226 アル!助けてくれ。主がさらわれた!

 鍋に具材を足しつつ、美味しく食べ、そろそろシメに入ろうとした時、


【アル!助けてくれ。あるじがさらわれた!】


と通信バングルに連絡があった。デュークの先輩グリフォン、ファルコからだ。


「すぐ行く。…デューク、ベレットさんがさらわれたそうだ。すぐ行くぞ」


 さくっと片付けてからアルはデュークを連れて転移した。

 通信首輪に転移ポイントが仕込んであるので、どこに行こうが、ファルコの側に出る。

 転移して安全かどうか、は事前に確かめられるようになっていた。転移ポイント周辺限定の千里眼である。


 どこかの街の建物の裏の厩舎だった。料理の匂いがすることからして、食堂の裏で、馬車で来た人たちや従魔連れがここに置いて行く場所らしい。


「ベレットさんは今まで側にいたのか?」


 探知魔法の範囲を広げつつ、アルはそう訊いたが、ファルコが答える前に見付けた。


「見付けた。確かに誘拐。ちょっと待ってろ。デュークもここに」


 身体強化をかけた誘拐犯が、眠らせたベレットを肩に担いで移動中だった。

 ファルコ対策か狭い道ばかりを選んでるようだが、足場結界を蹴って宙を駆ける、というか弾丸のように最短を直線で進むアルには、何の意味もなかった。


「はい、残念。ふりだしに戻る、だ」


 ベレットを奪い返して一旦影収納に入れ、誘拐犯には後ろ手に合金手錠をかけて、最初の場所、厩舎側に転移で戻った。

 更に誘拐犯は影拘束で拘束してから、ベレットを影収納から出し、キュアをかけ目覚めさせた。怪我はしてない。


【よかった。無事だったか】


【こいつがゆうかいはん?だれかにたのまれたの?】


「ここはサクッと自白剤」


 アルが自白剤を誘拐犯の胃に転移させ、尋問した所、雇い主はさる貴族でベレットを誘拐して隷属の首輪を付け、ファルコを自由に操るつもりだったらしい。

 つまり、貴族のくだらない見栄で誘拐された、というワケだ。

 体長2m50cmぐらいあるファルコは、当然店の中に入れないので、街での食事の時はベレットとファルコは離れるのを知り、見計らって誘拐していた。


 デュークの情報はまだ知らなかったのは幸いだった。知っていて、まだベレットたちと一緒にいたのならデュークの方を狙ったことだろう。



 仲介人を挟んでいるので、誘拐犯自身も貴族の名前すら知らないが、ベレットを連れて行く場所は指定されていた。ある宿屋の裏口だ。

 なら、誘拐が成功したと見せかけてベレットを連れて行かせたらいい。


 では、とアルが【変幻自在の指輪】を使って、見かけだけベレットになりすますことにした。アルと背格好はさほど変わらないし、ベレットの詳細な体格や仕草まで相手は知らないだろう。

 ベレットには【認識阻害仮面】を装着してもらい、違う食堂で食事。ファルコはいかにもあるじを探してます、とばかりに空から捜索しているフリ。


 デュークはスキルオーブで覚えた【サイズ変更】スキルを使って両手に乗るぐらいのミニサイズになり、こっそりベレットの護衛だ。小さくなってもマジックハンドは普通サイズで使えるので、魔道具拳銃も槍も使える。

 まだデュークの魔力が少ないので、そんなに長い間は保たないが、ベレットが食事する時間ぐらいは大丈夫だろう。


 誘拐犯にカイがあり、快く協力してくれることになった。バッキバキに砕いた手足も元通りだ。かなり効果は高いが、痛みも強い味も酷い新薬のおかげで。

 アルは本当に丁寧に説得しただけで、手足を砕いたのはファルコである。



 ちなみに、この街はエイブル国北部、王都エレナーダの北にあるカンデンツァの街で、ベレットの商会がある街だった。

 もう寒いので冬支度を、と戻って来た所で誘拐である。待ちかねていたとしか思えない。

 そして、再びやり直し、誘拐犯はベレット(アルが化けたニセ)を肩に担いで移動し、ある宿屋の裏口に来た。



 トントントン、トン、トントントン、トントン。


 このノックが合図だったらしく、宿の人とは思えないようなガタイのいい男が顔を出し、肩に担いだベレット(ニセ)の顔を確認すると、無言で布袋を出し、ベレット(ニセ)と交換した。


 ガタイのいい男はこの領に属する騎士だった。

 私服を着ていても冒険者には見えない紋章の入った装備だ。やっつけ仕事過ぎだろう、とアルは内心ツッコミつつ、ちゃんと眠らされてます演技をしていた。

 ステータスもベレットに偽装していて正解で、この騎士は鑑定スキルがあった。


 確認後、ベレット(ニセ)は、手足をロープで縛って箱馬車に放り込まれた。ステータスが高いおかげで、アルはまったく痛くないが、ベレットだとかなり痛い思いをしたことだろう。

 飾りのないシンプルデザインの箱馬車だが、こういった仕事に使われる貴族の持ち物だろう。そもそも、箱馬車自体、大商人でも滅多に使わない。荷物を大量に積載したいので幌馬車なのだ。


 騎士自身は御者台に座り、馬車内はベレットに化けたアル一人だったので、ガッタガタする振動がウザかったので影の中に潜った。楽々だ。

 地味に縛られたままでいるのに気を遣うが、仕方ない。ヤワなロープは身体強化をかけなくても普通に切れてしまうので、【強靭】を付与してやった。短時間しか保たないが、十分だろう。


 投影MAPで確認していると、予想通り、この街の貴族の屋敷が集まっている地域に行くらしい。そう広い街でもないが、馬車が通れる道は限られてるし、スピードも出せないので迂回しつつ、三十分ぐらいで辿り着いた。


 馬車寄せから再び肩に担がれて裏口から屋敷に入り、すれ違うメイドや使用人たちは関わり合わないよう目を伏せて見ないフリをしていた。

 対応に戸惑わなかったことからして、頻繁にこういったことがあるのだろう。

 二階の執務室っぽい部屋に連れて行かれて、ソファーに放り出された。


――――――――――――――――――――――――――――――

大晦日特別4コマ漫画2本!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16817330669206859732

新年特別企画4コマ漫画あり!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16817330669257542457

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る