228 Aランク魔物ってのは伊達じゃねぇ

 首謀者の男爵は本当にファルコに手足を潰され、かなりの恐怖だったらしく失禁もして気を失っていた。

 【クリーン】をかけた後、ちゃんと整復して新薬のゼリー状の中級回復ポーションを飲ませて治してやったが、飛び起きた程の不味さと大量に発汗する副作用は今までで一番多い副反応で、全然面白くなかった。

 エクトプラズムのような変な液体を吐いた人もいたのに。


 わざわざ治してやったのは、新薬を試したかったのもあるが、従魔であるファルコが咎められないように、である。Aランク魔物の従魔を難癖付けて奪おうとする輩は腐る程いるので、隙を作らないことに越したことはない。


 そういえば、男爵の家名はメイクイーン…ではなく、マイラータスという何の関係もない家名だった。

 そのマイラータス男爵は黒い噂が先代の時代から元々多く、今の裕福さも黒い商売のおかげのようだ。

 マイラータス男爵と誘拐に関わった騎士を留置場に入れた後、少しして誘拐実行犯の男が出頭して来た。


【来ないとどうなるか分かってるだろうな?わたしは覚えた気配は忘れんぞ】


 そんなファルコの説得が功を奏したらしい。

 事実、ベレットが誘拐されたことに気付いたのは、いきなり気配が遠ざかったからだった。


 これで一段落なので、アルは警備隊詰め所で訓練場の片隅を借り、四人掛けテーブルセットを出して昼食の続きに戻った。

 鍋のシメだ。場所代として温まる芋煮汁を寸胴鍋ごと提供したため、警備兵たちも快く承知してくれた。


 ベレットとファルコも一緒だと場所を取るので、訓練場を借りたのだった。

 ベレットは食事を終えているのでお茶だが、ファルコはまだ全然食べてない。ベレットが食堂でファルコの分の料理をマジックバッグに入れていたので、アルがそれを魔法で温め直してやった。きのこと肉と野菜のスープとサンドイッチだ。


 まぁ、雑炊も食べな、と取り分けてテーブルに置いてやる。

 ファルコは大きいので椅子なしで、テーブルの上の物を難なく食べられる。お椀だが。


【ぞうすいがこれまた、おいしいんだよねぇ。にくややさいのうまみたっぷりで】


【ああ、本当に美味いな、これは。デュークのその手は便利そうだが、どうやって使うものなんだ?】


「思念操作。マジックハンドと言うマジックアイテムなんだけど、元々の器用さに依存するから使う人、使う魔物次第だな。短期間で使いこなせているデュークはかなり器用」


【えっへん!…でも、アル。ぼくのよびのマジックハンドをファルコにあげるのはなしなの?】


「ただでさえ、狙われてるグリフォンに、更に付加価値付けちまうのもどうかと思って。ファルコの羽や爪なら魔力もかなり含まれてるから、魔道具師たちも欲しがるだろうし。ベレットさんとしてはどう?」


「まさか、誘拐されるとは思ってませんでした…。ただの商人がグリフォンを従魔にしていることからして異例なのは承知していましたが、思った以上に危険だったんですね…」


「いや、そうじゃなくて、マジックハンドの話。文字通り、手が増えるからファルコもベレットさんにも便利にはなるだろうけど、珍しいもんは欲しがられるしな」


【それなら今更じゃないか?今回のことで、わたしがすぐアルを呼べるのは知られたワケだし、アルと懇意になりたい商人の方がかなり多いだろう】


「まぁ、それもそうか。ファルコの羽は白だから白いマジックハンドを作ってやろう。食った後で」


「よろしいんですか?値が付けられない価値があるかと思いますが」


「構わねぇよ。モニターも兼ねてるし、グリフォンの生態観察もするからな」


【わたしの羽や爪なら好きなだけ持ってっていいぞ】


「そういらねぇって。前にもらったのもあるし。それより、ベレットさん、念のため、街中でファルコが側にいられない時は護衛を付けた方がいいぞ」


【ああ、それはわたしも言おうと思っていた。壊すのなら別だが、入れない所も多いしな】


【ファルコ、かげきだし~】


「人間に育てられたからこそ、周囲に配慮する辺り、これでも温厚なんだって。そうじゃなければ、とっくに至る所を壊しまくり、巻き込まれて死傷者多数だって。Aランク魔物ってのは伊達じゃねぇからな」


「そうですよね…。護衛はこの後すぐに依頼を出して頼むことにします」


「その方がいいな」


【そういえば、アル、忙しいのではなかったのか?】


「メシの途中だったぐらいで、忙しくはねぇよ」


【ダンジョンのなかだったけどね】


【…それは忙しいと言うのでは?】


「納品依頼のドロップはもう集めた後だからな。エレナーダのギルドに持って行くだけ」


【ルディとごうりゅうしないとね。…あ、ルディはあたらしいじゅうぎょういんのおにいさん。いま、いろいろやってるの】


「いつもだけどな。本業は冒険者なんで、たまには依頼を受けてるってワケ」


【このまえ、ごえいいらいやったんだけど、すぐバレてたよ。からまれなくても、ごはんでバレちゃうよね】


「ウザイから黙っとこう程度だと、どうしても隠すのが甘くなるしな」


【商人護衛依頼なのか?】


「そう、二泊三日。デュークの依頼デビューで選ばせたんだけど」


【だって、ふつうのしょうにんってどんなんか、しらなかったし。いどうおそいし、ほとんどひまなのね】


「グリフォンに乗っての移動と比べるのは気の毒だって」


「そうだぞ、デューク。移動が速いからこそ、商売が成り立っているんだよ」


【だが、アルと一緒なら普通の野営とは行かなかったんじゃないか?】


【そこはね。かいてきすぎた。どうちゅうでもとりかったり、たべれるハーブってのをとったりしたし、あめふってカエルけいのまものたいじをしたりもしたよ】


【カエル系の魔物?食べたのか?】


【うん!アルがりょうりするとなんでもおいしいよ!】


「火を通し過ぎるとパサパサでマズくなるのを、知らねぇ人が多いらしいな」


 そんな話をしつつ、鍋のシメを平らげ、デザートのナシっぽい果物のタルトタタンも美味しく頂いた。デザートはベレットも一緒に。

 その頃に、警備兵の一人が提供した寸胴鍋を洗って持って来てくれたので、ちゃんと収納した。


 そして、作業机を出し、ファルコに白いマジックハンドを作ってやった。槍や他の武器やポーションが入る小さい収納付きで。マジックハンドは5mぐらい伸びるので、狭い場所でも少しは何とかなるハズだ。


 グリフォンには本来ない「手」となると、どう使うものかと戸惑っていたファルコだが、荷物を持つ、掴む程度はすぐ出来たので、そう遠くないうちに使いこなせるようになるだろう。ファルコ限定に利用者…利用グリフォンを固定しておいた。


「影属性で伸び縮みするし、物理攻撃にも強いけど、凍らせて砕くと壊れるから、その時は連絡して」


【分かった】


「氷魔法を使える人は滅多にいないのでは?」


「その滅多にいない氷魔法使いと、グリフォンを従魔にしてる人とどちらが多いと思う?」


【なるほど。そういったレアな魔法使いが出て来るかも、ということか。気を付ける】


「おう。マジックハンドは壊れても収納は使えるハズだから。容量少ないんで入れ過ぎ注意だけど」


【分かった】


 ベレットにはいつものごとく、恐縮されたが、今更も今更だった。

 ついでに、ベレットとファルコは冒険者ギルドまで影転移で送ってやり、アルとデュークは王都エレナーダの冒険者ギルド側に転移した。


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