182 グリフォンとしてはまだまだ赤ん坊

 ラーヤナ国キエンダンジョン40階のボスはバトルクイーンビー。

 バトルクイーンビーは当然ながら単体ではなく、その部下たるソルジャービーを引き連れて出て来るので、実際、冒険者たちが相手しないとならないのは五十一匹。


 たかが蜂ごとき、と舐めてかかった冒険者パーティはエスケープボールで逃げ帰るか、それも出来ず果てるだけだった。

 統制が取れた組織的行動をする2m以上あるソルジャービーは、人間の軍隊よりもかなり厄介だった。機動性も半端なく飛ぶし、魔法も使って来るのだ。


 何とか突破口を開いてバトルクインビーに相対したとしても、バトルクイーンビーは5mもの巨体。虫系魔物はその外殻もかなり堅く、魔法防御力も高いのでダメージは中々与えられない。


 何とかバトルクイーンビーを倒せたとしても、部下たるソルジャービーは減るワケではない。全部倒してようやく討伐完了なのだ。

 ボスを討伐しなくても、41階に進めるのだが、40階のフロアボスが討伐出来ないのに進んだ所で、すぐ行き詰まるのがオチである。


 それに、難易度が高いだけに、ドロップアイテムがよく、一度来れば、転移魔法陣で直接来れるので、チャレンジする冒険者パーティは後を絶たなかった。


 ここで詰まっている冒険者たちは結構いた。

 アカネもその一人である。

 ソロでここまで来ているCランク冒険者、というだけでも驚きなのだが、アカネは詰まっているのではなく、正しくは「修行している」だった。


 アカネは初チャレンジでバトルクイーンビーたちはさらりと討伐したのだが、武器の威力に頼ったものであり、多数相手では素の戦闘力の力不足、経験不足を実感したそうで。


 50階のフロアボス、ノーライフキングで詰まるとシヴァは思っていたので、結構な予想外である。

 自宅の階下、自宅からの転移魔法陣でも直で40階に行けるので、アカネは依頼を受けつつ、修行にも通っていた。


 ******


 サファリス国の畳工場も場所が決まって整地してるし、材料になる麦わらはまだ足りないので、工場設置はもっと後。

 では、そろそろ依頼を受けるかな、とシヴァはアルに化けて、ラーヤナ国王都フォボスの冒険者ギルドに顔を出した。

 アルとしてはエイブル国の王都エレナーダで講師依頼を受けて以来、三週間ぶりになる。


 シヴァはサファリス国の救援復興を依頼にしたが、そもそも、SSランク冒険者は冒険者ギルドに顔を出していれば、年単位で依頼を受けなくても問題ない。


 アルがフォボスを選んだのは、王都だと依頼が多岐に渡るからだ。

 この所、エイブル国、サファリス国に肩入れしているので、たまには、ということもあった。

 フォボスでの依頼受注は二ヶ月ぐらい前の商人護衛…というか輸送以来か。


 ざわっと途端にざわめくのは、当然、デュークも一緒だからである。さらわれそうなので、最初からアルが抱っこしていた。


【ぼく、わるいグリフォンじゃなく『じゅうま』だから、こわがらなくていいよ~】


「怖がりはしねぇんじゃね?」


【ぼく、けっこう、つよくなったとおもうけど】


「Aランクのグリフォンとしてはまだまだ赤ん坊だって」


【もうちょっとそだってるよ~。…で、けいじばんってどれ?】


「あっち」


 デュークと一緒に依頼を受けるのは初めてなので、アルはあらかじめ流れを説明してあった。


 そこそこ時間を外してあるので、人だかりで掲示板が見えない、といったことはないし、デュークのおかげで道を開けてくれた。

 依頼は討伐からダンジョンドロップ採取、護衛、警備、定番の薬草採取、街中の細々とした雑用、とかなり多岐に渡っていた。


【あ、アル、これうけようよ!ぼくでもしってるおおきいしょうかいだし!】


「ワケありに決まってるだろ。そんな大きい商会なら馴染みの冒険者や護衛、他にもいくらでもツテがあるだろうに募集ってことは、そいつらに断られたってことだ。しかも、ランクがBで相場の二倍。単なる護衛でこれはおかしい」


 Cランク以上の冒険者なら、おかしいと思うので残ってるワケだ。


「ああ、その商会、詐欺まがいのことして信用を落してるんだよ。強引な商売してたから、ここぞとばかりに周囲に見放されて。子供のグリフォンを連れてるってことは『にゃーこや』の店長さんだろ。どこかからか聞いてない?詐欺に使った商品、にゃーこやの商品なんだけど」


