101 読み書き出来ない冒険者募集!

 アルに化けてやって来ましたエレナーダ冒険者ギルド。


「依頼を出したい。『文字の読み書きが出来ない冒険者限定依頼』定員三十人。理由は『覚え易い教科書作成のため』。この場合の依頼料ってどのぐらい?」 


「…あーええっと、具体的に何をしてもらう依頼でしょうか?」


 依頼申込用紙を渡してくれながら、受付嬢がそう訊く。


「こちらの出す教材を使って勉強してもらい、改善点を指摘して欲しい。教材はそのまま渡すし、本人の努力次第で文字を覚えられるから、昼食ぐらいでいいかと思わなくもなく。場所はギルドの会議室とか訓練場とか借りられれば、そこでいいし、ダメなら商業ギルドでそういったことに使える場所を聞いて借りる」


 アルは依頼申込用紙を書きつつ、答えた。


「…え?アル様にメリットありますか?」


「当然。今度、その教科書を売りに出すから。知ってるか?初等学校の教科書が超分かり難いって悪評判なんだけど、大人のしがらみで変えらねぇそうだから、じゃ、新しく分かり易いのを出してやろうってことで。自動販売魔道具で売るから…」


「ちょ、ちょっと待って下さい!アル様って『こおりやさん』の関係者…」


「店長。屋号『にゃーこや』にした。『にゃーこやのこおりやさん』『にゃーこやのカップらーめんやさん』ってことだな。文字が読めねぇ連中が多いとこっちも不便なんだよ。教科書だけじゃなく、料理レシピの冊子も売るし。カップラーメンは食材不足でしばらく、多くは出せねぇし、ラーメンやスープのレシピはとうに商業ギルドに登録してあるって、知らねぇ人も多いんで」


 話していて屋号の変更をするのを忘れていたのに気付いた。

 『こおりやさん(暫定)』のままでも営業が出来たので。『カップらーめんやさん』もそのままだった。後で行くか。


「そうですか。それなら、お昼ぐらいで…新しい料理の試食とかはやりませんか?」


「そっちは間に合ってるんで。今もダンジョン内で『どんぶりやさん』をやってるし」


「…へ?ダンジョン内ですか?」


「あ、まだ情報来てねぇのか。セーフティルーム及びセーフティスペースに、自動販売魔道具を設置すると、ダンジョンに飲み込まれるかどうか、と実験中なんだよ。ついでに、『どんぶりやさん』をやってるだけで。大丈夫ならダンジョン下層に、カップラーメンの自動販売魔道具を設置する予定」


「…何で下層に…」


「一番、需要が高いし、数が出せねぇから。下層に潜る冒険者が増えれば、ドロップも増えてギルドだって儲かるだろ。何度だって潜れば、鍛えられるから攻略する人たちも増えるだろうし」


「まぁ、それはそうですが…」


「で、会議室か訓練場は借りられるのか?」


「あ、はい。明日、午前中なら会議室が空いてますので。二時間で銀貨5枚になりますが、よろしいでしょうか?」


「部屋料金で?」


「はい」


「安いな。そう借りる奴もいねぇのか。延長も出来る?」


「空いていれば」


「じゃ、押さえておこう。明日午前九時から一時までの四時間で、昼食が報酬ってことで。『読み書き出来ない』という条件に違反している冒険者がいた場合のペナルティは?」


「依頼失敗になり、違約金を払わせることが出来ます。いくらにしましょう?」


「金貨10枚でどう?」


「いいですね。それだけ高額なら嘘はつけませんし。自分の名前ぐらいは読める書ける、少しの単語は読める、は違反になりますか?」


「いいや。違反じゃない。それは限定の単語であって、文字を覚えてるワケじゃねぇからな。こうやって、話す言葉を書き出せないレベルなら条件を満たしている、ということで」


 限定単語だけ書ける、話す言葉を書き出せない、は可。

 アルは言いながら、依頼申込用紙に追記して、金貨3枚を添えて受付嬢に渡した。


「それは分かり易い基準ですね。…何故、3枚ですか?」


「会議室利用料だけじゃなく、依頼を出すとギルドの手数料が必要だろ。足りねぇ?」


 会議室利用料が金貨1枚、「ギルド手数料は金貨2枚ぐらい?三十人を集めてそれ以外の対応もするワケだし」という内訳だ。


「いえ、ええっと、この場合だと…少々お待ち下さい」


 手数料の相場に自信がなくなったらしく、受付嬢は依頼申込用紙を持って奥の上司に訊きに行った。


「手数料はお金より同じく昼食でもらったらどうだ?金貨2枚なら十人分ぐらいにはなるだろう。…争奪戦か。現在、職員は何人だった?」


「非常勤を合わせて三十四人だったかと。…さすがに、多過ぎですよ。こちらからお金払った方がいいのでは?冒険者たちと合わせたら六十四人です。作るだけでもかなり大変ですって」


