107 物質化している脳内会議のようなもの

 何にしても救助隊も物資も明日以降だ。

 シヴァたちがサファリス国に転移して来たのが三時過ぎ。秋の今だと暗くなる時間は五時半頃だろうう。

 現在、晴れて来て空が明るくはなったが、もうすぐ五時。日はかなり陰って来ている。

 暗くなるまで時間との勝負だった。


 シヴァたちは夜目が利くし、魔法で光の玉を出す【ライト】も使えるが、大半の人間はそうじゃないし、暗くなると不安に思うものだし、気温も下がる。

 仮設住宅はさり気なく断熱結界を使ってあるが、換気口は必要なのでそこまで密閉されているワケでもない。

 寒さが厳しくなれば、防寒具や暖房の類は必要になるだろう。


 日本の真ん中ぐらいの気候で言えば、今は十月の終わり頃から十一月の頭ぐらいの気温だ。日によって気温はバラ付きがある。

 避難民たちを全員、仮設住宅に放り込むのは時間がかかりそうだが、避難所天幕やトイレは設置出来るし、その周辺を整えるぐらいは出来るだろう。


「ゼロ。温泉発見。掘削くっさく許可取るより、偶然、噴出したことにしようぜ」


 新しく井戸を掘っていた分身の一人、『ロー』がそんな報告と提案をした。

 一番被害が酷かったセプルーの街から南にある、デルディーンの街でのことだ。


「名案だ」


 分身もシヴァ。

 分担作業は無茶苦茶効率的で、温泉を掘る者、パイプを作る者、岩風呂を作る者、囲いを作る者、内風呂とシャワーを作る者、男女を隔てる塀、脱衣所、トイレ、備品を作る者、とスムーズに手分けして手際よく作業し、三十分程で立派な公衆浴場が完成した。

 井戸掘り作業もちゃんと終わらせてある。


 ここまで水分補給程度で休憩なしに働いて来たシヴァたちなので、休憩がてら一番風呂を頂くことにした。

 アカネも誘ったが八人もシヴァがいると、さすがにヤバイと思ったらしく、後で、と役人との話し合いに行った。


「まぁまぁ、何とかなったか」


「まぁまぁ、な」


 手遅れで何十人か死者が出ていた。

 遺体を発見しただけでその数なので、流された人たちや土砂に埋まってる人たちはもっと多いことだろう。


 どこの誰か分かった方がいいのは確かだが、一部でもあればシヴァの鑑定様なら鑑定が出来るのでリストは作っていた。

 パンパンに膨れた水死体や土砂災害で潰れた死体なんて生前の面影なんかまったくなく、持ち物も流されたり埋まったりしてしまっているので、遺族に遺体を返す必要はないだろう。

 丁重に焼却処理した。


 魔物の死体もかなり出ている。

 放置すれば、病原菌の温床になるだけじゃなく、異世界だとアンデッドになってしまう。

 しかし、深く埋まっていれば、もし、アンデッドになったとしても出て来れないので後回しだ。


「ラーヤナ国へ行ったアルは呼び戻さねぇのか?明日までやることないだろ。対外的には」


「確かに」


 シヴァはアルに化けさせた分身を呼び戻して記憶を共有すると、温泉を勧めた。ご苦労だったので、すぐ分身を解くのも可哀想だ。


「キエンダンジョンの温泉と成分が違うな。これはこれでいい」


「地盤が全然違うしな」


「ロクな情報入手手段がない中、言っちゃ何だけど、国は上の判断と行動が遅過ぎだな」


「冒険者、商業ギルドは独立性が高いからか、ギルマスの判断でさっさと動いてるけどな」


 早馬を出したのは冒険者・商業ギルド合同だった。

 通信魔道具で連絡はしてあるものの、各所への交渉には出向かないと、中々動かないし、早馬が出たことでサファリス国の深刻な状況に気付く人が増えれば、救援や支援をしてくれる人も出るだろう、と。

 正にその通りだったワケだ。


「まぁ、後から来る連中は復興に役立てばいいんじゃねぇの」


「…あれ?そういや、川の魔物で大物がいたか?」


「残骸なら見た。多分、水竜や他の魔物が食ったな」


「それと、流された人間を追って行ったんだろ」


 魔物にとって、大半は戦闘力がない動きが鈍い人間はご馳走だから。

 弱肉強食なのは仕方ない。


「復興の方が大変だよな。長時間、水に浸った畑の作物が枯れる。根が呼吸出来ないからだっけ?」


「確か、そう。酸素を送る薬が開発されてたハズだが…ポーション振りまけば何とかなる、か?」


「ポーションを作り直せば?植物元気になれ~って思いながら」


「そっちの方が効果ありそうだな」


「ヒールは?」


「植物に効くか?そう思っちまってる時点で効果は薄い。…アカネなら大丈夫かも」


「コアたちの超促成栽培が利用出来ないかどうか、訊いてみようぜ」


「新しく植物に効く魔法を開発するという手もある」


「確かに」 


「何でも試してみるか」


「魔力足りてるのか?」


「オーブのおかげで何とか」


「そろそろ、夕食の準備しねぇと」


「もうひと頑張りするか」


 そんな風にシヴァは分身たちと話し合って段取りを整理した。

 物質化している脳内会議のようなものだ。

 そうのんびりしていられないので、早々に温泉から上がると、乾かすと同時に【チェンジ】でさっと着替え、それぞれ分担して散らばった。

 忘れず、認識阻害仮面も着けて。


 ******


「シヴァ、王都から来た第一騎士団副団長が挨拶したいって」


 一番被害が酷かったサファリス国西部、セプルーの街にシヴァが戻ると、役人と協力して色々と動いていたアカネがそう伝えて来た。


「救援物資を持って騎士団を連れて来たのか?それとも、調査隊?」


「後者。こちら程でもないようだけど、大雨は王都の方でも降ってて川ルートは使えないし、街道は崖崩れしている所もあったし、でかなり苦労したみたいよ」


「王都の被害はそう出てねぇんなら、王都から復興支援隊を連れて来るか。明日にはラーヤナ国からも来るとはいえ、ここまで広範囲だと人が足りん」


「問答無用で王様を連れて来て、陣頭指揮を取ってもらったら?収穫時期にこの災害で、このまま寒くなったら何千人と死ぬよ。国家存亡の危機。わたしたちでは動かせない人たちも多いし」


 思い切りがいいのがアカネである。

 そうじゃなければ、トラブル三昧な旦那だと承知で結婚していない。当然、愛があるのは前提で。


「さすが、アカネ。名案!サファリス国民ですらない部外者が、そう手出しするのも筋違いだしな。現場見てもらわねぇことには実感も薄いだろうし、各国に支援を要請するにしても必死さが違って来る」


 エイブル国アリョーシャダンジョンのコア、アーコは抜かりなく、使い魔のレイスに頼んで王都にも転移ポイントを置いてくれている。

 国王及び暇そうな貴族たちを連れて来るのは明日だ。



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NEW*地図作成しました!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16817330665952231219

新作☆「番外編25 文字は縁(えにし)を繋ぐもの」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666240462061


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