186 鍋のシメはラーメン!

 そして、休憩後、再び順調に移動し、昼食もやはり、休憩・野営用にひらいてある広場になった。

 ここは井戸もあり、ちょっとしたかまども石で作ってあった。

 使用頻度が高いらしく、先客に六人組の冒険者パーティもいた。

 依頼で採取なのか、違う街での依頼で移動中なのか、拠点を移すのか、単なる帰省、と色々と考えられる。

 まぁ、関わって来なければ何でもいい。


 まず、馬に水と飼い葉をやる。

 竈は商人たちが使うので、アルは邪魔にならなさそうな隅で作業台を出し、魔石コンロと土鍋でご飯を炊き、やはり、土鍋で昆布出汁ベースの和風スープで白菜豚鍋を作る。白菜がメインなだけで、野菜は色々入れる。


 火の通り難い根菜はあまり使ってないので、ご飯が炊けるのとほぼ同時に鍋も出来上がった。野菜を切るのはデュークも手伝っている。

 作業台だと少し高さが高いので、四人掛け食卓を出して使った。

 座面がちょっと大きめの椅子なので、デュークも普通に座れるし、高さも大丈夫だった。椅子は二脚だけである。


【おいしーっ!そと、ちょっとさむいから、あたたかいのがやっぱりいいね!】


「だよなぁ。簡単で美味しく」


 もう食べてるのはアルたちだけだし、食卓を出したことで更に浮いてることは気にしない。そもそも、デュークがかなり目立つのだ。今更も今更だ。

 魔石コンロは火力が高いが、かまどは火を安定させるだけでも少々時間がかかるし、コツもいる。


 商人たちはスープぐらいは作ろうと思ってるようだが、料理には慣れていないらしく手際も悪いので、更に時間がかかることだろう。

 他の面々も適当に竈を作ったり、魔石コンロを使ったりして、温かい料理、というかお湯を沸かしているので、持参したパンと保存食を溶かして飲む程度なのかもしれない。


 …あ、いや、サンドイッチのお弁当を作ってもらっている人たちもいた。

 旅慣れてるらしいジバロスたちである。

 それでも温かい飲み物と一緒に、と思うらしく、テーブルに用意しただけでまだ食べてないが。


【しるかけごはんだけで、ばくばくいけちゃうね!】


 出汁もかなり気に入ったらしい。こだわりの岩塩だ。


「食い過ぎるなよ。腹壊すから」


【はーい】


「それに、シメもあるから調整しとけよ。雑炊かラーメンかどっちにする?」


【ラーメン!】


「はいはい」


 どんどん具が減るので、どんどん肉も野菜も追加した。…といっても、デュークがお腹を壊さない程度で。

 そして、シメ。蒸してある中華麺だが、くっつかないよう油がまぶしてあるので、軽く湯通ししてから鍋に入れることになる。

 スープの味調整をしてから、お椀に盛り付けて刻みネギを散らして完成だ。


「おいおい、何食ってるんだ?」


「…って、まさか、ラーメンっ?」


 商人たちが気になったらしく、近くまで来て、大げさに驚いていた。


「何?まさかって。結構、出回ってるけど」


 本当である。レシピ小冊子も販売してるので。


「え、どこで?」


「色んな所で。…あ、エイブル国で、だな。レシピ小冊子が販売されたんで、中華麺は結構どこでも作ってるし、色んな料理も出始めてるぞ。手軽だから焼きそばが多い」


「ちょっと前までエイブル国にいたってことか?」


「まぁな。製麺機があったら更に簡単だから自作した麺だけど」


「そうなのか。レシピ小冊子の噂は聞いたけど、持ってる?」


「あるぞ」


 正に売る程に。

 はい、とアルは「醤油ラーメンの作り方」小冊子を渡してやった。A7サイズのミニ本である。


「思ったより小さいが、色付きなのか…」


「何だこれ。ダシの難易度が高過ぎるだろ…」


「そのレシピ本、欲しいなら売るぞ。銀貨1枚」


【アル、てすうりょう、はいってないよ!】


「キレイに使ってるけど、中古だし。あそこは余計な手数料付けると呪いをかけられるんだぞ」


【え、そうなの?】


「おうよ。暴利な手数料付けて転売してた連中は、全員呪われたって話」


【へーそうなんだ】


 ずるるる…と麺をすすりながらでも、デュークは返事が出来る。念話なので。


「棒読み過ぎる。ま、信じられねぇ話だろうけどな。で、買う?」


「ああ、じゃ、何か悪い気がするが、銀貨1枚で本当にいいのか?」


「おう」


 アルは銀貨1枚もらい、引き続きラーメンを食べる。

 デュークと一緒にラーメンをすする。

