119 汗顔の至りです

「そうだよね。…そういえば、テレストさんはエイブル国の王様たちの説得に成功したの?」


「反対してるのは貴族で王様じゃねぇよ。物資提供はすると思うけど、連絡ねぇな」


 では、こちらから、とシヴァはテレストに連絡してみた。


【もう!グダグダの会議で腹立ったわ!】


 先程まで会議で紛糾していたらしい。


「で、規模は小さいけど、一応は救援隊を送ることになった?」


【そうよ!たった三十人よ。アタシも含めてね。どこかで見ていたの?】


「まさか。確率の高い予想。そんなグダグダ会議なんか見たくねぇし、仲間もほとんどがこっちにいるし。…じゃ、アルを迎えに行かせる」


【…別人のように言うけど、あなた、誰よ?】


「シヴァ。ま、こっちに来れば分かる。救援隊と物資は王宮の中庭にでも集めといてくれ。三十分後に行かせるから」


【分かったわ】


 通話を切ると、シヴァは分身アルに連絡し、迎えに行かせた。

 イディオスにはこちらに戻るよう伝えてもらう。神獣の移動速度なら大した距離じゃない。


「ってことで、休憩は終わりだな」


 みんな、とっくに食べ終わってるのでさっさと片付けて、ドームハウスから出て、ドームハウスもカプセルにしまった。

 お昼の支度を炊事場でそろそろしているので、伝えておく。


「今からエイブル国の救援隊が来るから三十人分追加になるが、それはこちらで作る」


 ポトフとパンなのでもう一鍋作るだけだ。

 シヴァは魔力温存し、普通に包丁で材料を刻み、料理を作って行くと、アカネ以外の周囲の人たちに驚かれた。


「て、手際いいですね…」


「シヴァはわたしより料理上手だよ、元から」


 朝食でアカネの料理の腕は披露している。シヴァは各地を回り、作り置きの炊き出しを配っていた。

 全部の避難所、仮設住宅で同じ料理、というワケには行かないし、料理が出来る人ばかりでもないので。

 ラーヤナ国から助っ人が来たおかげで、料理が出来る人や料理人を満遍なく配置出来たので、お昼からどこも作ることになったワケである。

 作り置き炊き出しばかりに頼られているのも困るので、いい傾向だった。


 まぁ、パンは配る必要があるが、徐々に自分たちで作れるようになればいい。

 簡単に炊ける、茹でられる、日持ちもする米や乾燥パスタも増やして行こう。王宮から料理人も来ているので、料理指導もしてもらえばいい。


 アカネは分身たちを手伝い、パンを配りに各地へ。

 影転移と空も飛べるマロンが使えるだけに、身軽なのである。今回はカーマインが顔見せも兼ねて、アカネを乗せて行ったが。


 ******


 炊き出しが始まった頃に、アル(分身)が到着した。

 王都ティサーフからセプルーの街まではバイクで空を飛んで来た。魔力タンクがあればこそ、だ。


「おう、ご苦労さん。…タスキは?」


「まず、そこ?恥ずかしいから外したって。メシ食いながら、交友を温める感じ?」


「そ。…コアバタたち、適当な所にテーブルと椅子出して。三十人座れるように」


 大人数が座れる程の、テーブルと椅子をシヴァは収納してないので、コアバタに頼む。

 了解、と念話で承諾すると、すぐに空いてる場所にテーブルを椅子が並んだ。

 その側にシヴァが六人掛けのアウトドアテーブルセットを出す。

 分身アルは影収納からエイブル国の救援隊を椅子に座らせて出し、【スリープ】を解除して起こす。

 テレストだけは六人掛けの方だ。


「サファリス国セプルーの街へようこそ。わたしは第一騎士団副団長を拝命しているセイスティン・フォン・ビューベルトです。ここまでよく来てくれました。有難うございます」


 そう言ったのは、本当にビューベルトだ。

 配膳を手伝っていたので、ちょうどいい、と連れて来たのである。

 他国人のシヴァやアルが言うのもおかしな話なので。


「あ、いえ、とんでもない。こんな小規模な救援隊になってしまい、汗顔の至りです」


 答えたのは、ハイネだった。王様がリーダーに推薦したのかもしれない。

 エイブル国は三十人ということは小隊ということなのだろう。

 分隊の人数が七~十人なら、四つ分だ。シヴァたちの故郷の世界の現代の軍隊ならば。書物によると、そんなに変わってないハズだ。

 ラーヤナ国が送って来た救援隊は220人。中隊(200人)+20人は世話係という感じだろうか。


 ちなみに、サファリス国の王宮から連れて来た人数も200人ぐらいだ。

 ハイネは分身アルからそれを聞いたのかもしれない。本当に汗をかいていた。


「いえ、恐縮なさらずに。急なことで人数を揃えるのも大変だったでしょうし、移動手段も何ですし…」


 影転移や影収納について「はぁ?」と言っていたビューベルトなので、おくす気持ちも分かる、なのだろう。


「フォローして頂いて何ですが、アル殿のせいで影転移は見慣れているんですよ。お恥ずかしい話、アル殿は自由気ままに王宮に出入りしているものですから。いえ、助かることも多いのですが、そうじゃないこともしばしばで…」


「ハイネさん、正直過ぎだろ」


「元凶がそうおっしゃらないで頂きたい。アル殿ならば遠い国に連れて行かれてそのままにされるかも、という不安があるからこそ、救援隊も少なくなってしまったワケで」


「ラーヤナ国だと喜んで、だったのにさぁ。シヴァが説得に行けば?」


「魔力節約中だ。往復にかかる魔力で畑を一つでも多く作った方が余程建設的だろ」


「それな。ま、物資だけはたっぷり出させればいっか。人手は国内からも募るだろうし…何だよ?テレスト」


「…混乱中よ」


 シヴァの分身もうろついているし、イディオスは撫でられまくっているし、でそれはもうさぞ混乱していることだろう。認識阻害仮面を着けていても…着けているからか。


「まぁ、ともかく、周囲を見て頂いたら分かるかと思いますが、SSランク冒険者のシヴァ殿方や神獣様方のおかげで、もうそこそこ復興して来ております。しかし、まだこの辺りだけで被害の傷跡が酷い地域はまだまだたくさんあります。ご尽力頂けたら幸いです」


 ビューベルトがキレイにまとめた。


「こちらこそ、微力ながらお手伝いさせて頂きます」


「では、食事しながら今後のことを話しましょう」


 エイブル国救援隊にも配膳され、取りまとめている役人も来て、食事が始まった。

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