120 恥ずかしがり屋の妻で

 そこに、パン配りの旅を終えてカーマインとアカネが戻って来た。


「ふぇ、フェニックス!」


『おう。新顔かの?神獣のカーマインだ。遠い所からご苦労さん』


 アカネだけ乗せる時のサイズは3mぐらいのカーマインだが、見間違えようがなくフェニックスだ。

 アカネが降りると、カーマインはカラスサイズに小さくなる。


「よぉ、カーマイン。もう来てたのか」


 アル(分身)がそう声をかけると、


『ああ。久方ぶりよの。アル』


とカーマインも話を合わせてくれる。


「し、知り合いなんですか?」


 結構、肝が太いハイネがそう訊いた。


『友達じゃ』


「と、友達ですか…」


「かき氷の自動販売魔道具、カーマイン専用にカスタマイズしてプレゼントしたぐらいの仲良し」


『おお、美味しく頂いとるぞ。色々載せて食うのも美味くてなぁ』


 本当に楽しんでいるワケだ。

 常夏の国のブルクシード王国はフルーツもたくさんあった。


「…神獣様とどうやって知り合って友達になれるんだ…」


 ハイネがそうツッコミを入れる。


「その辺で知り合って意気投合」


『まんま、じゃの』


 嘘じゃない。簡単に言ってるだけで。

 シヴァは内心笑いながらも、アカネとカーマインの昼食を持って来てあげた。


「ありがとう」


『おう、わしもいいかの?食わんでも大丈夫なんだが』


「遠慮なく食えばいい。功労者なんだから。食料もたっぷりあるしな」


 シヴァがそう促した。


『じゃ、有り難く』


「シヴァ殿も神獣様とお知り合いか?」


 ビューベルトが不思議に思ったらしく、そう質問した。


「友達」


『友達じゃ。イディオスとシヴァ、イディオスとアルが友達で、イディオスとわしも友達。その繋がりじゃの。アカネとも友達じゃ』


「イディオスはフェンリルの神獣だ。あちらで子供たちに乗られまくってるが」


 名前で言ってもエイブル国組には分からないだろう、とシヴァが補足した。

 シヴァが配膳したので大型犬サイズのイディオスは、子供たちと一緒にちゃんとご飯を食べているが、早く食べ終わった子供たちが乗ってるワケで。


「…すごい光景だな…」


「シヴァ殿、止めなくていいのだろうか?」


「ああ。あの程度で不敬とかねぇし、寛容な神獣様だから子供は本能で分かってるんだろ。もこもこふわっふわだしな」


「そういや、アカネさん、ちょっと振り。Cランク冒険者になったそうで。おめでとう」


 そこで、アル(分身)が話を振った。

 知り合いなのは隠す必要がないので、早いうちにバラせ、とシヴァ本体が念話で指示してあったのである。


「ありがとう。…ああ、アルとは短期の護衛依頼で一緒になったことがあったの。もう二人の冒険者も一緒に四人でね。…改めて初めまして。シヴァの妻です」


 誰?神獣とも親しそうだけど?というエイブル国救援隊の視線に、アカネはにこやかにそう答えた。


「これは、ご丁寧に」


「アカネさん、若く見えるだけで二十四歳だから、失礼のないよう。怒らすと怖い姉ちゃんだからな。絡んで来た大バカども六人の手足をバキバキに折って警備隊に突き出したそうだし。旦那も一緒にいたのに、一切手出しせずって話。っつーか、シヴァ、奥さん、守ってやるもんじゃねぇの?」


「どこにそんな必要が?水竜三匹討伐したの、アカネだぞ」


「…マジで?」


「って、ちょっと!あっさり教えないでよ!」


「恥ずかしがり屋の妻で」


「違うと思う」


『あははははは!』


 茶番を大いに楽しんでくれたらしく、カーマインは大笑いだった。イディオスもだ。

 同じく事情を知っているテレストは笑う気になれないらしく、しらーっと無我の境地なのか食事していた。ノリが悪い。324歳だからか。

 …いや、それを言えば、神獣たちの方が遥かに年上なのだが。


「で、ついでに紹介しとくと、こっちがSランク冒険者のテレスト。魔法使いだ。シヴァもアカネさんも面識があるそうだな?」


 アル(分身)がテレストを紹介した。


「ああ」


「ちょっとね」


「Sランク…それはとても心強いです!」


「ドラゴニュートの…三人いるSランク冒険者のうちの一人ですか!」


「もう三人じゃないわよ。シヴァ殿がSSランクに上がったから。もう一人はエルフの弓師ね。最近、全然見かけないけど。何か憧れとかあったら壊してごめんね。オネエで」


「あ…いえ…」


『オネエって何だ?』


 世俗のことには詳しくないカーマインが聞き返した。


「男なのに口調が女っぽい。人によっては女装してたり、仕草もなよっとしてたり、同性の方が趣味だったりするけど、テレストは口調だけだな。目が爬虫類の目だから怖がられて、柔らかい口調を心がけていたらこうなったらしい」


