185 作れる、なのか

 それから、あれこれ雑談しつつ、まったりと馬車と馬を進め、休憩・野営用にひらいてある広場で一度目の休憩になった。


 まず、桶に水を注ぎ、それぞれの馬に水をやる。

 大半はその辺の石に座ったり馬車の荷台でお茶にしたが、ジバロスたちはマジックバッグからテーブルと椅子を出して座った。


 アルは二人掛けソファーとコーヒーテーブルのセットを出す。

 マジックハンドを使うようになったので、デュークもソファーに座った方が飲み食いし易いのだ。


【ぼく、かじつすいがいい~。すっぱあまいの】


「ミックスの果実水な。はいはい」


 瓶に入れて作り置きしてあるので、アルはデュークの木のマグカップに注ぎ、マジックハンドに渡した。

 デュークのアイテムボックスもどき収納首輪は使用しないので、新しく作ったデュークの用品もアルが持っていた。

 万が一のため、今まで使っていた物はそのままデュークの収納の中である。


【これこれ、ありがと~】


 アルはいつものハーブティにし、ティーポットに茶葉を入れてお湯を注ぎ、と普通に作った。

 例の使耐熱ガラスマグカップである。

 お茶菓子はクッキー各種で皿に盛ると、デュークは遠慮なく【いただきまーす】と摘んで行く。甘い果実水に甘いクッキー、合うのだろうか?と思うが、お子様だとそんな感じか。

