106 ハゲ散らかす呪いの練習がしたい!
【アル殿、今いい?】
違う場所でシヴァたちが川の堤防を作ってると、テレストから通信バングルを使って連絡があった。
『シヴァだ。貴族がごちゃごちゃ言って救援隊派遣に反対してるっていう話か?』
【そうよ。今から行ってもどうせ間に合わないって消極的。強制的に連れて行っちゃえば?】
『働かんのを連れて行ってもな。今は少しでも魔力が惜しい。大半の救助はしたから救援じゃなく、復興支援でいいぞ。金と支援物資だけでも出せ、と』
【…え?いくらシヴァ殿でも早過ぎない?どんな奥の手を使ったのよ】
『やはり、下位水竜が三匹もいて雨を降らしてたんで、ドラゴンスレイヤー様がさくっと仕留めた。雨がやむだけでも救助活動は段違いだからな。後は文化レベルが高い異世界出身だから、災害救助、復興支援の知識があり、仲間たちも有能で統率も取れてるから効率がいい』
【それにしたって早いわよ。水竜が三匹もいたんなら大雨って結構な広範囲でしょ?…って、シヴァ殿じゃないなら誰が倒したの?】
『アカネ』
【……シヴァ殿、奥さんをどれだけ鍛えてるのよ…】
『おれは装備を整えてある程度鍛えただけだぞ。ダンジョンをソロ攻略出来る程、頑張ったのは本人の意志と努力だ。おかげで大いに助かってる。…テレスト、今、王宮か?』
【そうよ】
『反対している貴族たちの前に行くことは?』
【出来るけど、何やるのよ?】
『水竜の首を送り付ける』
【ちょっ!ヤダ、やめてよね!いくら高い素材だからって……あ、そんなメリットがあるってアピールするってこと?】
『いや、嫌がらせ』
【やめてよ!そんなことで魔力使うの】
『じゃ、『後ほど、SSランク冒険者が狭量でケチ臭い貴族たちの顔を、見物に行く』と伝えとけ』
【…脅すワケね】
『見に行くだけで?ハゲ散らかす呪いの練習がしたいから、ちょうどいいかと思っただけなのに』
実験台に。やり方は聞いてるのに、中々試せないので。
【……そんな恐ろしい呪いを練習しないでくれる?】
『ハゲても別にいいじゃねぇかよ。渋くてよくね?』
【…シヴァ殿、あなた美形のクセにどれだけ頓着してないのよ…】
『どうでもいい、そんなの。で、王様は支援に反対してねぇだろ。『明日は我が身』ってのはよく分かってるだろうから』
【まぁね。王様の一存だけでは中々
『分かってる。じゃ、王様に言っといて。『ラーヤナ国国王、及び貴族たちはあっさり金も物資も人も出したぜ。器が違うな』って』
事実を教えて煽ってみる。
ラーヤナ国国王は弱腰な所もあったが、こういった緊急時の判断は本当に早かったのだ。
にゃーこや店長のアル(分身)直々の要請ということも後押ししたにしろ、文句を言う貴族たちを説き伏せたのは確かである。
上の判断が早いと部下たちも早々に動け、今、分身は物資と人が揃うのを待っている所だった。
【…隣の隣の国が救援隊出してるのに、隣の国が出さないって、かなり外聞の悪いことにもなるわね。分かったわ。伝えておくけど、長距離転移が出来るのは伏せておくんじゃないの?】
『ああ。だが、アルもシヴァも影転移出来ることは伏せてねぇし、繰り返せば長距離高速移動が本当に出来るから、それで説得してくれ。実際は眠らせて生き物も入る影収納に入れて移動する。その方が魔力消費も少ねぇしな。おれ…SSランク冒険者のシヴァが動いてるから、騎竜で運んでくれる、と言ってもいいぞ。大きくすれば三十人ぐらいなら余裕で乗れるし、実際、乗せてから眠らせればいいだけだ』
【でも、それだとアル殿が動いてないのは不思議に思われない?】
『とうに動いてるって。ラーヤナ国に救援隊要請したのはアルだ。ちょっとした裏技で二人同時に人前に出ることも出来るんだよ。もちろん、制限はあるけどな。アルは今、物資と人が揃うのを待ってる所』
【…ちょっとした裏技、じゃないでしょ、それ。まぁ、問題ないのならいいわ。アタシも救援隊に加わるつもりだけど、何か問題ある?獣人差別が酷いとか怖がられるとか】
『それ所じゃねぇから平気だろ。おれらなんて拝まれてるぜ』
【……相当、派手にやったみたいね】
『ここで出し惜しみしてどうする。仲間たちのツッコミは入れるなよ。最大戦力にして最高の生産能力を持つ奴らばかりだから。おれ並、それ以上にな』
コアバタは制限されるにしても、コアたちはそれ以上、だ。
どんなんなのよ、とテレストは言いたかっただろうが、グッと飲み込んだようだ。
【分かったわ。忙しい所、悪かったわね。後でまた連絡する】
『おう、よろしく』
何にしても救助隊も物資も明日以降だ。
シヴァたちがサファリス国に転移して来たのが三時過ぎ。秋の今だと暗くなる時間は五時半頃だろう。
現在、晴れて来て空が明るくはなったが、もうすぐ五時。日はかなり陰って来ている。
暗くなるまで時間との勝負だった。
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