118 前に無理して倒れたことがあるからね
【シヴァ、今どこ?】
そこに、アカネから通信が入った。
「セプルーの街。新しく作った公衆浴場側のドームハウスの中」
【ちゃんと休憩してるってことだよね?】
「ああ。来るか?カーマインと一緒だ」
【じゃ、わたしも休憩しよっと。転移使わなくていいからね!】
「はいはい」
アカネは影転移を使ったらしく、領主の館にいたハズなのに、かなり早く到着した。
アカネは出入り自由なので普通に入って来る。
「あ、本当に休憩してた。よかった」
『本当に信用がないのぉ』
「故郷の世界でのことだけど、シヴァ、前に無理して倒れたことがあるからね。どれだけ驚いたか」
「…ということでした。アカネは何食べる?」
「パフェがいいなぁ。でも、もうすぐお昼だから小さめで」
「色々食べたい気分ってことだな。了解」
シヴァはアカネ希望の小さめのパフェをさっと作って出した。
アカネの食べる場所は、シヴァたちもくつろいでいるパッチワークソファーで、シヴァの隣である。アカネの飲み物は紅茶で。
「王族の宿舎の準備は出来た?」
美味しそうに食べるアカネに、シヴァはそう訊いてみた。
「だいたいね。侍女はどうするかって話になってるけど、一緒に来てるみたいだから任せたらいいのに」
「いらねぇんじゃねぇの。一通り自分でやれるタイプの王族みたいだし。分身からの報告でも」
『ほう、それはマトモな王族だな』
「王族は元々評判いいみたいだよ。変に威張り腐った貴族はやっぱりいるけどね。だから、際立つっていうか…」
「引き立て役ってことだな」
「そうそう、それ。王様たちも領主の館に来たけど、色々決断して動かないとならなかったのに、現場の人間が処罰覚悟で動いても、ほとんど何もやらなかった領主、説教されて小さくなってた。領主交替だって」
「そりゃそうだろうなぁ。現場の人間に優秀な奴がいなかったら、もっと酷いことになってただろうし、被災者たちがそのまま領主を討ち取って、内乱一直線だっただろうな。餓死するよりマシだし」
「そこは宰相も指摘してた。冒険者ギルド、商業ギルドに現状を伝えて助力を願ったのも現場のお役人だったそうだしね。だから、王都まで情報が届いていたし、早馬も何組か出てたワケ。水竜情報は王様やわたしたちに届く前に、シヴァから聞いたそうだけど」
『現場の人間がそうも優秀だからこそ、ぼんくら領主が配属されていたんじゃないか?』
「そうかもなぁ。二番目とはいえ、大きい穀倉地帯だし、現状維持が出来る領主ならよかったワケで。非常事態に弱いのはまぁ、情状酌量の余地は…いや、ねぇな。自信がねぇなら、優秀な人間に色んな権限渡して任せればよかったんだし」
「だよねぇ。欲を言えば、水竜を目撃した時点で冒険者ギルドに伝えていれば、もっと被害を抑えられたかも、だけど、かなりの高度にいたから討伐出来たかどうか。飛べる魔法使い自体、少ないみたいだし、遠距離の攻撃手段も同じく」
「あの映像見せたら、アカネ、Sランク認定されるんじゃねぇの?」
「えー?かなりのズルじゃん。超強力な武器があってこそ、だし」
『それでも、飛べる人間が少ないし、強力な武器を手に入れられるのも実力のうちでいいと思うぞ』
「そうかもしれないけど、面倒なことになりそうだから、Sランク認定は別にいらないなぁ」
「英雄様だな!」
「じゃ、ここまで復興したシヴァは救世主様になっちゃうよ?」
「……逃げような、その時は」
「そうだね。影に潜れば追いかけて来れないワケだし」
隠蔽だけだと、実体はあるからだろう。見抜く者もいる。
『別に素直に称賛されとけばいいだろ。何故、嫌がるのか分からんな』
「褒美や感謝が欲しいワケじゃねぇんだよ」
「やりたいことをやっただけで、
「それは分かり易い例え」
『…そんな感覚なワケか。異世界人だからか?』
「それはあるんじゃないかな。シヴァの周辺だけは殺伐としてたけど、まぁ、一般的には異世界でも特に平和な国育ちだからね」
「幸せ者の余裕というのはあるだろうな。おれは元々、弱者を助ける仕事をしてたし。トラブル三昧の日々を送っていただけに、色んなノウハウを持ってるから」
『なんだ。やってることはあまり変わっとらんのか』
「こっちの方が単純だな。目には目を、が認められてるし、正当防衛も基準が緩いし、腕力に訴えるのも普通だし。何でも良し悪しではあるけどな」
こちらはどの国も大ざっぱな法律しかないので、それで割を食う人も出て来るワケで。
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関連話「鬼の霍乱(ONI NO KAKURAN)」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330664024175047
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