 皿に甘じょっぱいしょうゆせんべいも添える。米粉だけじゃなく、デンプン粉も入ってるのでまぁまぁ軽い食感だ。


「デューク、何でも食べるの?」


 Dランク冒険者パーティの三人のうち一人、二十歳ぐらいの女がわざわざ立ち上がって、何を食べてるのか見てからそう訊いて来た。


【たべるよ~。とりにくもすき】


「とりにく…」


「グリフォン自体、ダンジョン以外では滅多に見ねぇから、共食いにはならねぇしな。習性はどっちかというと猫な感じ。ゴロゴロしてるし、狭い所も好きだし」


【にゃーん】


 ノリがいいデュークの鳥頭の喉をアルは笑いながら撫でてやる。


「お肉は生で食べるの?」


【やいたりにたりしてたべる~。もうでたべられないよ。りょうりしたほうがおいしいもん】


「そうなんだ…。ええっと、アルさんでしたっけ?」


「ああ」


「貴族の方ですか?」


「何で?平民だけど」


【…え、へいみんなの?】


「何でデュークが驚くんだよ」


【ぼくがしってるへいみんとはちがいすぎるから】


「爵位を持ってなくて様々なのが平民だろ」


「そうですけど、何か高そうなソファーと机ですし」


「それだけで?稼いでる冒険者ってのは結構贅沢してるって。ジバロスさんたちだって結構いい家具だろ」


「…あ、確かに」


【ほかになんかようじだった?】


「あ、そうだった。食事は保存食の配給がありますが、各自で食べてもいいので、お昼、アルさんもデュークも一緒にどうかと思いまして。これでも料理作れますし」


 作れる、なのか。


「いや、遠慮しとく。こっちも用意してるし」


【アルはりょうりじょうずだからね。きもちだけもらっとくよ。ありがとう】


 デュークも「料理上手」とは言わない辺りにひっかかったらしいが、無難に断った。この辺りは行商やってるおじさん譲りだ。


「あ、うん。じゃ、また何かあれば」


 ちらっと皿の上のクッキーを見てから、女は仲間の元へ戻って行った。


『あのひと、クッキーほしかったの?』


 デュークはスピーカーを切って念話だけで話しかけて来た。


『だろうな。普通に言えば分けてやるのに、回りくどいというか』


 アルも念話で返した。


『あ、ぼくね。もたのまれてるからね!アカネさんに』


『…欲目が過ぎねぇか』


『アルのがいけんでも、うごきがかっこいーし』


『動き、ねぇ』


 立ち居振る舞いのことだろうが、自分ではよく分からない。


「よ!アル、何食ってるんだ?クッキーと…何?」


 ジバロスも何を食べてるのか気になったらしく、近寄って来て率直に訊いた。


「せんべい。米粉とデンプン粉を練って焼いたもの。甘じょっぱい。食う?」


 アルがせんべいを一枚取って見せると、


「是非」


とジバロスは受け取って躊躇なく食べた。パリッといい音がする。


【せんべいもおいしいよねぇ】


 スピーカーをオンにして、再び皆に聞こえるようデュークがしゃべる。


「ホント美味い。クセになるなぁ、この食感も味も。どこで買った?」


「自作。売る程ねぇぞ」


「それは残念。クッキーももらっていいか?」


「はいはい、どうぞ」


【ぼくのぶんはのこしてね】


「あ、ごめんごめん。そうだよな。アルは料理もかなり出来るのか?」


「何で出来るかどうかなのやら。まぁ、料理上手だったら冒険者やってねぇとか言われてるけどさ」


【アル、りょうりじょうずだよ!おしえてもらってるから、ぼくもちょっとつくれる】


「ぐ、グリフォンに負けてるのか、おれたち…」


「デュークは特に器用で賢くて素直だからな。大半の人間の方が敵わねぇって」


【えっへん!】


「ジバロス、おれらにも回せよ~」


 無事、クッキーをゲットしたと確認したらしき、ジバロスのパーティメンバーがそう声をかけて来た。


「そこまで数がないって~」


 それは本当だ。アルも追加では出さない。他の人たちにもねだられるだけだろうから。

 少々話し過ぎたのでジバロスにはおそらく素性がバレてるので、口止め料だ。料理が出来るか訊いて来たのは、カマかけだろう。


「クッキーは買ったやつ?」


「自作」


「…店やれ、店。通うから」


 ジバロスは甘党らしい。…いや、冒険者の大半は甘党か。


「自分で作ったら?レシピ通りに作れば、それなりのもんは出来るぞ。この中にデュークが作ったのもあるし」


【えっへん!でも、プロはもっとすごいんだよね。おなじざいりょうでおなじどうぐつかってても、あじがぜんぜんちがう】


「愛情の差」


【はいはい】


「…アルの彼女、菓子職人?」


「いや、趣味。でも、頼まれて菓子を売ったことは何度もあるんで、プロを名乗ってもいいかと」


 元の世界の話だが。

 素材が違うし、レベルが上がったおかげもあってか、より繊細で美味しい菓子を作ってくれている。たまに、で、量も限られてるので、すぐ自作ばかりになるワケだ。


「っつーか、マジックバッグを持ってるんだから茶菓子ぐらい持ち歩けって」


「すぐ食っちまうんだよ…。あいつらも甘党でさ…」


「焼き菓子なら日持ちもするんだから、大量に買っとけばいいだろ」


「買い占めお断りだぞ。大半の店は」


「それもそうか。じゃ、焼き菓子ドロップが出るダンジョンで狩りまくったら?ザイル国クラヴィスダンジョンだ」


「…そんなに遠くなのか…噂は聞いたことあったが…」


【じぶんでつくったほうがはやくない?】


「だよなぁ。依頼出して『菓子作りを教えてくれる人』で募集かければいいんだよ。もしくは菓子職人と交渉する。それか、材料入れたら菓子を作ってくれる魔道具を作らせる」


「…え、そんな魔道具作れるのか?」


「魔道具職人に訊いてみたら?」


 アルは作れるが、魔道具職人のレベルをよく知らない。


「考えとく」


 礼を言ってジバロスは自分のパーティメンバーの所へ戻った。

 結局、立ったままだったが、ずっと馬だったので少し歩きたいのもあったのかもしれない。


【なんでもつくるの、たのしいのにね】


「壊滅的に不器用な人間ってのは、意外に多いんだよ。…あ、もう一つ思い付いた。爵位もらって専属菓子職人がいる貴族に婿入りするのもいいかも」


【せんぞくなんているんだ?すごいね、きぞくって】


「しょっちゅうお茶会やってるそうだしな」


【きぞくのおちゃかいってどんなの?】


「お茶とお茶菓子用意して、眺めのいい庭とかテラスや四阿あずまやで、親交を深めたり、情報交換したりするそう。だいたい昼間だから、大半は女性の社交場だってさ。男も招かれることがあるけど」


【アル、いったことあるの?】


「ない。けど、子爵家の夕食には招待されたことがあってさ。依頼の関係で。専属の菓子職人がいたぞ」


【おいしかった?】


「まぁまぁ。急なことだったしな。夕食はちょっとしたコースで、食ったことのない料理もあった。デュークはまだコース料理を食ったことがねぇか」


【うん。なに?コースって】


「順番に料理が出て来るんだよ。店にもよるけど、前菜、スープ、パン、メイン、デザート、食後のお茶って感じ。今度、連れて行ってやろう」


【たかそうなのにいいの?たのしみ~】


「都合を合わせて予約しとこう」


 デュークと一緒ならアルだが、個室ならこそっとアカネも合流してしまえばいい。

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