 デュークは麺をすするのが大分上手くなった。

 鍋のシメのラーメンは、色んな具材のエキスがみ出ているので格別だった。


「…なぁ…」


 まだ商人たちはいた。生唾を飲み込みつつ。


「人に分けられる程、余分に持って来てねぇんで」


【アル、よくたべるしね~】


「不測の事態という場合もあるしな。マジックバッグの調子が悪くて出て来ない物がある、とか、突然、全部出て来て食材が潰れてダメになったとか」


「え、そんな不具合があるのか?」


「文献で読んだことがあるから、マジックバッグに頼り過ぎねぇことも基本だな」


 アルは空間収納も影収納もあるが、基本姿勢はそうだ。


「それはともかく、スープの一口ぐらいはよくないか?」


「よくねぇな。残ったスープの使いみちも色々あるんだよ」


「でも、こんなに残ってても腐ってしまうだけじゃないか?」


「いや、粉末にしとくから全然平気。無駄なく美味しく最後まで頂くのが信条なんで」


【え、ぼく、まだたべるよ~】


 スープを今すぐ粉末にされては、と焦ってデュークが口を挟む。


「わかってるって」


 分けない口実ではなく、本当に無駄なく使っているのだ。

 成分別に分けてうま味調味料としても使えるワケで。

 まぁ、中々残らないので調味料として使う分は新しく作っているが。

 どう言っても分けないのは分かったらしく、商人たちは渋々引き下がった。


「依頼主に対してちょっと冷たいんじゃないか」


 …などとゴネたら、首が締まるのは商人たちである。

 悪評判が立ったら、冒険者たちが護衛を受けてくれなくなるし、冒険者ギルドでも依頼を断られるので。

 そもそも、腕力では全然負ける商人たちで、護衛たちは冒険者。

 口裏合わされて事故として処理されていた事件なんてものも、割とたくさんあるワケだ。

 色んな書物を漁り、ダンジョンコアたちの情報まで網羅しているアルしか、詳しい所は知らないが。


【ほらほら、め、つけられちゃった】


「デュークと一緒な時点で、それは確定だしな。護衛やるのを知った瞬間、グリフォン素材がどうたら言い出さねぇだけ、商人としては理性的な方だろうし。子供グリフォンの抜けた羽の価値って、ちょっと珍しいというだけで、飾る程度しか使いみちねぇしな」


【え、そうなの?ファルコのぬけたはねは、かなりのがくでうれてたけど】


「違いは魔力。羽や爪に魔力を溜め込む性質があるから、マジックアイテムや魔道具作るのにかなりお役立ち素材なんだよ。一般的にはな。おれは超レア素材まで持ってるから、なくても別にいいかな」


【そういわれるのもなんかふくざつ~】


「あ、でも、デュークの抜けた羽なら相性は抜群だから、デューク専用アイテム開発には使えると思うぞ」


【これいじょう、なんの?】


「投げナイフみたいに投げ羽とか。真っ直ぐだけじゃなく、自由に動かせると思う」


【こうげきりょく、なさそうなんだけど~】


「毒吸わせれば?…一気に危ねぇ武器に。何に使うかってのも問題」


【でしょ~?】


「じゃ、一時的にゴーレム作って操作出来る、とかだとお役立ち。…魔力が全然足りねぇなぁ」


 少なくとも魔石がなければ無理そうだ。

 そんな与太よた話をしながら、しっかり平らげて、残ったスープはちゃんと粉末にしてから片付けた。

 残ったご飯はおにぎりにして、収納しておく。時間停止なので温かいままだが、さり気なく出すか違う機会に食べればいい。

 食後のお茶は緑茶にした。


 その辺りで、ようやく全員が食事を食べ始めていたが、貧相な内容ばかりで、アルたちが尚更目立ってしまったのも仕方なかった。

 昼食を誘って来たDランク女は弓使いで、後の二人は槍使いと剣士。

 槍使いの方が女の弟で剣士は弟の友達、というか幼馴染な感じだ。よくあるパターンである。

 その弓使い女が作った昼食は、何やら色々ごった煮で、切り方も雑なため、本当に「料理が出来るだけ」で味はさておき、な感じだった。


 これでよく誘えるな、と少々呆れたアルだが、料理が作れない冒険者たちが多いため、この程度でも鼻高々なレベルなのかもしれない。

 うわぁ、という顔で見たデュークは、鷹顔なのに感情豊かだった。


 時間がかなりあるので、馬のブラッシングや手入れをすることにする。人工騎馬に必要ないのだが、何となく喜んでる感じなのだ。

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