108 武士か!
エイブル国アリョーシャダンジョンのコア、アーコは抜かりなく、使い魔のレイスに頼んで王都にも転移ポイントを置いてくれている。
国王及び暇そうな貴族たちを連れて来るのは明日だ。
その前に避難所ごとに焚き火をし、木々を乾燥させて薪を積み、炊き出しを配る。夕食は栄養満点の芋煮汁と丸パンだ。この辺りはパン文化なので。合わないといったことはない。
「失礼。シヴァ殿ですかな?…え、違う?」
分身に声をかけている副団長に、分身が役人たちに夕食を配っているシヴァ本体を教えた。
「おう、おれがシヴァだ。妻から聞いてる。第一騎士団副団長、王都からここまで苦労したようだな」
「とんでもない。現地の民に比べたらささやかなものです。わたしは第一騎士団副団長を拝命しているセイスティン・フォン・ビューベルトと申す。シヴァ殿、このたびは
お礼なんか別に期待してないが、そう言えば疑心暗鬼になるので、スルー。
「一つ抜けてるぞ。この大雨を引き起こした元凶、水竜三匹の討伐、が抜けてる。討伐したのはおれじゃなく、妻だが」
「……す、水竜ですと?」
「下位種だがな。かなり高い所にいたから、普通の冒険者では討伐に苦労したことだろう。妻は飛べるんで。たまに高度を落として狩りをしていて水竜自体の目撃は結構されているから、色んな人に聞いてみるといい。水竜の死体が見たいのなら後で見せてやる。食事時に出すのも無粋だからな」
「…は、はぁ。水竜の仕業でしたか……。過去に何度かありましたが、もう何十年とそういったことはなかったのですが…」
竜は飛べるのでサファリス国に何度も迷惑をかけていたらしい。
同じくカウラナ王国と隣接しているエイブル国で、そういった例を聞かないのは、国境が壁のように高い山が連なっていることが理由だろう。
細い谷間の道はあるが、難所も多く、避ければかなりの迂回を余儀なくされる。それに、竜だけじゃなく、他の大型魔物の住処もあって危険度も高く、交易するメリットもないので、カウラナ王国との交流はほとんどない。
サファリス国との国境も山があるが、そこまで高い山ではないのだ。いくら飛べる竜でも、簡単に越えられる所の方へ行くものである。
「明日にはラーヤナ国から救援隊が来る。エイブル国も交渉中だから近々支援はあるだろう」
「え、救援隊ですか?明日?」
「おれが連れて来る。影転移を繰り返せば長距離移動も短時間で可能だ。魔力はかなり使うが、解決策はある。だから、このサファリス国の国王一行も王都からここに連れて来よう。王が駆け付けたとなれば、民の士気も上がるというもの。ビューベルト殿は国家存亡の危機だという認識はあるか?」
「もちろんです!これからどんどん寒くなるというのに、衣食住を失ってしまった人たちが大勢、しかも、収穫時期だった田畑は見るも無残な状況。各国に支援して頂いても今年の冬が越せるかどうか」
「そうだ。貴族に財産と食料を吐き出させるにしても、対応を間違えば国全体が飢えることになる。ここで税金で食わせてもらってる王族や貴族が働かなくてどうする。他国人のおれたちが中心になって動いて助けてしまうと、民の王侯貴族不審が大きくなり、ひいては内乱の種ともなり兼ねない」
「ごもっともです。しかし、今、シヴァ殿方に手を引かれてしまうと、まったく立ち行かなくなってしまいますし…」
「体裁が必要、という話だ。国王に救援要請依頼をされて動いているのと、要請もないのに善意で駆け付けて来て動いているのとでは、まったく印象が違うだろう?こちらは体裁なんかどうでもいい。おれたちが好き勝手やってるのは全部国王に依頼されたから、ということにしとけばいいだけだ。ちゃんと後で借りは返してもらう」
「ですが、それではあまりにシヴァ殿方にメリットがないのではないでしょうか?こんな状況ではSSランク冒険者に見合う報酬も用意出来ませんし、提供していただいている物資や食料もかなり大量で…」
「別に今すぐ請求するワケじゃない。足りん分は将来払いでツケとこう。ま、ビューベルト殿は、いきなり連れて来られて騒ぐ王族や貴族たちのなだめ方を考えておいてくれ。夕食を食べながらでも」
ビューベルトの部下が芋煮の椀を両手に持ち、ウロウロしていたので、片方はビューベルトの分だろう。
「あ…かたじけない」
武士か!
シヴァは思わず笑ってしまった。
異世界語変換、たまに変なヒネリを利かせてくれる。
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新作☆「番外編25 文字は縁(えにし)を繋ぐもの」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666240462061
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