102 『どんぶりやさん』強制終了

 翌日。

 午前九時から『文字の読み書きが出来ない冒険者限定、教科書作成モニター』依頼は予定通り、スムーズに開催された。


 報酬の昼食はミンチ肉のカレーピラフ、ランニングバードの唐揚げ、野菜スープ付き。

 一人前ずつ紙製の折り詰めに入れ、野菜スープは紙カップに入れてから収納したので、盛り付ける手間もなし。

 報酬なので少し豪華だったが、冒険者たちはちゃんと真面目に勉強し、遠慮なく意見を言ってくれたおかげで多くの改善点が判明したので、用意したカイはあった。


 …まぁ、文字が覚えられて教科書や筆記用具や練習用の紙といった教材ももらえて、更に報酬までもらえる正に美味しい依頼、ということもあったのだろう。

 いくら、アルが教え慣れてるとはいえ、たどたどしいながらも、三十人全員が文章を読めるようになっているのは、元々意欲的だったおかげだ。


 昼食後、完成バージョンの教科書小冊子をキーコに用意してもらい、改めて参加者に配って終了。

 四時間も場所を取っても時間が余るかと思ったが、少しでも時間を無駄にするまい、と質問も相次ぎ、定番の手紙の書き方、出し方まで教えたので、結構ギリギリで濃密な時間だった。

 一時間ごとに休憩を入れたが、それすらも自習時間にしている冒険者ばかりで。

 ここまで意欲があると、今までは本当に勉強する機会も方法もなかったんだと不憫ふびんでもある。


 何でも国のせいにしたくはないが、民の教育にもっと力を入れて欲しいものだ。

 読み書き計算といった基本が出来なければ、人材が中々育たない。素の頭は悪くない人もたくさんいたのに、なんてもったいない。

 教科書作り勉強会の様子を入れて提案書でも書いて、宰相に提出するか。


 ******


 さて、今日もエレナーダダンジョン33階、パラゴダンジョン12階で『どんぶりやさん』を営業している。

 今日の日替わり丼セットはロコモコ丼と野菜スープだ。

 どちらも割と行き易い場所なので、どんどん客が増えて来た。ひと段落したら撤収するか。夜営業はなし。


 そう連絡してから、アルは外の立て看板は自販だけのものにもう変えておいた。

 明日も『どんぶりやさん』を営業するなら、もっと下層にするか…いや、三日間、実験したので、もう下層でカップラーメンの自動販売魔道具を本格設置してもいいのではないだろうか。


 ダンジョン用は自販のみで、まとめ買い対応はもうしない。

 本当にそこまで在庫の余裕はないので。

 ダンジョン内自販設置はエイブル国三ヶ所、ラーヤナ国三ヶ所の六ケ所のみ。

 他のダンジョンは冒険者が下層まで中々来ないのだ。自販設置よりも、まずダンジョン構成とドロップの見直し、である。徐々に変えて行ってる途中だった。


 小冊子の自動販売魔道具と小冊子の在庫は、今、コアたちが作成中だが、結界コーティング作業はアルにしか出来ないので、さっさとキエンダンジョンの自宅に帰った。シヴァに戻り、分身と手分けしても延々と作業しないとならない。


 防御は結界コーティング依存とはいえ、ローコストの厚紙製で大量生産し易いため、結構な数を用意したので。


 小冊子の自販はシヴァがマスターやってるダンジョン側の街に限らず、一つの街に三種類三台は置きたい所だ。識字率が低い貧民層が住む地域に設置したいが、文字が読めないのなら何か分からない。

 最初は冒険者ギルドに読み書き、計算、商業ギルドに料理レシピの自販を設置するのが妥当だろう。


【マスター。エーコです。『どんぶりやさん』に並ぶ行列がセーフティルームの外まであふれました。程なく他の冒険者たちも到着し、『どんぶりやさん』目的の冒険者はまだまだいるようです。他の階へ誘導するか、撤収するか、どうしますか?】 


「撤収。部屋から溢れてたんじゃ、セーフティの意味がねぇし、本末転倒だ。食べてる連中の食器は回収なし、席を立たせて椅子、ソファーセット、絨毯も回収。ゴミ箱だけ残して自販も回収。『セーフティルームとして機能しなくなる事態が発生したため、『どんぶりやさん』及び『実験休憩室』は今すぐ終了します』と事前にアナウンスしてから今すぐ撤収してくれ」


【かしこまりました。にゃーこたちはそちらへ転送します】


 エーコの念話と共に五匹のにゃーこたちが帰って来た。


「にゃ?」


 あれ?とにゃーこたちは少し戸惑っていた。


「セーフティルームから溢れる程、行列が出来て、更に集まって来てるんで『どんぶりやさん』は強制終了したワケ。カウンターやソファーがなく、行列じゃなくなれば、溢れた人間ぐらいは入れるからな。お疲れさん」


「にゃー!」


 シヴァ(本体)はにゃーこたちを撫でてねぎらってから隠蔽かけて、エレナーダダンジョン33階セーフティルーム側に転移した。


「どーゆーことだよっ!せっかく来たのに何にもねぇし!」


「そんなの、お前らが考えなしに大勢で押しかけて来たからだろ!」


「消え…た…え?…」


「…どんな魔法…いや、最初から幻影だった?」


「ちょっと押さないでよ!狭いんだから!」


「痩せろ、デブ!」


「何ですって?」


「バカ!こんなトコで魔法打つな!」


「痛いっつーの!足踏むな!」


「何だとっ?偉そうに…」


「おら、どけ!魔物、来てるぞ!」


 大騒ぎになり、人間同士の乱闘と魔物との戦闘が始まっていた。

 フォローするつもりだったシヴァはバカらしくなり、キエンダンジョンの自宅へ転移した。


 アカネもエレナーダダンジョンにいるが、もう51階以降のフィールドフロアへ行ってるので、巻き込まれる心配はまったくない。

 5階ずつ転移魔法陣があるエレナーダダンジョンのため、昨日、アカネはちゃんと帰って来ており、朝、再び潜っているのである。

 フィールドフロアはさすがに泊まりになるかもしれないので、食材をたっぷり補給して行ったのは言うまでもない。


 どんなダンジョンなのかは、アカネはシヴァの覚書を読んでいるし、マルチツールのタブレットに入れた【冒険の書】も読んでるので、知識も準備も問題ない。

 砂漠もアリョーシャダンジョン程、温度が高くなく、隠密系の手強い魔物もいないのでさほど過酷じゃなかった。

 アカネには対応装備だけじゃなく、寒暖に左右されない【妖精のペンダント】もあるので、全然平気だろう。



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