183 こんなに愛想よくてAランク魔物?

 三つの商会が合同で移動するそうで馬車は三台、商人は二人ずつで六人、護衛はCランク四人パーティとDランク三人パーティとDランクソロ一人のたった八人では少ないので追加募集していたそうだ。


 御者が出来るなら交替して欲しいし、馬や騎獣持ちなら尚いい、とのことだった。従魔もおそらくいいだろう、と。

 アルは依頼受注処理をしてもらい、貸し馬屋へと向かった。

 たまには普通の馬もいいかと思ったのだが……。


【なんでうま?】


「バイクだとにゃーこやの店長だとバレるだろ」


【ぼくがいるからバレバレじゃない?】


「堂々としてると、返ってあれ?と思うもんだって。人工騎馬も持ってるけど、あいつのだしな」


 シヴァの騎馬だが、そう乗ってないのでバレないような気がするものの。黒の馬…青毛なのでアオという名である。

 防壁門近くの貸し馬屋に行ったのだが……。


「…デューク、Aランク魔物だっけ」


 馬たちに怖がられてしまった。


【いやいや、アルをこわがってるじゃん~】


「繊細な馬ばっかだなぁ。って、馬は元々繊細か。貸し馬は色んな人が借りるから割と図太いハズなんだけど」


「すみませんねぇ。もっと図太い連中は貸し出し中で」


 馬たちが怖がるのでは、無理矢理借りられない。

 さすが王都で、バトルホースや大きい鳥系、トカゲ系の騎獣もいたが、短期の普通の護衛依頼で借りるには高額だし、そちらにも怖がられた。

 仕方ない。シヴァの人工騎馬を使うか。

 幸いサイズ調整が出来るので、170cm程度のアルに合わせたサイズに出来る。鞍やあぶみは調整しないとならないが。

 街中は馬で走るには許可がいるので、防壁側の空き地にて黒い人工騎馬を出した。人工騎馬も鞍も鐙もサイズ調整し、乗ってみる。


「このぐらいだな」


【ぼくものるの?】


「別に走ってもいいぞ。馬車の速度は速くねぇし。疲れたら馬に乗ればいい。離れて行動するのはなしだけどな」


【わかったー】


「…ああ、で、デュークのスキルってことにしてあるアイテムボックスは使用不可。おれのマジックバッグから出したってことで。槍はいいけど、魔道具拳銃も使用不可」


【ああ、しょうにんばっかだもんね。うるさいか】


「そーゆーこと。さて、野営のテントを買うか」


 アルは人工騎馬をしまうと、歩き出した。


【かうの?もってない?でぃ…なんとかはつかえないとしても】


「普通のテントは持ってねぇんだって。作ってもいいけど、色々付けたくなるから買った方がいっか、と。テントの中でディメンションハウスに行けば、風呂も入れるぞ」


【あ、そっか。ほかのひとたちにバレなければありってことね】


「そ。結界張るから踏み込まれる心配ねぇし、飛行カメラでちゃんと外の様子も監視出来るしな」


【すでにそこから、ふつうのやえいとちがうんだけど~】


「快適な方がいいだろ。…あ、で、今回の食事は依頼主が水と保存食を用意するけど、それが嫌なら各自でってことなんで、おれらは一々調理する。作り置きは食べずに。保存が効く腸詰めやベーコンやハムやチーズ、クッキーやカップケーキぐらいはいいけど」


【はーい。でも、ほかのひとからほしがられない?】


「欲しがられるだろうけど、断る。前回護衛依頼の時は、しっかりとした定食を売ってあまりの美味さに素性がバレる、までがセットだったんで分けないし売らない。食材提供を言い出したら調理器具も調味料もねぇと断る。おれら以外十四人で人数多いし、たった二泊三日のことだから、それで納得するハズだしな」


