184 まぁ、強けりゃいっか

 ジバロスが指示して護衛たちの持ち場を決め、アルとデュークは最後尾になった。ジバロスと一緒に。

 先頭はジバロスのパーティメンバーである。


「なんて不自然な配置」


 街を出てから、アルはそう呟いた。

 デュークは少し前を軽く走る。


「いや、ちょっと話したくて。…アルって面倒だからCランクのままでいいや、な口だろ?」


 ジバロスも馬に乗ってアルと並んで歩かせていた。


「試験は面倒だと思うけど。貴族関係ばっかだし。そもそも、ランク上げるメリットがねぇし」


「そうか?ギルドのある街なら優先的に宿取ってくれるし、安くもしてくれるのに」


「自分の好きな所に泊まりたいからメリットねぇって」


「上級ポーションを優先的に回してくれたり、武器や防具の修理や修繕も優先してくれるぞ?」


 どれも自作、修理も改良も出来るアルには無用の長物だった。


「どっちもいらねぇし」


「じゃ、ランクが高ければ高い程、女の子たちにモテるし、チヤホヤもしてくれるってのは?」


「それ、嬉しいの?」


 元の世界では騒がれ、追いかけられまくり、ストーカーも排除しても排除しても、根絶は無理でたびたびストーカーに張り付かれて超迷惑していたアル…シヴァである。


「……枯れてないか、アル」


「彼女いるんで。…ジバロスさん、そんなことを話したかったワケ?」


「いや、底知れないんで、まず人柄を知ろうかと。剣士っていうのも嘘じゃなさそうだが、帯剣してないし、隙がなさ過ぎだし、装備は飾りが少ないだけで高品質過ぎるし、魔法もかなり使えそうだし。

 …って、あれ?マジックアイテムの馬なのか」


「よく分かったな。鑑定されても大丈夫なようにしてあるのに。…【真贋しんがん】スキル持ちか」


 鑑定の上位スキルだ。偽情報に違和感ぐらいは覚えただろうし、本物の馬と行動は一緒でも、どうしても人工ならではの所もあるワケで。

 アルはマナーとしてジバロスの鑑定はしてなかった。

 ちなみに、アルの【鑑定】は成長しまくってアル専用にカスタマイズまでされてるので、真贋のはるか上を行く。


「一目で見抜くとなると、相当レベル高いな。何者?」


「Cランク冒険者」


「グリフォンを従魔にしてるって聞いたことないんだが?」


「従魔にしてまだ二週間ぐらいで、見せて回ってたワケでもねぇしな」


 商人間情報だと出回っていたが。


「そりゃそうだろうが…」


 ジバロスはアルを見つめながら首を傾げる。

 どこかで会ったか、そんなような噂を聞いていなかったか、と考えているのだろう。


「まぁ、強けりゃいっか。万が一の時は助けてくれ」


「それでいいのか、リーダー」


「教えてくれる気、ないクセに」


「はいはい」


 適当に流しておく。


「そういや、デュークって夜目利く?」


 すると、ジバロスは機嫌よく軽く走るデュークにそう訊いた。


【よめ?】


「夜、目が見えるかって訊いてるんだよ。全然大丈夫」


【だいじょうぶ。アルよりみえないけど、ほかのにんげんよりはみえるとおもう】


「そうなのか。じゃ、デュークは夜の見張り当番にしてもいいな」


「おれと一緒ならな。まだ子供なんでデュークは夜はすぐ寝るし、昼寝もする」


【ねる~】


「おいおい、もし襲撃を受けた時、デュークが危ないんじゃないのか?」


【ぜんぜんへーき。アルいるし】


「自分の身を守ることも出来ねぇんなら、依頼にデュークを連れて来ねぇよ。危ないのはむしろ敵。手加減はヘタクソだからな。死んでなければおれが何とかするって、意味でもおれがいるからって返事になるワケだ」


「盗賊なんか別に死んでもよくないか?」


「貧しい村人が盗賊もやってる場合や、背後関係が知りたい場合だってあるだろ。人を殺しておらず、強姦もやってなければ、情状酌量の余地ありだ」


「犯罪奴隷に落した所で逃げてまた盗賊っていうのも多いんだが?」


「二度目はねぇって。おれに捕まると何故か改心する連中も多いしな」


【なぜか、じゃないし~。またあんなこわいおもいをするぐらいなら、なんでもするってなるよ、ふつうは】


「あ、デュークに普通を語られた。箱入りグリフォンなのに!」


【アルといっしょだとなかみがこすぎ、だからね】


「何?そんなに盗賊、捕まえてるのか?」


「デュークが来てからは盗賊は捕まえてねぇよ。酔っぱらいに絡まれたり、ダンジョンのセーフティルームに入ったら、いきなり攻撃して来たバカがいたりしたんで」


【ひどいよね】


「そりゃ酷い。面白半分に殺す壊れた奴か」


「そんな感じだろうな。殺してねぇけど、余罪も出て来て他にも被害者がいたし。そんな場合もあるから、単純に殺せばいいというのも何だろ」


「そうかもしれんが、そんな余罪が出ることも稀だろ。素直に自白もしないだろうし。…ん?それだけやらかしたバカが素直に自白したのか?」


「そう。『魔法封じの枷』を首にかけて、手足を一本ずつ折って両手両足に重たくて頑丈な鉄の枷をかけてやったからな。犯罪奴隷として引き渡されるまでそのまま、となれば、さっさと白状するだろ」


 隷属契約後は悪さは出来ず、魔法も勝手に使えないので、アルは手足の手錠を外すついでに『魔法封じの枷』も返してもらった。

 奴隷商がポーションで手足も治療したが、複雑骨折がそれで治るワケがない。変な風にくっついて動くたび痛みを伴うようになる。


 最初はそれでいいと思っていたが、ちゃんと働けないのでは犯罪奴隷として役立たず過ぎるので、アルは眠らせずそのままグイグイ骨を押して正しい位置に戻して整復し、治してやった。あまりの痛みに失神していたが。

 デュークは置いて行ったので、その辺りは知らない。


「…下手な拷問より効きそうだな。しっかし、アルに絡む奴がいるのか。本能がなさ過ぎる」


 酔っぱらいは五歳のちび姫に、だが、間接的にアルが絡まれたのと同じか。アルがちび姫の連れなのは相手も認識していたのだから。


「そこまで言うか」


 まぁ、アルとしても否定は出来ないのだが、血の気が多くないし、寛容なのに。

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