227 騙されたんじゃね?

「そいつがベレットか。普通の男に見えるが、グリフォンを従魔にしているというのは本当なのか?商人なのに」


 騎士の主人らしき貴族がそう言う。三十前後でまだ若い。


「間違いありません。その証拠に主人を探してグリフォンが飛んでいます。先程も見かけたので窓から見えるかもしれません」


「…そうか。では、これだ。右手首に着けるといい」


「『隷属の腕輪』ですね」


「バカっ!名前を出すな!持ってるだけでも処罰される代物だぞ。犯罪奴隷に着ける首輪とも違う裏社会の魔道具だからな」


 ほほう?


「失礼しました」


 騎士はアルの腕のロープを解くと、右手首に腕輪を着けた。

 マジックアイテムではないからか、サイズが変わってピッタリくっつく、ということはなかった。関節の柔らかい人なら抜けそうだ。


 主人の貴族がその腕輪に触れて魔力を流す。

 それが主人登録と隷属効果の起動らしいが、魔力が流れて起動した、という流れは感じなかった。何も起こらない。


だまされたんじゃね?)


 壊れた物を掴まされたのか、ちゃんと正常に作動していたが、保管が悪かったのか、それとも、「それっぽい」だけで魔道具でも何でもなかったのか。

 魔道具師、錬金術師の少なさから一番最後があり得る気がするが、お持ち帰りして、後でちゃんと効果を調べよう。


 後日、やはり魔道具でも何でもなく、見せかけだけの偽物だったことが判明した。


「起こせ。早速、グリフォンを呼ばせよう」


「かしこまりました」


 どうやって起こすつもりかと思っていたら、状態異常回復ポーションを飲ませられた。飲んでおらず、収納に転移させたが。


「…ここは…」


 戸惑う演技をする。【ボイスチェンジャー】で声もちゃんとベレットだ。適当なのは服装ぐらいだ。ベレットが着ていた服と似せてもいない。

 誘拐犯の雇い主は本物のベレットの服装なんて見ているワケがないので。ジーパン、薄手のニット、ショートブーツ、ハーフコートとアルの単なるラフな服装だった。


「わたしが主人だ。従え!」


「…………」


 このやり方は違うんじゃね?とツッコミを入れたかったアルだが、黙る。


「お前はグリフォンを従魔にしてるだろう?ここに呼ぶことは出来るか?」


「…無理です…近くにいません…」


「テイマーなら呼ぶことだって出来るハズだ!」


「商人です…わたしはなんで……ここ…あれ?」


 アルは縛られた足のロープを解こうと手を伸ばし、【隷属の腕輪】の効果が薄いぞ、みたいな演技をしてみる。


「何ですか?これ」


「効いてないのかっ?」


「何がです?あなたはどなたでしょう?わたしは食事しようと食堂に…あれ?ひょっとしなくても、誘拐ですか、これ」


「グリフォンを呼べ!呼ばないのなら指が一本ずつ減って行くぞ!」


「恐喝ですね。どれだけ罪を重ねるんでしょう?たかが男爵で。男爵程度だから?…裏社会とも関わってるようだし、爵位剥奪は免れねぇな」


 演技に飽きたアルはブチッと脚力だけでロープを切り、騎士の足を払って手足に合金手錠をかけ、首に【魔法封じの枷】を装着してやった。

 【隷属の腕輪】を回収し【変幻自在の指輪】も収納に戻す。【ボイスチェンジャー】も解除し、アルの姿を見せた。


「グリフォンを従魔にしてる商人が、有力なツテがないとでも思ってた?何故、他の貴族が手を出さないか疑問に思わなかった?おめでたい頭だなぁ」


 結構、呑気なベレットなので、少なくとも貴族は手を出さないようアルが国王に根回ししておいたのだ。

 しかし、貴族なんてものは情報操作して当たり前なので、本気にしないこういった男爵のような頭の悪い奴も出て来てしまうワケで。

 アルは念話通話で連絡し、ファルコを転移で引き寄せた。


「はい、お待ちかね、グリフォンだ。用事があったんだろう?Aランク魔物のグリフォンに」


【こいつが誘拐の主犯か。手足を潰すぐらいはいいんだな?】


「どうぞどうぞ。主人を誘拐されて怒らない従魔なんかいねぇし、正当防衛も成立してる」


「な、な、何故、しゃべるんだ…」


【グリフォンは人間が思うより賢い生き物だからだ。すべての人間にわたしの声を聞こえるようにしたのは、そこの天才だがな】


「天才じぇねぇよ。超努力してるっつーの。…ああ、手足が潰れても安心だぞ。新薬の実験台にしてやるから。副作用がなぁ、だけど、個人差ありまくってるからデータ集め中なんで。いやぁ、犯罪者だと気遣いがまったくいらなくていいなぁ」


 男爵のお仕置きはファルコに任せ、アルはこの街の警備兵の詰め所に行って、飛行カメラで撮影していた動画を恐喝した所まで編集して見せ、


「誘拐された人は助けたけど、従魔が超怒ってるから早く行った方がいいぞ」


と捕縛に向かわせた。

 屋敷の場所を教える名目でアルが先導して。


 その頃にはベレットは食事を終えていた、とデュークの通信魔道具経由で知ったので、男爵の屋敷近くで引き寄せて、一度は逃げたのだが、従魔が気になって戻って来た、風を装って合流した。

 デュークはもういつもの大型犬サイズに戻っている。アルとすり替わっていたことは伏せておくワケだ。


 この街に商会があるベレットは割と有名だったので、警備兵も同情的だった。

 ちびグリフォンを「にゃーこや」の店長に譲ったのはそこそこ知られている程度だったが、飛行カメラという高度な魔道具で撮影していたことと、冒険者ギルドに問い合わせもしたので身元も完全に保証された。


 カンデンツァの街にも冒険者ギルドがあっても、わざわざ王都エレナーダまでベレットが従魔について相談に行ったのは、カンデンツァは小さな街で冒険者自体が少なく、テイマーはほとんどおらず、グリフォンをテイム出来そうなテイマーがいるなら王都だろう、となったワケである。

 ファルコがいるおかげで空を飛んで行けることもあった。


 アルは冒険者として王都を拠点としているワケじゃないし、テイマーでもないが、王都にはよく商売上行っているので、色んな人が集まる王都、という点では正しい判断だっただろう。


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