 アル(分身)がしっかりと説明する。


『怖い?別に普通だと思うが、わしの感性とは違うか』


「あんま変わらねぇって。本人が気にしてるより周囲は気にしてねぇってのはよくあることだしな」


「そう言うのが300年も生きてるアタシじゃないって辺りが何よね」


『ほう、人間の割には長生きだの。ならば、こういった災害の時にも役立つ知識も豊富と?テレスト殿』


「呼び捨てでいいわ。神獣様。でも、アタシなんかよりシヴァ殿やアル殿の方が余程博学だし、最新技術にも詳しいわよ。アタシの持つ情報は時代遅れね。魔法や溜め込んでるマジックアイテムの方が役立ちそうよ。マジックテントもいくつか持ってるわ」


「もうテントという段階じゃないが、まだまだ国内からも救助隊が集まって来る予定だから、その時は役立つだろう」


 避難所天幕から仮設住宅への移動も始まっている。


「ええ。寒くなる前までが勝負ね」


「間に合わせるために人手を募ってるワケだ。神獣の助力もいつまでもアテには出来んし」


『お役目があるのでな。ブルクシード王国でスタンピードが起こったのはつい一ヶ月前のことでの。まだまだ注意が必要なのじゃ。何かあればすぐ連絡が来るようにはしてあるが、すぐさま移動というワケにはいかんし』


「そこまで遠いと魔力消費もスゲェしな」


「ぶ、ブルクシード王国からわざわざ……本当に有難うございます」


 慌ててお礼を言ったのは、サファリス国第一騎士団副団長のセイスティン・フォン・ビューベルトだ。


「ちなみに、イディオスもラーヤナ国からだぞ。こっちは余裕があるから二、三日は大丈夫だけど」


『アルのおかげでな。わしも優秀な助手が欲しいぞ』


「中々難しいんだって。イディオスの助手だってかなーり手がかかってるだろ。カーマインの所と環境も違うしさ。範囲広いから飛べねぇとどうしようもねぇし」


 幸い、と言っていいか分からないが、シヴァがマスターのダンジョンがたくさんあるので、各ダンジョンを見張り、神獣と眷属と助手のみが使える転移システムを構築すれば、と計画中である。遠距離移動が短時間なら、その分、何かと余裕が出来るので。


「アル殿、神獣様に協力してるの?」


「おう。お役目で遊びにも行けねぇのが可哀想だから。で、持ち場だったカルメ国にいねぇ神獣のホワイトタイガーを探してるんだけど、誰か知らねぇ?転移トラップみてぇなのでふっ飛ばされてる可能性が濃厚なんで、どこにいてもおかしくねぇんだけど」


 ついで、とばかりにアル(分身)が訊いたが、誰もが首を横に振った。

 探しものの遭遇率がアップのハズなのだが、ホワイトタイガーは中々難易度が高いようだ。


 そこで、アカネが何か思い付いたらしく、シヴァとアカネとカーマインだけを包んだ防音結界を張った。イディオスは子供たちとくっついてるので除いたらしい。


「ねぇねぇ、シヴァ。ふと思ったんだけど、水竜がこっちに来たのって縄張り争いの可能性が高いんだよね?もし、ホワイトタイガーがドラゴンの巣に転移、もしくは近くに転移してたら……」


「ねぇな。いなくなったのが分かったのはもう二ヶ月も前だぞ。下位水竜が流れて来て大雨を引き起こしたのは一週間ぐらい前」


「時期がおかしいのは分かってるよ。でも、次元の狭間はざまとかの別空間にいた、もしくは時間の流れが違う別の世界に飛ばされて帰って来たのが、一週間ぐらい前なら?シヴァの探しものの遭遇率が高くなる称号もあるのに、これだけ見付からないのも妙だし」


「そう考えると、可能性はあるか。幸運Aのアカネの直感カンだし。でも、ホワイトタイガーは転移が使えるのに…転移ポイントがなくても目に見える範囲を繰り返せばいいのに、それも出来ない程、弱ってるのか魔力を消費しているのかも?食後に見て来よう。国内までは転移ポイントを置いてもらってるし」


 カウラナ王国の【ドラゴンの巣】の様子が気になるので、後で見に行こうとは思っていたので、今になっただけだ。


『わしが乗せて行こうか?』


「いや、いい。騎竜があるから気持ちだけで。カーマインはこっちの復興をよろしく頼む。別にドラゴンたちに喧嘩を売りに行くワケじゃなく、隠蔽かけてちょっと見て来るだけだしな。ホワイトタイガーが何か勘違いして襲いかかって来ても、適当にいなして影収納に入れるだけだし」


『…シヴァにかかると神獣も子猫扱いよの。それだけ隔絶した力もあるが』


「平和主義なんで。地形が変わると方々にも迷惑だし」


 では、とシヴァは分身たちとコアバタたちに通信バングルで連絡しておいた。

 テレストには色々とツッコミを入れられそうなので、アル(分身)から話してもらうことにする。


 七人がシヴァと似ているのは人工生命体…ホムンクルスだからで、マジックアイテムで認識阻害をかけているのと、記憶の共有をしているから尚更似て見える、アル(分身)は【変幻】魔法をかけているからだ、と。


 どこまで信じるか見ものだ。影分身よりは信じ易いだろう。

 影魔法については使える者が少なく、信憑性が薄いからか、その存在だけで、どんな魔法が使えてどんな特徴なのかといった詳細はどの文献にも載っていないのだから。



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新作✩「番外編26 文字は縁(えにし)を結ぶもの?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666433475345


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