカーマインがいるし、エイブル国と挟まれてるリビエラ王国は手付かずで、転移ポイントもねぇし」


 万が一を考えても、リビエラ王国に行った方がいい。

 転移ポイントがない、ということは、自力で行く必要がある。

 サファリス国の大雨災害の時のように、コアたちの使い魔のレイスに転移ポイントを置いてもらう手もあるが、急いでない時に頼り切りも何だ。


【じゃ、バイクでいくの?】


「馬でもいいけどな。ちゃんと国境を越えて行こうか。デュークは国境越えるのは初めてになるだろ。ベレットさんの行商はエイブル国内だけだったし」


【うん!でも、ダンジョンじゃないなら、アカネさんもきたがらない?】


「訊いてみよう」


 通信バングルでアカネに訊いてみると、


【うーん。楽しそうだけど、まだ子供たちは放って置けないし、たびたび戻ることになるのもなぁ。国境越える時は少なくとも別行動でしょ?…また今度誘って】


という返事だった。


 確かに、デュークがいるので国境越える時は、シヴァはアルでいる必要があるから、アカネとは別行動になるか。


 入国してからなら、顔を知られてない国なので、シヴァに戻ってもいいが、念の為、認識阻害仮面は装着しておくべきだろう。

 シヴァの【行列優遇】スキルは便利ではあるが、別に急いでない時は申し訳なくもあるので。


 露天風呂を出た後、シヴァはリビングにて水分補給しつつ旅支度を始めたが、いつでも転移で戻って来れるし、食材も作り置き料理もバッチリあるので、支度…と言うより【冒険の書】による予習だ。


 タブレットに取り込んで共有にしてあるので、プロジェクターで結界スクリーンに映し、デュークにも見せてやった。

 まずは地図と基本情報から。

 平地が多く、農耕も酪農も盛んなリビエラ王国は国名のように専制君主制なものの、ここ数代の国王が温厚なこともあり、身分差別が激しいワケではなく、いずれは共和制に移行して行きそうな平和な国だった。

 …まぁ、表面的には。


 光が当たれば影が出来る。

 平和な国ならフヌケているだろうと、他国がちょっかいをかけたり内乱を仕掛けたりと暗躍する連中もいる、という不穏な噂も結構ある。それが単なる噂じゃないのは世の常だ。


 他国よりは少ないとはいえ、ダンジョンがあるので冒険者はどこにでもおり、王都ドリフォロスはドリフォロスダンジョンを中心に発展して来た街で、平和になってから区画整理をしたので、街並みは放射状に規則正しく、暮らし易くなっている。


 シヴァの目的はドリフォロスダンジョン。

 リビエラ王国最大の120階ある洞窟型ダンジョンで、このダンジョンが出来てから二百年以上は経つが、攻略者はいまだにいないので、一般的には何階まであるのかも分かっていない。当然ながら、ダンジョンマスターもいない。

 街が発展した通り、浅層は食材ドロップも鉱物ドロップも多く、下層に行けばマジックアイテムも多い。


【って、なんでそんなことまでわかるの?】


「それが【冒険の書】だから。各地のダンジョン情報とちょっとした街情報が載ってるんだよ。リアルタイムで。だから、今攻略したならすぐ攻略済と表記される」


【そんなすごいほんなんだ。マジックアイテムなんだね】


「そ。ダンジョンエラー特典ドロップは、こういったかなりいいアイテムが出る。ディメンションハウスも同じくだ」


【それはすごいねぇ】


「で、この【冒険の書】は地図があって、リアルタイムで所有者の位置まで出るから、行ったことがない場所へ行く時はかなり便利なワケだ。

 計画としてはエイブル国アリョーシャの街から南へ行きプロキオンの街という国境の街へ行って、そこから越境してリビエラ王国の国境のマルカートの街へと行く。ここまではアルでバイクだな。国境を抜けたらシヴァに戻って認識阻害仮面を装着予定。移動は馬でも騎竜でもバイクでも何でもあり」


【いらいをうけるのはあり?】


「護衛依頼?移動速度が遅いって言ってただろ」


【うん。でも、にもつはこぶいらいもあるでしょ?】


「まぁ、それなら合わせる必要がねぇからいいけど、その時になってから考えようぜ。希少なグリフォンってのは狙われるのを改めて自覚しろって。ファルコ狙いで誘拐事件があったばっかなんだからさ」


【はーい。じゃ、ぼく、しゃべれないフリしたほうがいい?】


「その方がいいかもな。念話で会話出来るし。まぁ、黙り込んでるように見えるのも怪しいんだけど」


【そういわれてもさぁ~】


 ダンジョンは隅から隅まで把握してしまうのも楽しみが減るので、サラッと流し、他の本に載っているリビエラ王国の歴史をシヴァは復習、デュークは学習した。


 久々の遠出、しかも、転移ポイントがない方面となると、かなりワクワクして来たので、シヴァにとっては遠足気分だった。

 なので、更におやつを充実させることにし、芋チップスは作れるし、とまだ作ってなかったプリング○スを作った。


 マッシュしたポテトと小麦粉を混ぜ、チップ状にして揚げた大人気スナック菓子である。

 チッ○スターより少し厚めのチップが食べごたえがあるし、味も濃い。

 たまに無性に食べたくなるぐらいお気に入りだったサワーオニオン味を試行錯誤、分身たちも使って何とか再現したので、アカネにも褒められたのだった。

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