121 結界をぶち壊して引きずり出した
食後、シヴァ(本体)は予定通り、カウラナ王国の【ドラゴンの巣】へ向かった。
サファリス国の端、レイスが転移ポイントを置いてくれた所までは転移で、後は騎竜に乗って隠蔽をかけ、サクッとカウラナ王国に入国。
ドラゴンの巣に目印なんてないが、【冒険の書】にしっかり場所が載っていたので迷うこともない。
しみじみと反則な【冒険の書】だ。
情報として知ってはいたが、実際に見ると驚く程、本当に
結界を張ってなければ、ステータスが高く、あまり寒暖の影響を受けないシヴァでも、すぐにダウンコートを着ていた。気温は氷点下だった。
寒い繋がりでホワイトタイガーは飛ばされたのだろうか?とシヴァはちょっと思ってしまう。
人工騎獣の風竜は本当に速いので、程なくドラゴンの巣に到着。
真っ昼間でも寒いからか、いつものことなのか、活発に動くドラゴンはいない。まったり、な感じだ。
しかし、木々が倒れている所が結構あり、生木の状態からしても、つい最近争った跡だ。大型同士が上空で争った感じで、凍り付いている所もあるから、氷魔法か水魔法が低気温で凍ったのだろう。風魔法で切り裂いた形跡もあるが、使えるドラゴンも多い。
探知魔法で探るが、ホワイトタイガーの神気は感じない。いるのなら、こんなにドラゴンの巣に近い所ではなく、もっと遠くだろうか?
ひょっとして街の方か?
棲み分けしているだけに、ドラゴンは街には近寄らないと聞く。
…というか、ドラゴンからしたら人間などかなり小さいので、虫けらなんかどうでもいいのだ。山の方にはもっと食いガイがある大型魔物はいくらでもいるので。
ん?
探知魔法にはひっかからないが、シヴァは少し気になって街の側の河原に降りて、騎竜をしまう。
違和感を感じた所を見ると、大きな岩の側に【結界。隠蔽がかかっている】と鑑定様が教えてくれた。
触れてみると確かに神気!
さすが、アカネ。大当たりだ!
『いきなりですまん。初めまして。SSランク冒険者のシヴァだ。神獣のホワイトタイガー殿だろう?カルメ国からいなくなったから探していた。我が友、フェンリルの神獣のイディオスとフェニックスの神獣のカーマインにも頼まれて。気付いたのは二ヶ月前だが、それ以上前に転移トラップのような次元の
シヴァは念話で丁寧に話しかけた。
『ほ、本当か?確かに、我はホワイトタイガーだが、飛ばされた時期は数日前だし、こんなよく分からん所まで捜索に来るとはちょっと信じられんが…』
『何ならカーマインにここに来てもらうぞ。ここまで探しに来た経緯は、ここから追い出された下位水竜三匹のせいで、ここカウラナ王国の南隣のサファリス国が大雨被害に遭ってな。縄張り争いで流れて来ることは前にもあったそうだから気にしてなかったが、運がいい我が妻の
『いや、まだだ。…そうか、時間の流れが違ったのかもしれんな。水竜については申し訳ないことをした。襲いかかって来たからつい追い払い……南の方にも国があったのか。山ばかりだから大丈夫かとてっきり…ここはどこだ?』
『カウラナ王国の南部だ。カルメ国からすると南東の国。面積は大きい国だが、大半が山ばかりで人は少ない。サファリス国はここから南隣。…怪我しているようだから治療するぞ?』
結界越しだから神気が弱い、というワケではなさそうだ。
怪我して一週間ぐらい経ってるだろうから、当初よりはマシになったようだが。
『本当に信用してもいいのだろうか?貴殿は人間だろう?』
『嫌な目に遭ったことがあるようだな。確かにおれは人間だが、言った通り、神獣と友達だ。サファリス国の復興がまだまだ大変なんだから手間をかけさせるな。これ以上グズるようなら結界をぶっ壊して眠らせて連れて行くぞ。魔力節約中だから穏便に運ぶつもりだったのに』
『…………え?そんなこと、人間に可能なのか?』
念話だと人間を下に見ていると、あからさまに伝わって来る。