「じゃ、数日に分けてというのは…」


「こらこら、金にしろって。キリがなくなるから」


 口を挟まない限り、料理払い確定になりそうなので、アルはさっさと口を挟んだ。


「…失礼しました。聞こえていましたか」


「ウチの料理が食いたけりゃ、エレナーダダンジョン33階、セーフティルームの実験休憩室へどうぞ。日替わり丼セットが銀貨2枚。今日は角煮丼とミネストローネ」


「…33階って…」


「浅い層なら混雑するに決まってるからな。エレナーダダンジョンなら5階ごとに転移魔法陣があるし、難易度的にもそう高くねぇから、もう、そこそこ客が入ってるよ。ランダム設置、期間時間未定」


 ほらほら、手続き、とアルが促して、手数料は結局、金貨1枚になった。

 普通の依頼の手数料より高めかもしれないが、『にゃーこや』の依頼となると殺到するだろうから、妥当な手数料だろう。

 じゃ、夕方にまた来る、とアルは言い置き、商業ギルド本部の側に影転移した。


 もうさほど混雑してない時間だからか、アルは受付職員に目敏く見付けられてしまい、すぐ応接室へ通された。担当のモートンがすぐに来る。


「お久しぶりでございます。今日はどういったご用件でしたか?」


 三十前後のモートンだが、成人し立てにしか見えないアルにも最初から至極丁寧な対応だ。


「屋号決めたから登録変更に。『にゃーこや』で」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 すぐに登録書類を持って来て、変更手続きをしてくれた。商業ギルドのギルドカードも、だ。これでよし。


「アル様、ダンジョンの方で『どんぶりやさん』を営業されているようですが、何故、33階だとこちらにも問い合わせが来ています」


「ダンジョン内は管轄外だって言った?」


「はい。それでも、問合せ先がないからか、こちらに。どうしましょう?」


「放っとけばいい。近々、料理レシピを含めた小冊子の自動販売魔道具を設置する。『自分で作れ』ってことだな。他には読み書き、計算」


「……え?もう『カップらーめんやさん』店舗は設置なさらないんですか?」


「食材不足で当分無理だし、もうあれだけ用意するのもしんどい。用意出来ても少しだけだから、ダンジョンの下層に設置したいワケ。これだけ手間と時間がかかってるんだ、ってのもあってさ。はい、小冊子見本」


 『料理レシピ1 にゃーこやの醤油ラーメンの作り方』だ。文庫本の半分のA7サイズ。動画から起こした写真なので、小冊子にするのも簡単だった。中華麺と醤油スープが載っているだけだが、工程が多いのでそれなりの厚さになった。

 アルの顔を広めたいワケじゃないので、そこは上手いこと編集してある。


「…何でこんな本物のような色が付けられてるんですか?リアルな絵ですし…」


 この世界、色の付いた印刷はあっても、フルカラーには程遠かった。


「写真と言う。ま、最先端技術だな。売値は銀貨1枚」


 このぐらいが妥当だろう。庶民にも手の届く額でもある。


「こんな上質の紙で安くありません?自動販売魔道具も新しく作るんでしょうし…」


「毎度のことだろ。でも、今回の自販はマジでローコストで作れる。何度か作るうちに効率的になってるし、マジックバッグの利用はなし。在庫がそのまま入ってる仕様」


「すぐ売り切れになりませんか?」


「小冊子だぜ?みんながみんな、欲しがるワケでもねぇし、予想より多いのなら何台も置けばいいんだって。売り切れになったからって、別にすぐ補充しなくてもいいんだしさ」


 その場合、人気の小冊子は他とは別にして、一台の自販にした方がいいだろう。


「それもそうですね」


 じゃ、しばらく後に、と見本の小冊子はそのまま渡して、アルは商業ギルドから出て、物陰からラーヤナ国王都フォボスの商業ギルドに転移した。

 本部という名前ではないが、統括しているのはフォボスの商業ギルドなので、こちらでも屋号の変更をしておく。小冊子の自販の件も料理レシピサンプルを渡して話しておいた。

 カルメ国とザイル国は…まぁ、いいか。しばらく、活動予定がないので。


 さて、小冊子用の自動販売魔道具を作るか、とアルは影の中でシヴァに戻ってから、キエンダンジョンの自宅に帰った。


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NEW*地図作成しました!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16817330665952231219

関連話「番外編25 文字は縁(えにし)を繋ぐもの」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666240462061



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