122 いつの間にそんな物騒なものを

『お、本当にホワイトタイガーだな。疑ってはいなかったが、こんな時に見付かるとは思わなかった』


『わしもじゃ。慌ただしい時は、更に慌ただしいことが起こるものにしても』


 イディオスとカーマインのお墨付きも頂いてから、シヴァはヴェスカを目覚めさせた。

 もちろん、油断なんてしない。


『ここは…?フェニックス!フェンリルまで!あの人間が友達だと言うのは本当だったのか』


『信用されとらんの』


「あの人間呼ばわりかよ。ちゃんと名乗った上、治療までしてやって、お仲間のもとにまで運んでやったのに。シツケを入れる必要があるようだな?」


 悪びれない4mはあるでかい白虎の頭を、シヴァはガッチリ掴んで力を入れてやった。


『いたっ!痛いっ!やめてくれ…』


『礼も言えんのだからシツケを入れられても当然だ。シヴァが本気ならとうにぐっちゃぐちゃだぞ。単なる握力だけでな』


『ほらほら、謝れ。たかが人間などと思っておると、復活も出来んよう封じられるぞ。カルメ国はおぬしがいなくても別に支障がないようだしの。…アカネ、いつの間にそんな物騒なものを!』


 アカネは音もなくライフルを構えていた。狙いはしっかりとヴェスカの目。弾丸は一番威力の高いダムダム弾だろう。一撃必殺の構えである。

 本当に発砲すれば、ヴェスカの頭を掴んでいるシヴァの被害もまぬがれないのだが、普通によけるか転移すると思ってるのだろう。

 まぁ、その通りなものの、シヴァ旦那には何やってもいいと思ってる辺り……うん、ちゃんと愛されてる!


「おれより血の気が多いのが奥様なんで」


「曲がりなりとも神獣でしょ?こんな人間が作った武器ごときでどうにもならないだろうし?」


「多分、神獣にも効果あるけどな。物理、魔法、異世界技術を合わせた特殊弾だし、水竜を撃ち落としたの、その弾だし」


 下位水竜の内蔵を撒き散らした程、威力があり過ぎたので、アカネは二匹目からは攻撃方法を変えて首をねたワケだ。


『わ、悪かった!謝るから手を離して…痛いって!』


「口の利き方がなってねぇぞ…お?何かテイム出来るみてぇだな。スゲェいらねぇ。一号の方がよっぽど可愛い」


「うっかり比べちゃったのを、いい子の一号に謝らないとね」


 アカネが影拘束を使い、ヴェスカの四肢を拘束し、締め上げた。


「ホントそれ。貴重な時間なのに」


『…おいおい、テイム出来るって、神獣のクセに格下認定されたってことだぞ。スキルに』


 イディオスも呆れていた。


『一番長寿のわしでも初めて見た事態じゃの。それだけシヴァが神に近く不確定要素ということか。…あ、た。弱いのぉ』


 シヴァが手を離し、アカネが影拘束を解くと、カーマインがヴェスカの頭を蹴った。それでヴェスカは気が付いたので、何か魔法を使ったらしい。


『上下関係はよーく分かっただろう?二ヶ月以上も探しておったのに、こんなんでは見なかったことにして封じたくもなる。神獣としては子供と言える年でも、記憶を受け継いどるハズだし、人間ならば五倍ぐらいは生きとる長さだからの。

 お主が何も考えず、水竜たちを追い払ったせいで、人間にもかなりの死者が出て、動物も植物も大層な被害。収穫するばかりだった作物の半分以上がイカレてしまい、国家存亡の危機だと苦労して復興しておる所じゃ。これ程バランスを崩してしまったきっかけを神獣が作ったのは、本末転倒ではないかの?』


 おお、神獣らしい。こうでなくては、だ。

 シヴァ同様、アカネもそう思ったようで、うんうん、と頷いている。


『申し訳なく思う。そちらのにん…貴殿方にも恩を仇で返すような態度で申し訳なかった。…申し訳ありませんでした!助けてくれて有難うございます!』


 アカネの冷たい微笑みにビビって言い直す辺り、本当に神獣なのだろうか?

 …いや、怖いことは怖いのだが、神の使いの獣だろう?先程まで存分に見下していたのに、と。


『お前の尻拭いをしているのがシヴァたちと我ら、それにたくさんの人間たちだ。国王、王族自ら一番被害が酷かったこの地域に駆け付け、他国にも救援を願って何とかしようと努力している。どう責任を取るつもりだ?何故か力も削がれてるようだし』


 イディオスがキッチリと現実を突き付ける。

 こんなのと一緒くたに神獣扱いして欲しくない!とばかりに冷たい態度で。迫力満点だ。

 普段は寛容なだけに少し意外に感じるが、確かに神獣として論外だろう。後先を考えていない、というのは。


『力は飛ばされた変な空間に迷い込み、そこを出る時に使いました。ロクに力が残っていなかったため、水竜たちに襲いかかられた時も撃退するのがせいぜいで…こんなことになるとは思いませんでした。後を追う力も残ってなくて…』


「そりゃおかしい。下位水竜三匹、アカネは瞬殺したんだぞ?ドラゴンスレイヤーの称号持ちで攻撃力防御力が10%上がるにしても、土砂降りの中の空中戦で、あんたの一割もステータスねぇのに。他のドラゴンを刺激したくなくて殺さなかっただけじゃねぇの?」


『…すみませんでした』


 図星か。


「最初から逃げるか隠れるかすりゃいいだけじゃねぇかよ。おれの探知魔法ではひっかからなかった程の隠蔽をかけて、結界も張ってたのに」


「って、シヴァ、それでどうやって見付けたの?」


「カン」


『そんなもんだよな。優れた戦士はカンも運もいい』


『思い上がった若造によくあることじゃの。喧嘩を売られたら後先考えず取りあえず買い、マズイことに気付いたら逃げる。誰に迷惑かけようともな。

 しかし、神獣がそれではいかん。ただの獣ではなく、重要な使命を与えられた神の遣いの獣だからこそ、力を与えられておるし、中々死なんのじゃ。身体を張って止めるぐらいはして見せんと』


『死んでも復活するフェニックスだからこそ、気軽にそう言うが、まぁ、神獣としての矜持は必要だと我も思うぞ』


 カーマインの言葉にツッコミを入れながらも、イディオスも同意する。


「ごもっとも。そうだよね」


 うんうん、とアカネは大きく頷く。

 ヴェスカを神獣だと認めたくないらしい。



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新作✩「番外編26 文字は縁(えにし)を結ぶもの?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666433475345


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