イラッと来たシヴァは有言実行し、ホワイトタイガーの結界をぶち壊して引きずり出し、眠らせてから切られていた腹と前足の治療をし、影収納に入れてから転移した。
下位水竜三匹と戦って怪我を負う神獣か。
何らかの理由で魔力を消耗していたのだろうか。次元の
まぁ、考えるのは後回しにして、アカネの側に転移したシヴァは報告する。
アカネは街の外の街道の土砂崩れを、みんなと一緒に押しのけていた。アカネには剛力になる【ドラゴングローブ】があるので、大きい岩担当である。
「いたぞ、ホワイトタイガー。丁寧に説明したのに、グダグダ言うから結界から引きずり出して眠らせて影収納に入れて来た」
シヴァも土魔法で手伝い、崩れた崖側の補強をした。
「…え?そんなに弱いの?神獣なのに?」
神獣は人間とは隔絶した強さだと思っていたのだろう。イディオスやカーマインと親しくしているからこそ。
「何か弱ってた。ちゃんと治療はしたし、ステータスも確認してある。ホワイトタイガーの神獣・ヴェスカ。355歳。神獣としてはまだ若いんだろ。本調子だったとしても、ステータスを見ると戦闘力はさほどない。イディオスたちが言ってたのは先代の話だろうな。イディオスとカーマインの名前を出しても反応が薄かったし、ああ、そんなような名前だったかも?な感じだった」
ぐいっとシヴァは土魔法で土砂をよけてやると、後はよろしく、とアカネを連れてカーマインがいる場所へ影転移した。
カーマインはデルティーンの街の畑にいた。
【大地の杖】を持った分身『ロー』と協力して浄化している。イディオスは川の方か。通信バングルで連絡して来てもらおう。
その間にテーブルセットを出して、ハーブティとクッキーで少々休憩だ。カーマインと分身『ロー』も。
「そういや、テレスト信じた?」
「信じてたよ。何でもあり認識があるにしても笑っちゃった。ホムンクルスの方が難易度が高いんじゃないかなぁ」
「現代知識があるとそう思うんだけど、実際、研究してる連中はいくらでもいるからな。信憑性が高いのかも。にゃーこたちだって人工生命体っていうくくりなら、まんまだしな」
「そう考えるとそうかも」
「能力はおれたちに適わねぇけどな!」
何だか誇らしげに言う『ロー』。
「元がおれだしな」
「マジで優秀だよね~」
『本体は休んでたらどうだ。人手も増えたことだし』
「ホワイトタイガーを何とかしたらな。カーマインたちが知ってるのはヴェスカじゃねぇんだろ?」
『ああ。代替わりしとるのか、いつの間にか。先代はナミルという名じゃった』
「ヴェスカ、355歳だけどな」
「神獣様の時間感覚はすごいよね」
『いやいや、百年ぐらい前には会っとるからの。あの時は神の
「長距離転移が神の御業?」
「ゼロも出来るけど?」
「神クラスの転移レベルってこと?」
『もう近いのかもな』
すると、シヴァたちが思っているより、神と呼ばれる存在は人間寄りなのかもしれない。
『ロー』は適当な所で切り上げて仕事に行き、程なく、イディオスが来た。
イディオスにもハーブティとクッキーを出し、休憩させつつ、経緯を話してから、ようやく、ホワイトタイガーのヴェスカを影収納から出すことにした。
『お、本当にホワイトタイガーだな。疑ってはいなかったが、こんな時に見付かるとは思わなかった』
『わしもじゃ。慌ただしい時は、更に慌ただしいことが起こるものにしても』
イディオスとカーマインのお墨付きも頂いてから、シヴァはヴェスカを目覚めさせた。
もちろん、油断なんてしない。
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新作✩「番外編26 文字は縁(えにし)を結ぶもの?」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666433475345
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