「いや、初耳。うちの何を?」


「エイブル国でオークションに出した物って聞いた。ツテがあるから必ず手に入れるって豪語して前金もらったクセに、手に入らず、前金も使い込んで返せず、で」


 すると、コンパクト型手鏡か。


「そんなん信用する方もどうかと。国をまたいでるのに」


 エイブル国内の商人たちの方が情報も早くて有利に決まってる。


【えー?げんめつしたぁ。おおきいしょうかいってもっとけんじつなしょうばいするんじゃないの?】


「実権握ってた前会頭が亡くなったらしいぞ。…って、何でしゃべるんだ?」


【かしこいから】


「そ。念話を誰にでも聞こえるようにしてあるだけなんだよ。人間の言葉は元々覚えてたし、もう読み書きも出来る。生まれてまだ三ヶ月ちょっとなのに」


「そりゃすごいな」


【えっへん!】


「あんたも耳早いな。デュークはほとんどエイブル国にしか連れて行ってねぇのに」


「ウチのパーティはある商会と専属護衛契約してるからな。自然とそういった情報が集まって来るワケで。…あ、おれはザルド。Bランクパーティ『青の息吹』のリーダーで、Bランクだ」


 …び、微妙なパーティ名だ。


「それはご丁寧に。Cランク冒険者でにゃーこや店長もやってるアルだ」


【ぼくはデューク、よろしくね。いぶき、ってどんないみ?】


「え?…説明するのはちょっと難しいな」


「呼吸、活気のあること。山の息吹、春の息吹といった感じに使う。この場合は青春にかけてるとか?」


 ザルドの髪はくすんだ金髪、目は茶色、で別に青要素はない。年は二十六歳。青春と言うには遅過ぎるが、青春時代に付けた、パーティを結成した、ということもあり得る。結成当初のパーティメンバーは青髪が多かった、とかいう単純な理由かもしれない。


「さぁ?先々代が付けた名前だからなぁ。ゴロと覚え易さかもしれん」


「そんなもんなのか。で、話を戻すけど、デューク、護衛依頼がやりたいのか?」


【うん!おじさんたちとしかこうどうしたことないから、ほかのひとはどんなかんじなのかなぁ、とおもって】


「おじさん?」


「育ての親の育ての親って感じ。行商やってるおじさんがグリフォンの卵を拾って育てて、そのグリフォンがデュークの卵を拾って来て育てたんだけど、もう一匹は従魔契約出来なくて、縁があっておれが引き取ったワケ」


【ぼく、うんがいいんだよ~。たまごのころも、へびのまものにたべられるところだったってはなしだし】


「それは運がいいな!店長に会うこと自体、中々難しいだろうに」


「いや、結局、おれに話が流れて来たとは思うけどな。冒険者ギルドは久々だけど、商業ギルドは結構出入りしてるし、どうも何でもあり認識されてるっぽいし」


【そのとおりじゃん!】


「何でも、じゃねぇって。大半の人たちの手先の不器用さは、多少教えた所であんま改善出来てねぇだろ」


【あーたしかにね。そろいもそろって、だったね】


「何の話?」


「エイブル国のパラゴの街の商業ギルドに協力してもらって、物作り教室をちょっとやってみた所、すごく簡単なレベルにしたのに、予想外に参加者たちが仕上げられなかったから。

 …まぁ、さておき、依頼だ依頼。デューク、どれ受けたい?Bランクまでなら受注出来るぞ」


 話がそれて行くので、アルは修正して、掲示板を見やった。


【まちのなまえで、とおいかちかいかわからないんだけど、ひにちがながいほうがとおい?】


「そんな感じ。あまり長期はおれが嫌」


【ぼくもイヤ。三日ぐらいならいい?】


「そんな所だな」


「ソロで受けられる護衛依頼は中々ないから、定員にまだ空きがある護衛依頼を受付で訊いたらどうだ?」


「そっちの方が早いか。ありがとう。そうする」


 …ということで、行列に並んで受付で訊いてみた所、ちょうど昼からフォボスの西にあるマンジャノの街へ行く商人の護衛に空きがあった。

 馬車で二日の距離で片道だ。朝早くに出ても二泊することになるし、午前中は商談があるから、昼出発らしい。


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新作☆「番外編30 誰にも奪えないもの」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330668099530404


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