【りょうかい。ほかでバレるきがするけど】


 そういったことを話しながら市場へ行き、デュークも入れる一般的な二人用テントを買った。

 新品で防水なのでそれなりのお値段だが、稼ぎのいいCランク冒険者にしてはケチった、と言われるような絶妙な品だ。


 ついでに、食材も買い足しておく。焼きたてパンの香りには逆らえないので、他の客の迷惑にならない程度にたっぷりと。

 パンは多くの人たちが毎日食べるものだからか、どの街でも種類が豊富で美味しいものが多かった。


「まだちょっと早いけど、メシ食ってくか」


 個室があるそれなりの店なら従魔も入れるので、アルとデュークはそういった店に入って、ランチのあまり辛くない川エビのトムヤムクンっぽいものを食べた。

 もうちょっと香辛料を効かせて欲しい所だが、これはこれで美味しかった。柑橘類の果汁を絞ってあって、それがまたクセになる味で。

 今度、作ってみよう。


 ******


 護衛依頼の場合、あらかじめ面接して合否を決める場合と、態度の悪い評判の悪い冒険者は受注段階で落とされるので冒険者ギルドの人選を信用して現地集合、そのまま、依頼へ、となる場合があるが、今回は後者だった。


 冒険者ギルドの手数料的にも後者の方が安いので、こちらの方が一般的だが、中にはタチの悪い態度の悪い冒険者もいてクビにすると暴れ、ギルドに言わないよう脅すこともあるので、リスクはやはりあった。

 当然、後から判明した場合、厳しい処罰がある。冒険者ギルドの信用問題になるのだ。


 集合場所の防壁側の広場に時間より余裕を持って、人工騎馬のアオの手綱を引いてアルたちが行くと、まだ馬車は二台しか来てなかった。護衛も半数ぐらいだ。

 グリフォン連れなのを驚かれながら、依頼票を見せてアルが受けた依頼の商人かどうかの確認。それぞれ軽く自己紹介する。


「…何でしゃべるんだ?」


【ぼくがかしこいから。ねんわがきこえるようにしてあるだけなんだよ。このては【マジックハンド】でいろいろできる。あくしゅもね】


 よろしく~と人なつこいデュークは愛想よく握手して回る。


「…こんなに愛想よくてAランク魔物のグリフォン?似たような魔導人形や伝説の魔法生物とかじゃなくて?」


「マジでグリフォンだって。三ヶ月ちょっとでこの賢さ。読み書きも簡単な料理も出来るし、身を守る程度には戦える」


「え、料理も?どうやって…って、あの黒い手でか。マジックアイテム?」


「ああ。料理が作れるマジックハンドじゃなく、使用者に左右される。デュークが賢くて器用だからこそ、だな。可愛さ担当で」


「…えーと、あの小ささじゃ乗れないのは分かるけど、斥候とか見回りとかもダメなのか?」


「初めて依頼に連れて来たんで超経験不足なんだって。広範囲の索敵ならおれが出来るから問題ねぇし。そもそも、従魔になってまだ二週間ちょいなんだよ」


「…そうなのか」


 経緯を知りたそうな商人だが、普通は教えないので、それ以上は訊かなかった。

 そうこうするうちに、他の商人と護衛の冒険者たちが集まって来た。


 デュークのコミュニケーションスキルは大したもので、最初は驚かれたものの、すぐに馴染んでいた。

 全員集まってから、改めて自己紹介し、商人の代表者キーファーの商会の馴染みのCランクパーティ『蒼銀そうぎんの剣』リーダーのジバロス(二十代後半)が、今回の隊商のリーダーも務めることになった。

 Cランクパーティだが、ジバロス自身はBランクだ。

 誰も面倒臭いリーダーなんてやりたくなかったので、文句も出なかった。


 ジバロスが指示して護衛たちの持ち場を決め、アルとデュークは最後尾になった。ジバロスと一緒に。

 先頭はジバロスのパーティメンバーである。


「なんて不自然な配置」


 街を出てから、アルはそう呟いた。

 デュークは少し前を軽く走る。


「いや、ちょっと話したくて。…アルって面倒だからCランクのままでいいや、な口だろ?」


 ジバロスも馬に乗ってアルに並んで歩かせていた。


――――――――――――――――――――――――――――――

関連話「番外編35 取って来ーい!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330669694925160

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